第18話

 次に向かったのは別のカジノのルーレット、スロットなどもあったのだがルーレットで悔しい思いをしたからか、ガルド達はルーレットをする事に決めたらしい。


「うっし、ここにはあの貴族様はいねえな。ディーラー!俺は赤に賭けるぜ!」


 換金したコインの山を赤に乗せるガルド、ディーラーが玉を回っているルーレットに投げ入れる。


「頼む頼む頼む頼む頼むぜ!今月のお小遣いの半分を使っちまったんだ!今度こそ当たってくれ!」


 奥さんの尻に敷かれ、お小遣い制のガルド、人生で今までにないくらい神様に祈る。

 そんな彼を見て”こんな大人には絶対にならないようにしよう”と誓うトール、人生の先輩としてトールに接してきたガルド、見事な反面教師だ。

 ルーレットの中を走る玉、そうして徐々に勢いがなくなり玉がルーレットの赤のポケットに入る、ルーレットでは数字や奇数偶数、赤か黒のそれぞれどれにベットするかで倍率が変わる。赤か黒かで駆けた場合、倍率は二倍だ。


「よっしゃあああああ!」


 狙った場所に弾が入り歓喜するガルドと彼と同じように赤に賭け、同じように歓喜する他の運び鳥達。


「うっし、じゃあこれで元は取れたよな、おやっさん達、んじゃあ帰って、、、」


 が次の瞬間、ガルド達の目の前に山のように積まれていたコインがまたもや、別の場所に移動する。


「なっ、おいおい、ちょっと待てよ!」


「何で俺達のコインを!?取り上げんじゃねえ!」


「赤に入ってんじゃねえか!?」


 赤のポケットに入った玉を指さしながら抗議するガルド達を無視して、ディーラーはコインの山を別の客の元へと移動させる。


「あっ!テメエは、、、」


「ふんっ!」


 そこにいたのは先程の店でガルド達の取り分を横取りしたちょび髭貴族、悔しそうなガルド達を見て満足そうに鼻を鳴らす。


「テメエ!この野郎、、、」


「ちょっ!おやっさん、落ち着けって!此処は喧嘩はご法度なんだろう!?」


 殴りかかろうとするガルドを慌ててトールは羽交い絞めにする。


「ったく、気分が悪い!別のカジノに行くぞ!」


「ああくそ、胸糞悪い!」


「やってらんねえよ!こんなインチキカジノ!」


「だったら、もう帰ろうぜ、、、」


 怒りで肩を震わせながら、カジノから出て別のカジノへと足を運ぶガルド一行。




 しかし、その後もガルド達がギャンブルで勝つことは無かった、いや正確には何度も勝つことは出来たのだが、その度にあのちょび髭貴族が現れ、彼らの勝利を奪っていった。

 スロットではスリーセブンを当てたのに、機械の故障とされスロットに入れた金すら戻らず、ポーカーであのちょび髭貴族と勝負をし、ガルドはストレートフラッシュ、ちょび髭貴族はブタだったのにディーラーがカードのシャッフルが甘かったと言い出し、やり直しとなった。

 兎に角、行く先々であのちょび髭貴族が現れ、ガルド達の邪魔をしてきたのだ。


「あーもー、やってらんねえよ!此処は貴族と平民で差別はしねえんじゃなかったのかよ!」


「正確にはカジノを利用するのに貴族と平民の区別はしないってバーテンダーが言ってたぜ。もう諦めろよ、おやっさん。」


 バーのカウンターで果実水を飲むガルド達(帰りの飛行機の事を考えて酒は控えている)、本来なら今頃大金を持って島に帰れた故にその怒りも収まらない。


「何なんだよ、あのちょび髭、俺達の行く先々で現れやがって、俺達が何したってんだ!」


「ああくそ、あの顔を思い出しただけでも腹が立つ!」


「だからもう、諦めようって、このまま此処にいてもあのちょび髭の所為で勝てないんだから、、、」


「・・・そうだな。じゃあ、締めにあそこのドッグレースにでも賭けて帰るか。」


「いや、普通に帰れよ。」


 果実水を一気に喉に流し込み、近くで行われているドッグレースで最後にしようとするガルド、こう言う場合、大抵”次で最後”が何回も続くのだが、そのパターンでないことをトールは必死に祈る。


「うし、じゃあトール。お前も折角”歓楽島”に来たんだ。お前も賭けていけ。」


「え、俺もかよ!?」


「別に大金を賭けろって言ってるわけじゃねえ、記念に賭けていけって言ってんだ。一クラウで適当に賭けろよ。」


「えーっと、じゃあ。」


 ドッグレースのコースは、一周五十メートル。ゲートには十匹の犬が待機しており、大型でやる気に満ち溢れた犬、その隣で気迫に当てられ怯えている犬など様々だ。


「んー、あの半分寝ている犬に十クラウ。」


「おいおい、アレはどう見てもハズレだろ。オッズも半端なく高いし、あれはどう頑張ったて勝てねえって。」


「別にいいだろう、それに賭けるなら分の悪い方に賭けたい。」


「あーあ。」

 

 トールの選択に呆れるガルド、トールも多分あの犬では一着にはなれないだろうと考えているが、どうせ記念に賭けるだけだ。だったら好きな犬に賭けたい。

 後何となく、あの犬の眠そうな雰囲気がリーアに似ていて、放っておけなかったのもある。


「うし、んじゃ俺はあの犬で、、、ってゲエ!」


 受付で金を払い、券を貰ってくるとトール達の視線の先にまたしても見たくない顔が見える。


「またあのちょび髭かよ、、、」


 もはや怒りを通り越して呆れてしまう。


「まあ、でも流石にドッグレースだったらイカサマは出来ないんじゃないか?」


「いや、でもレース結果にイチャモンを付けるとかは有りそうだけど、、、」


「えーい!兎に角賭けちまったもんは仕方ねえんだ!泣いても笑ってもこれが最後だ!」


 ガルドがやけくそに叫ぶと同時に受付が閉まり、レースがそろそろ開始する合図の笛が鳴る。




 ゲートが開き始まったレース、一番手はゲートが開く前からやる気を見せていた大型犬、二番手は一番の大型犬から二メートル程離されている平均的な大きさながら鍛えられたその四肢が特徴的な犬、三番手は更に十メートル程離されている小型犬だ。

 そして十番手、最下位になっているのはトールが賭けた犬で、今も眠そうに走っている。


「いけっいけっいけっ!」

  

 自分が賭けた二番手の犬に券を握りしめた両こぶしで必死に祈るガルド、一方のトールは元々大した興味もなく、記念に賭けただけなので特に焦っている様子もない。


「ああ、くそっ!もうちょい、もうちょい、頑張れ!」


 ガルドの賭けている犬が一番手の大型犬と並ぶ、それに伴い客席の熱気も一気に上昇する、どうやらこの二匹に賭けるのが定番らしい。

 そんなトップ二匹のデッドヒートなんて知ったこっちゃないとのんびりと走る十番手の犬、とうとう走るのを止めて、後ろ足で自分の耳を搔いている。


「はは、マイペースだなお前。」


 犬を見て笑いかけるトールだが犬が伸びをして欠伸をした後、眠そうだった目が急にキリっとした目つきに変わる。


「うおっ?」


 そして自分の目の前にいる犬の間を全速力で駆けぬけ、次々と追い越していく。どうやら一度スイッチが入ると止まらないタイプだったらしい。


「おいおい、何だあの犬は!」


「一気に七匹も追い抜いて三番手になったぞ!」


「あれって、オッズ千倍の超大穴の犬じゃねえか!」


「マジかよ、あの犬に賭けている奴いるか!?」


「いるわけねえだろう!そんなヤツ!」


 此処にいます、と手は挙げないトール。一気にトップの三位に躍り出た犬に観客達が沸き立つが中には悲観的な悲鳴を挙げている者もいる。

 主に一番手と二番手の犬に賭けている者達だ。


「うおおお、頼む頼む頼む!一着になってくれええええ!」


「いや、こっちが一着になれええええ!」


「いけー、お前に小遣いの残り全部賭けたんだー!」


「ちょっと、おやっさん!?」


 何やらとんでもないことを暴露したガルド、三匹が同一線上に並ぶ。体格や鼻先からして、僅かに体勢有利なのはトールが賭けた犬だ。

 このまま同一線上を維持したままなら、トールの一人勝ちだろう。


『いけええええええええええええええ!』


 まさかの大穴に会場が盛り上がり、ゴール手前の席で座っている観客達の前を三頭が通り過ぎる。そんな三頭をつまらない顔をしながら眺めていたちょび髭貴族が自分の部下に顎で命令を出す。

 そしていよいよゴールテープが斬られそうになった瞬間、


 ”パシャッ!”


「キャイン!」


 ゴールテープ直前で大きなカメラを構えた男が、強いフラッシュを炊いた。犬や猫と言った動物は暗い場所では瞳孔を最大限に開く為、その状態で強い光を当てると引きつけを起こし、最悪失明するといったことになる。

 ドッグレースの会場は薄暗く、そんな場所で強烈なカメラのフラッシュを浴びた犬達の苦しみは想像を絶するものだろう。 

 特に客席側を走りモロにフラッシュを浴びてしまったトールが賭けた犬は、自転車に引かれたように倒れこみ、苦しそうにジタバタと藻掻いている。

 それを尻目に逆にコースの内側、カメラのフラッシュを浴びていない大型犬が悠々とゴールテープを切る。


「よっしゃあああ!」


「マジかよ!外れた!」


「ははは、ざまあ見やがれ!」


「嘘だあああ!帰りの船代どうすりゃいいんだよ!」


 大型犬がゴールした瞬間、ある者は喜び、またある者は賭け札を盛大に破りながら自分の馬鹿さ加減を後悔する。


「あーあ、畜生、外れちまったぜ。」


「俺、給料の半分使っちまった、、、」


「母ちゃんに何て言おう?、、、トール、お前も残念だったな。」


「そんな事より、アイツ大丈夫かよ!?」


 二番手の犬に賭けたガルド達も泡となって消えた自分の給料や小遣いに思いをはせる。が、それよりもトールは今も藻掻いている犬の方が心配だった。


「どこのどいつだ?あんな場所でフラッシュ炊いたヤツは!」


「確かにな、ありゃあ、明らかにズルだが、それで誰も何も言わないって事は、、、」


 ガルドが視線をちょび髭貴族に向ける。そこには大量の金が入ったであろう袋をもったちょび髭貴族の部下数人とちょび髭貴族と握手を交わしている先程のカメラを持った男がいた。

 またコイツだ。自分が賭けている犬が負けそうだったから、あの男に命令をしてゴール直前でフラッシュを炊かせたのだろう。

 ルーレットやポーカーといった懐にダメージを受けいる以外特に影響の賭け事なら兎も角、貴族の我儘に犬が付き合わされた事に流石のトールも我慢の限界が近かった。


「おいこら、ソコのちょび髭!」


「な、何者だ貴様!いきなり無礼だろう!」


 怒りを露にしながら詰め寄ってくるトールにちょび髭貴族の部下が間に入る。


「この御方をどなたと心得る!この御方はアルバスの貴族であるシャルル、、、」


「っるせえ!そんな事より、アンタさっきから俺達の邪魔ばっかしてっけどよ!いくらなんでも今のは酷すぎるんじゃねえか!?下手したらあの犬が失明する事だってあるんだぞ!俺達に文句があるなら直接言いにくればいいだろう!あと賭け事なら正々堂々自分の運と実力で勝負しやがれ!」


 ビシッと指さすトールにちょび髭貴族は不快そうにトールの飛行服を眺めると眉を顰め、フンッ!と鼻を鳴らす。


「話しかけるな、卑しい運び鳥が。」


「ああ?今何つった?」


「話しかけるなと言ったんだ。」


 ちょび髭を指先で弄りながら、ちょび髭貴族はトールや運び鳥を侮辱する言葉を次々と吐いていく。


「貴様らが卑しくなければ何だと言うんだ?デュラスとの終戦後に軍をクビになった役立たずの負け犬、国から情けを貰ったと思ったら敵国であるデュラスと手を組み働くという恥知らずな行為に手を染める始末。金の為なら何でもする、卑しくプライドの無いこの世で最も醜い人間が貴様ら運び鳥だろう?」


「テメエ、、、」


「貴様らに文句がある?何を勘違いしている、これは正当な権利だ。そもそも貴様らが賭けで勝とうというのが間違いなのだ。卑しい貴様らは一生ドブ底で這い蹲ってひもじく生きてさえいればいいのだ。分かったらさっさと消えろ!耳が腐る!」


「だとしても、、、あの犬は、、、」


「しつこいぞ、犬がどうした?あの犬も私の為に犠牲になれたんだ。失明がどうした?喜んで犠牲になるのが当然だろう?」


 ちょび髭貴族がそう言い終わると部下の男がトールを思いっきり蹴り飛ばし、談笑していた酔っ払いのテーブルにぶつかり崩れ落ちる。

 テーブルの上に乗っていた酒やツマミがトールの頭にかけられると同時に、トールの頭の中で何かが切れる音がした。

 祖父の教えで自分に対しては手を出されない限り喧嘩はしない主義だが、仲間や家族を侮辱された時はその主義は適用されない。


「せーっの!」


 倒れたテーブルをそのまま掴み、貴族に向って投げる。


「うわ、貴様!何をする!?」


 間一髪でテーブルを避けたちょび髭貴族だが、その隙にトールが距離を詰める。


「オラオラオラオラオラオラ・・・オラーーー!」


「げぼうあっ!」


 貴族の腹に何発もパンチを打ち込んだ後、強烈な右フックでちょび髭貴族の顎を殴り飛ばし、そのままちょび髭貴族は近くにあったルーレット台の上へと吹き飛んでいく。


「き、貴様ぁあ!」


「ひっとらえろ!」


「おい、おやっさん、トールが貴族に絡まれてるぜ!」


「何ぃい!ソイツは助けなきゃいけねえな!」


「テメエ、殴りやがったな!」


「何だと、やんのかコラ!」


 そして始まる大乱闘、貴族に狼藉を働いたトールを捕まえようとする貴族の部下達、トールを助けることを名目にこれまでの鬱憤を晴らすべく部下達を殴り飛ばしていくガルド達、同じく先程のドッグレースの結果や賭けで負けた事に納得のいかない者達同志で喧嘩が始まる。


「おらぁ!くたばりやがれ!」


「いやちょっと待って!俺だよ俺!」


「あっすまん、殴る相手間違えた。」


「おい、何で俺達友達同士で喧嘩してんだ?」


「知るかボケ!」


「ボケだと!?言ってくれるじゃねえかこの野郎!」


 もはや誰が誰を殴っているのか?そもそも何で大乱闘になっているのか?収集のつかない状況になってきたカジノに一発の銃声が響き、場が静まる


「お前達!何をやっている!ここでは喧嘩はご法度だというのを知らんのか!?」


 上空に拳銃を構え、空砲を放ったのは制服に身を包んだ島の憲兵だった。きっと騒ぎを聞きつけて慌てて駆けつけてきたのだろう。


「一体原因は何だ!誰がこの騒動を起こした!」


 憲兵が怒鳴るとカジノにいた客は一斉に一人の青年に視線を動かす。そこにいたのは勿論トール、今もちょび髭貴族の顔がパンパンに腫れあがる程の往復ビンタを繰り出している。

 逃げりゃよかったのに。


「ふう、悪いが事情を聴きたいから我々に付いてきてもらうぞ。」


「うおー、離せ―!」


 憲兵二人に両腕を捕まれ、人型の未確認地球外生命体のように連れていかれるトール。


「あーあ、やっぱりアイツが騒ぎを起こしやがったな。」


 溜息を吐くガルド、便乗して喧嘩をしていたお前にそんな台詞を言う資格は無いぞ。




「ふー、相変わらず、この島にくる人間は愚かね。一時の喜びの為に財産をドブに捨て、見せ掛けの幸せに一喜一憂する。救いようが無いわ。」


 ”歓楽島”の中心にある塔の最上階の部屋で、この島の主にしてアルバスの若き貴族、公爵の一人であるルイネ=ディア=ラーンは戦場的なドレスに身を包みソファで気だるそうに横たわりながら、窓から街を見下ろす。

 彼女の視線の先にあるのはカジノから出てきた二人の客、一人は賭けに勝ったのか酒瓶をラッパ飲みし、上機嫌でカジノを後にする。もう一人は虚ろな目で乾いた笑いを繰り返しながら何処へともなく消えていく、負けた事は確実で下手したら全財産をすってしまったのかもしれない。


「ああ、本当に愚かね。」


 テーブルに置いてあるクッキーを一つまみ口に含むと部屋の入り口からドタドタと喧しい音が聞こえてくる。


「お、落ち着いてください、シャルル様!」


「落ち着いてなどいられるか!ルイネ殿!この無礼者を即刻、死罪に処すべきだ!さあ、早く!」


「はあ、また貴男なのね。」


 部屋に入ってきたのは憲兵の一人に怒鳴り散らしている知人のアルバスの伯爵であるシャルル、シャルルはルイネの事を友人と思っているが、いつもカジノでディーラーを脅し、不正をしていると部下から報告を受けているルイネとしてはそろそろ縁を切って、出禁にしたい相手だ。


「今度は一体何をやらかしたの?」


「この運び鳥が私に無礼を働いたのだ!」


「ふーん、一体だ、、、れ、、、」


 シャルルの言葉を聞き、二人の憲兵に取り押さえられている青年にルイネは視線を向ける。すると目を見開き慌ててソファから降りて、頭を下げる。


「も、申し訳ありませんでした陛下!陛下の御前でこのような無礼かつ下品な姿!如何様な処罰でも受け入れ、、、」


「お、おいおい、何だよ?いきなり?」


「ど、どうしたのですかルイネ様?」


 いきなり頭を下げてきたルイネにトールと彼女に仕えている部下は困惑する。


「貴方達こそ何を言って、この方は、、、、」


 下げていた頭を上げ、部下を睨みつけるとトールの顔を見つめる。


「この方は、、、方は、、、そうね、何でも無いわ、今のは忘れて頂戴。」


 頭を軽く左右に振り、再びソファで横になるルイネ、その際彼女が小声で「あの方が生きているはずがないじゃない。」と呟いていたのだが、それに気づいた者はいなかった。


「それで、一体何があったの?」


「それが・・・」




「ふーん。」

 

 部下から事の事情を聴き終えたルイネは何かを思案する。


「何をしておられるルイネ殿!早くこの無礼な運び鳥を、、、」


「貴方は黙っていなさい。」


「ひいっ!」


 鋭い目つきでシャルルを睨み黙らせるルイネ、彼の普段のカジノでの不正行為への怒りも含まれているが、それ以上に厄介な問題が今彼女の目の前にあるのだ。


「さて、貴方達はこの島で喧嘩行為はご法度だという事は知っているのでしょう?」


「わ、私は一方的に殴られただけだぞ!」


「でも、原因は貴方が不正行為を行ったからでしょう?」


「不正など私はしていないぞ!」


「へえ、ギャンブルで負けた癖にディーラーに圧力を掛けて無理矢理勝ちにするのは不正とは言わないのかしら?」


「貴族として当然の権利だろう!」


 もうこの男の話を聞く気にはなれない、ルイネはトールを見つめる。


「で、貴方は?」


「知ってました。」


 気まずそうに顔を背けるトール。


「だから言ったじゃねえかお前。」


「おやっさんだって、ノリノリだったじゃねえか。」


「そうだったか?」


 関係者として連れて来られたガルドがすっとぼけ、ルイネは再び溜息を吐く。

 

「この島で喧嘩がご法度な理由は、ギャンブルの勝ち負けで余計な諍いを起こさない為よ。そしてこの島のもう一つのルールもご存じよね?面倒事はギャンブルで勝ち負けを決める。つまり、貴方達が起こした問題はギャンブルで決めなさい!そうね、貴方は運び鳥である事だし、この島の一番の目玉である飛行機レースに参加してもらうわ。」


「ま、待ってくれルイネ殿、そんな勝手に、、、」


「この島の主は私よ。文句でもあるの?」

 

 ギロリとシャルルを睨み、黙らせる。


「ルールは簡単、まずはシャルル貴方は自分の部下から適当なパイロットをレースに参加させなさい、同じように貴方達運び鳥側も一人、誰かをレースに参加させる。そうしてレースを始めて順位を競って一位になった方を勝者とするわ。」


「どっちも一位になれなかったら、その時はどうするんだよ?」


「その時はどちらも不問ね。」


 だとしたら島のルールを犯した者に対して相当甘い処罰ではないのだろうか?まるでルイネが此処にいる誰かに処罰を与えたくないのか?と勘ぐってしまう程に。


「それで負けた時に下す処罰なんだけど、、、」


「私は即刻この無礼者の首を撥ねさせてもらう!この私を殴るとは万死に値するからな!」


 血走った目で泡を吐きながら叫ぶシャルル。


「そうねえ、ウチも被害を被ったことだし、シャルルが勝ったら貴方は私の個人的な奴隷として一生馬車馬の如く働いてもらおうかしら。」


 が、そんな彼を無視してソファから降りたルイネは地面に座らせているトールの顎を優しく撫でる。熟成したワインのような甘い匂いと彼女が持つ大人の女性の色香によってドキリとしてしまう。


「な、何を勝手に決めて!?」


「別に構わないでしょ、生きるにしろ死ぬにしろ、この子が苦しむのには変わりないんだから、それで?貴方が勝ったらシャルルに何を求めるの?」


「おやっさん達とドッグレースの犬に謝って欲しい、後もしドッグレースの犬に後遺症が残ってたら、その分の治療費とか色々出してくれ。」


「・・・そんな事でいいの?」


 首を撥ねようとするシャルルに対して謝罪だけでいいと言うトールに思わず、目を見開いてしまう。


「そんな事だと?ルイネ殿、ソイツは卑しい運び鳥だぞ!そんな奴らに頭を下げるなど、我が生涯において最大の屈辱だ!」


「ふう、、、分かったわ、それじゃあ負けた場合は貴方は一生奴隷生活、シャルルは彼らに謝罪をする事、どちらも勝てなかった場合は納得が出来なくても大人しく引き下がってもらうわ。それでいいならこの勝負、受ける?」


 勿論、トールに引き下がるつもりはない、シャルルはガルド達を馬鹿にし、関係がない犬にも後遺症が残るかもしれない行為を働いたのだ、土下座されるチャンスがあるなら願ってもいない事。

 こうしてトールは自分の人生を掛け金にし、レースへと参加することとなった。



 

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