第39話 年末特番 ~ゆく虹くる虹~【#レインボウコネクト】

 大晦日の夜。

 21時にレインボウコネクトの公式チャンネルで、特別番組が始まった。


 最初の2時間は、1期生と2期生がメインだった。先輩たちはクイズ大会で盛り上がる。

 珍回答の連発だ。たとえば、『パンはパンでも食べられるパンは?』という意味不明な問題に対して、『花蜜はにーが1週間はきつづけたパンツ』みたいな。

 公式番組で堂々とセクハラするとか、ウケる。


 23時になり、僕と詩楽の出番がやってきた。それぞれの部屋からつないでいる。


 3期生と僕に対して、さくらアモーレさんが司会を務める。

 さっそく、アモーレさんがあかつきさんに話しかける。


『あかつきちゃん、今年の思い出を聞きたいんだけど、いいかな?』

『アモーレ先輩、大丈夫ですよ。ただし、清楚にかぎる』

『さす、あかつきちゃん、前フリがうまい』

『前フリじゃないですし』

『今年一番のパンツとの出会いは、いつ、どこでありましたか?』


 斜め上の攻め方だった。


『あたし、清楚って言いましたよね?』

『VTuberの世界では、清楚はエロなんだよぉぉっっっっっっっっっっっ!』


 アモーレさん。中身が美咲さんだけど、キャラがちがいすぎる。

 行動が予測不能なところは、共通しているかもしれない。


『あれは1ヶ月前。あたし、クリスマスに備えて、勝負下着を買いに行ったの』

『おっ、恋バナですね。お相手は?』

『あたし、魔法少女だし、男とは恋愛しない』

『男とは恋愛しないってことは、女子はOKなの?』

『女の子とはイチャラブしたいかな』


 あかつきさんは百合営業に逃げた。


 ところで、詩楽が勝負下着を買っただと?

 クリスマス用と聞いたけど、見せてもらってない。

 すごい気になる。


『そうなんだって……はにーちゃん?』

「へっ?」


 唐突に話を振られて、間の抜けた声が出てしまった。


『どったの?』

「ちょっと考えごとを……」

『ははぁ、あかつきちゃんの勝負下着を妄想したなぁ?』

「ノーコメントで」


 僕からの下ネタはNGだ。アモーレさんはマネージャでもあるし、わかってくれるはず。


『ところで、あかつきちゃんのライブなんだけどさぁ。はにーちゃんがピンチに現れて、かっこよかったぞ。はにーちゃんの株は急上昇さ』


 褒められて、安心していたら。


『というわけで、はにーちゃん。今年、どのパイオツが良かったですか?』


 アモーレさんが困った質問をしてきた。

(NGって、わかってないじゃん!)


「ノーコメントです」


 ゲームのNPCのように答える。


『アモーレ、はにーちゃんにパイオツアタックしてるじゃん。あかつきちゃんと、アモーレ、どっちの胸が好き?』


 カノジョが聞いている前で、とんでもない発言をする。

 隣の部屋から殺気を感じるのは気のせい?


「天は乳の下に乳を造らず。すべての胸は平等に尊いんです」

『おっ、はにーちゃんはパイオツ平等論者かぁ……なら、許す』


 まさかの変態発言で救われるとは。


『で、ここからは真面目な話』


 アモーレさんの声が低くなる。


『あかつきさん、今年の活動振り返ってみて、どうだった?』

『あたし、デビュー前は自分に自信がなかったんです』


 あかつきさんは真剣に答える。

 発言内容とは裏腹に、声は落ち着いていた。


『けれど、今年デビューしてから、少しだけ自分に自信が持てるようになったんです。あたしポンコツだから。やらかし多いんですけどね』


 アモーレさんは苦笑いをする。暗くなりすぎないように場の空気をコントロールしていた。名司会者かもしれない。


『で、自分を変えようと思って、ゲーム16時間とかやってみたんですよ。それで、体調を崩したんで、あたし雑魚すぎる。虹メンやリスナーさんにも迷惑かけてばかりですし』


 僕はコメント欄を見る。あかつきさんを応援する声ばかりだった。


『うまくいかないことばかりだけど、最近、思ったの』

『ほう、なにを?』

『魔法少女の戦いって、厳しいじゃないですか? 強敵だとか、ブラックな設定だとか。ソウルが濁っちゃいますよね。とくに、あたしみたいな豆腐メンタルは』


 あかつきさんは、『あはは』と笑ったあと。


『でもさ、諦めなければ、いつか報われるときがくる。そう、いまは信じられるんですよ』

『お子様アニメっぽい前向きさがエモいっ!』

『でしょ。あたしは、VTuberの活動を通して、学んだのでした』

『あかつきちゃん、アモーレ的にはマジで熱いよ。合格ですなぁ……って、上から目線でごめんね』


 詩楽が美咲さんに認められたわけで。

 旅館で話したときのことを思うと、目頭が熱くなった。


『次は、はにーちゃんの番。今年の振り返り、よろ』


 僕に話を振ってきた。


「はにー、まだデビューして2ヵ月ですよ?」

『とりま、言ってみ』

「3ヵ月前までは自分の声が大嫌いだったので、いまいち実感湧かないんですよね」


 正直に答えながらも、リスナーさんの目を意識したつもりだ。


「キャピキャピしたアニメ声の自分にも価値はある。そう、気づけたんです」


 僕は大嫌いなアニメ声で、推しの命を救って。

 VTuberデビューして、多くのリスナーさんに受け入れてもらって。

 自分にも自信が持てるようになって。


「みなさんのおかげで、はにー、自分が好きになったんですよ」

『自分が好きって大事だよねぇ。アモーレも、自分大好きっ子だもん』

「はにーからは以上です」


 アモーレさんのおかげで、恥ずかしいことも話せた。


『おっと、そろそろカウントダウンだね。1期生から3期生まで、全員揃ってるかな?』


 僕を含めて、10人のVTuberが勢揃いする。

 10人の声が混ざる。かなり賑やかだった。


『10、9、8、7』


 みんなの声がきれいに揃う。


『3、2、1、0。明けまして、おめでとうございます!』


 年が明ける。

 しばらくして、公式番組も終わった。

 配信が終わるやいなや、僕と詩楽はリビングに集まった。


「甘音ちゃん、いまから初詣に行く?」

「いまからって……明日も昼から年始の企画があるよね?」


 寝るのが明け方になるのは、つらい。


「そもそも、あと2日は外出を控えるように言われてるよね?」

「……だってぇ、初詣行きたいんだもん」

「じゃあ、3日あたりに行こうか?」

「わかった。それまでに、着物を選んでおく」

「僕、詩楽の着物が見たいなぁ」

「甘音ちゃんをデレさせてみせる!」


 期待しかない。


「初詣のかわりに、マインドクラフトで釣りでもしない?」

「眠くなるまでなら」


 それから、僕は詩楽を膝だっこして、ゲームで釣りをする。

 ダラダラとしゃべったり、軽くイチャついたり。


 結局、明け方まで、穏やかな時間を楽しんだ。


 ~第1部完~

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