番外編1 アーカイブ1

第40話 【11月19日】シチュエーションボイス【花蜜はにー/虹】

「みなさん、こんばんは。花蜜かみつはにーです。今日も、みなさんを蜂蜜の世界にお連れしますね」


:はにーたん、今日も声がかわいい!!!!

:オレ、蜂蜜になりたい ¥5000


「おにいちゃん、おねえちゃん。いつもありがとね。

 今日は、ミルフィーユで募集していた、シチュエーションボイスを読んじゃうぞ~」


:はにーしか勝たん ¥10000

:昇天する準備はできた!!


「じゃあ、さっそく。まず、ひとつ目は――」


 僕はPCを操作し、ミルフィーユの投稿を配信画面に表示した。


『場所はスケートリンク。僕ははにーちゃんの足元に寝っ転がっている』


 いきなり変態なのを引いてしまった。


「まずは、状況からね。おにいちゃん、氷の上に寝そべってる。元気よし!」


 続きを読む。


『おにいちゃん、氷の上に寝てまで、はにーのパンツ見たいの?

 変態おち○ぽクソ野郎が、はにーのおにいちゃんなんて、地球が300回滅亡してもイヤ。

 いますぐ、煉獄の焔に焼かれて、ちり一つ残らず消えなさい。


 …………と思ったけれど。

 いいわ、見せてあげる。

 けどね、はにーのパンツは高いよ。


 一瞬でもパンツを拝んだら、最後。

 絶対零度のブリザードによって、背中が凍って、記憶もろとも吹き飛ぶわよ!


 えっ?

 それでもいいから、見たい?


 ヘンタイ、ヘンタイ、ヘンタイ!

 

 し、仕方ないわね』


 ものすごくイヤな顔をしながら、僕はスカートをたくし上げる。

 リアルの僕はズボンなので、アバターのだけれど。

 もちろん、パンツを見せてしまって、ワイチューブさんに怒られたくない。ギリギリ見えないところで止めた。


『どう? はにーのパンツは?』


 僕に罵倒される趣味はないけれど、男なので男のツボは心得ている。

 ツンとデレを巧みに計算し、イヤイヤ見せるけれど多少は感じてる雰囲気を出してみた。

 その結果――。


:いきなり、マニアックすぎてwww

:はにーたんに罵られるのもよきかな

:投稿者、先見の明ありすぎるやろ

:声豚をブヒらせる神降臨!


(うちのリスナーさん、良い人だけどヘンタイさん多いな)


「……いろいろとダメージを受けた気がするけれど、つぎ行ってみよぉ!」


『はにーちゃんはブランデーチョコを食べてしまった。はにーちゃんの顔は真っ赤になり、ゆらゆらと揺れている。

 あたしは、はにーちゃんの肩を抱いて、支える』


 僕、事故も含めてお酒は飲んだことはない。

 けれど、僕も元俳優志望。

 今はVTuberとして、演技しているつもりだ。


 これまで見てきたアニメを高速で思い出す。

 不注意で酔った系の美少女をイメージするのはたやすかった。


『おねえちゃん、ごめんね。はにーがダメダメで……』


 はにーは架空の姉に抱かれている。姉の体温や、柔らかさを感じる。

 はにーは姉に顔を向けた。姉の背は高く、上目遣いの形になる。


『はにー、わるい子でも…………みすてないでね』


 捨てられた子犬のような目をして、弱々しい声で、セリフを決める


:僕ははにーちゃんだけを愛する ¥50000

:はにーちゃん、晩酌配信しないの?

:悪用しないようにな


「あっ、はにーお酒飲めないんだぁ。あくまでも、お酒入りのチョコを食べたシチュエーションだからね」


:もしかして、未成年?

:お酒飲んだら清楚になるから禁止されてるかもよ

:清楚(意味深)


 変に情報を出したくないので、コメントは適当に無視して、ニコニコする。


「じゃあ、つぎ」


『僕、はにーちゃんと添い寝してます。なお、はにーちゃんの彼氏だからね。

 僕が寝つけないでいると、はにーちゃんがよしよししてくれます』


 これはイメージしやすい。

 ふだん、僕が詩楽にしているから。


『どうした?

 疲れた顔してるね。

 もっと、こっちにおいで。


 よしよし、がんばって、エラい、エラい。

 大変だよね、よしよし。

 あたしに甘えていいんだよ。


 大丈夫だよ~。

 はにーが寝るまで撫でてあげるからね。


 ぎゅ~、ぎゅ~

 ちゅっ。

 さわさわ。

 

 どう?

 少しは落ち着いた?


 ……まだなのね。

 いいよ、はにーの心音で癒やされてね』


 僕はエアー彼氏をイメージして、彼の耳を自分の胸に当てる。

 想像しただけで恥ずかしい。

 けれど、彼が愛おしくて、少しでも気が楽になってほしくて、一生懸命にご奉仕する。


『このまま、はにーの胸でおやすみ。

 ダイスキだからね~』


 演じ終わると、一気に疲れが出た。


:うぉぉぉっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ

:心音売ってくれぇぇ!!!!!!!! ¥50000

:ASMRやって

:GU100代 ¥50000


 今日一番の盛り上がりだった。

 なお、GU100はバイノーラルマイクで、100万円する高級マイクだ。ASMRを得意とするVTuber御用達の名機である。


「はにー、一生懸命にやってたら、疲れちゃったぁ」


:おつかれ

:良いもの見れたし、ゆっくり休んで

萌黄あかつき:どちゃしこ ¥50000

:あかつきもよう見とるわ


「……あかつき先輩、ウルチャありがとうございます」


 詩楽、僕にウルチャ送るのか?


「というわけで、花蜜はにーでした。よかったら、チャンネル登録、高評価お願いしますね。Please subscribe to my channnel! And if you like it, please thumbs up!」


 僕は配信を切った。

 疲れたけれど、みんなが喜んでくれて、気持ち良かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る