第17話
「いいぜ!その勝負受けてたってやろうじゃねえか!」
「ふん、この私に無礼を働いたこと、後悔しても遅いからな!謝っても許さんぞ!生き地獄を見せてやる!」
「るせえ!このちょび髭!テメエこそ今の内に土下座の作法でも学んでおくんだな、貴族様よお!」
平民では一生働いても購入することが出来ない調度品が幾つも置いてある部屋の中、部屋の主であろう妖艶な女性貴族を間に挟み、怒りに燃えているトールとガルド達運び鳥一行と同じく怒りで顔を真っ赤にしている中年の髭が特徴的な貴族の男性、更に彼の後ろには飛行機の操縦服に身を包んだ壮年の男性が控えている
「話は決まったようね。それじゃあ、双方ともにレースに参加するパイロットを選んでちょうだい。」
「私は既に決まっている。フリッツ!さっさと前に出ろ!」
貴族の女性がけだるそうに言うと、中年貴族が後ろに控えていた男性を前に出す。
「言っておくがこの男は元アルバスの軍人で飛行機乗り、現役の時は撃墜応としてその名を轟かせ、過去一度しか被弾したことが無いという凄腕の飛行機乗りだぞ。終戦後、路頭に迷っていたから私が拾ってやったのだ。さあ、お前らはどうする?玩具の用な飛行機に乗っている貴様らの中でコイツに挑む勇気がある奴はいるか?」
「勿論俺だあ!」
「貴様だと?っは!貴様のような小僧が勝てるわけないだろう。戦う前から勝負を捨てるとは、やはり卑しい運び鳥共だな。」
親指で自分を指さし、前に出たトールを中年貴族は馬鹿にする。
「何だと!?おやっさん、別に俺がレースに出てもいいよな。」
「ああ、好きにしろ。この中じゃお前が一番飛行機の操縦が上手いからな。しかし、フリッツ。まさかこんなところでお前と再会するとはな。」
「俺もまさか此処でお前らと再会するとは思わなかったさ。」
「ん?何だよおやっさん。知り合いかよ?」
「俺達がまだ現役だったころ、一緒に前線を飛び回っていた仲間さ。終戦後、俺達は運び鳥になったがお前は本当に優秀だったから、軍に残っていると思っていたんだが、、、お前も軍を辞めさせられたのか。」
「そうだよ、どうやら軍の若い上層部は俺みたいな爺が活躍するのが目障りだったようだ。再就職先も紹介してくれなくてね。路頭に迷ってたのさ。」
「だからってお前、、、」
「もういいだろう、別に俺達は仲良く昔話に花を咲かせに来たんじゃない、レースをしに来たんだ。俺は今の内に機体のチェックをしておくよ。」
フリッツに対し、同情すような非難するような目を向けるガルド達を無視し、フリッツは部屋を出る。
「さあ、レースは一時間後、レースには専用の飛行機に乗ってもらうから、貴方も早く自分が乗る飛行機をチェックしておきなさい。」
そうして女性貴族がトール達も部屋から出るように促す。
~五時間前~
”梟の止まり木”に集まった運び鳥達、それぞれ番号札を受け取り、受付から本日の運ぶ荷物を渡されていく。
そんないつもの光景でトールとガルド、更に数人の運び鳥の仲間が小分けにされた荷物を渡される。
「今日はこの荷物をある島に届けるんだが、ちと量が多くてな俺らで分けて運んでいくぞ。」
「「「うぃーっす」」」
「って、おいおい、おやっさん。ちょっと待ってくれよ。」
渡された荷物は大きな麻袋で、口が縛られておらず中身の白い粉が露になっている。
「こんな大量の白い粉、俺達こんなヤバイブツを運ぶのかよ?」
「紛らわしい言い方するんじゃねえ。砂糖だ砂糖。」
「舐めたら幸せになれる粉には変わりねえじゃねえか!」
「だから言い方に気を付けろって、、、」
それなりに高価で貿易により一代で巨大な富を築いた者もいると言われる砂糖、貧乏人であるトールには大量の砂糖はやばい粉に見えてしまう。
「ま、不味い、こんな大量のヤバイ粉(※砂糖です)を運ぶなんて、、、犯罪の片棒を担ぐもんじゃねえか、、、」
傍から見るとヤバイのはお前である。
「馬鹿は放っといて、先ずは荷物をそれぞれの飛行機に運び込め、その後集まって運んでいく。案内は俺がするから、お前らは俺の後ろをついてこい。」
「「「うぃーっす」」」
己の良心と必死に戦うトールとそれを放っておくガルド達、本日も賑やかな一日が始まった。
「それでおやっさん。今日の目的地は何処なんだよ。」
「目的地の島はとある貴族が仕切っている島、通称”歓楽島”って呼ばれるレースやらの賭博で有名な島だ。」
その後、茶番劇は終了し仕事に戻ったトール、先頭を飛ぶガルドの赤い飛行機の後ろを付いていきながら、本日の目的地を確認する。
歓楽島、ガルドが説明した通り、賭博により発展、有名となった島でそこでは飛行機によるレースや犬によるレース、カジノでのスロットやポーカーと言ったありとあらゆるギャンブルが揃っており、一晩で巨万の富を得た者や愚かな夢を見て高い授業料を払う羽目になった者などを無数に生み出している。
「おっと、そろそろ目的地の島だ。良いかお前ら!”歓楽島”ではな、ある一つのルールがある。それは”何事もギャンブルで決める”だ。あの島じゃあ喧嘩はご法度、面倒事が起こったらギャンブルで勝ち負けを決めちまう。だからトール、お前は絶対騒動を起こすんじゃねえぞ!」
「何で俺だけなんだよ!」
「お前がいつも騒動を起こすからだよ、馬鹿野郎。」
別にこのルールは島を仕切っている貴族がギャンブル狂いだからではない、ギャンブルというのは突き詰めれば確率、当たるときもあれば外れる時もある。
そしてそれに一喜一憂して暴れる客もいるし、賭けに負けた貴族が賭けに勝った平民に言いがかりをつけることもある。
そう言った者達を抑えつける為、島では喧嘩行為は厳しく取り締まっていった結果、気が付いたらこのようなルールが出来上がってしまった。
「おっ、あれが目的の島だな。」
「うし、じゃあお前ら、一旦島を迂回してから上陸するぞ。」
遂に見えた目的地、島というが緑の木々は一切なく、巨大な岩山の塊の上にカジノやホテルを建築したような外観でその島の周りには小さな岩山が幾つもあり、その上に旗が立てつけられその周りを派手な改造が施された飛行機が飛び回っている。
恐らく飛行機レースで使われる飛行機とコースの目印なのだろう、トール達はレースの邪魔にならないよう大きく迂回して、歓楽島へと上陸した。
「うし、それじゃあ野郎ども早速遊んでいくぞ!」
「「「おっしゃああああ!」」」
「うーわ、駄目な大人だ。」
目が痛くなるくらいに光る看板を掲げている店が幾つもある”歓楽島”中央通り、本日の仕事である白い粉(※砂糖です)を依頼人の元へ届けたガルド達は”運び鳥島”に戻る事無く、そのままカジノへと直行し、そんな駄目な大人をトールが冷めた目で見つめる。
「別に賭け事が悪いとは言わねえけどよ、おやっさん。イカサマとかするなよ?」
「安心しろ、バレるようなへまはしねえ!」
つまりイカサマはするという事である。
「先ずは此処のカジノのルーレットで大穴を当てるぞ!野郎ども!」
「これで一発大金を稼げれば、飛行機のローンが返せる。」
「俺もそろそろ限界が来ていたエンジンをオーバーホールできるぜ。」
「無くしていた母ちゃんの結婚指輪の代わりを買える金が手に入る!」
次々と願望を言っていく駄目なオッサン達、こういう人間は大抵財布の中身を全部スった挙句、地下で強制労働させられるというお約束を彼らは知っているのだろうか?
「あ~あ、付き合ってられねえ。マスター、果実水一つ。」
「お待たせいたしました。」
トールはガルド達が突撃していったカジノにあるバーのカウンター席でバーテンダーから受け取った果実水で喉を潤しながら、カジノの中を見舞わず。
「貴族も利用してんのな。」
「ええ、この島では貴族と平民、一切の区別なく施設を利用できますからね。」
「へえ、てっきり貴族様は特別扱いかと思ってたよ。」若しくは貴族様だけが利用できるカジノとかな。」
「いえ、この島を取り仕切っている方のご意向でそう言った区別はしない方針なのです。ただ、、、」
「ただ?」
バーテンダーが言いよどむとルーレットがある場所から”オオオッ!”と声援が沸き上がる。何事かと視線を向けると、どうやらガルド達が大穴を当てたようだ。
「マジかよ、、、」
てっきりおけらになると思っていたのだが、まさかの一発大穴を当てたガルドに驚くトールだったが、次の瞬間ガルドの元に高く積み上げられていたコインが一気に奪われ、近くに座っていた貴族らしき男性の元へと運ばれる。貴族の男性は目の前に積み上げられたコインの山に満足気な表情だ。
当然、いきなりコインを奪われたガルドは激怒するが、この島のルールで喧嘩はご法度なので唇を噛み締め、椅子に座りなおす。
「カジノ側が貴族の忖度を無視するかどうかは別問題なのです。」
「成程ね」
ルーレットでガルドに負けた貴族がそれを認められず、ディーラーに圧力を掛けて無理矢理自分の勝ちにしたのだ。
喧嘩はしていないので島のルールは犯していないが、ギャンブルとしては百パーセント駄目だ。
「これで儲け出るの?」
「まあ、貴族の方は負けを認めませんが、他の方がお金を落としてくれるので、、、」
「要は平民から巻き上げるって事ね。はあ、このままじゃおやっさん達が暴れるかもしれないから出てくわ。果実水の代金は?」
「いえ、こちらからの迷惑料という事で代金は頂きません。」
疲れた表情で呟くバーテンダー、どうやら貴族のああいった横暴なふるまいは日常茶飯事らしい。
「ぐぬぬぬぬぬぬ。」
「おやっさん、あのちょび髭がいる限り勝っても負けにされちまう。とっとと運び鳥島に戻ろうぜ。」
「いや、ここで帰っちまったら負け分が取り返せねえ。あの貴族がいないカジノに移動するぞ!」
「いや、それ一番ダメなパターン、、、」
ガルド達を帰らそうと小声で話しかけるが、なまじ大穴を当てた所為か、ガルド達は最低でも掛け金は取り戻したいらしい。
まあ、確かに勝っていた勝負を無理やり負けにされては納得できないだろう。
「ったく、負けても俺は知らねーからな。おやっさん。」
本音を言えばこのまま帰りたいのだが、賭博師の目になっているガルド達を放っておくわけにもいかず、トールもガルド達の後をついて行く。
後の事を考えれば、ここでガルド達はトールだけでも帰すべきだったのかもしれない。
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