第16話

 コース料理は噂通り、他のレストランとは一風変わった形となっており、一見統一性がないように見えた。

 しかし味はどれも大変素晴らしく、また新鮮な体験を味わえているので特に記者達が文句を言うことはなかった。それに加えて、アーノルドが料理を食べながら知ったかぶりの知識を披露し、それを手帳にメモするのに忙しかったというのもある。


「・・・という訳なんだよ。つまりこの料理はとても歴史の深い、価値のある料理なんだ。」


「そ、そうだったんですか!?知りませんでした!」


「酒場で出てくるツマミみたいだなと思ってたけど、そんなに深い意味があったとは!流石はアーノルド氏!」


 今も小鉢に入れられた細かく切った野菜に炙った魚の切り身を加えた料理を適当に聞いたうろ覚えの知識を披露している。

 そうして自分を持ち上げてくれる記者陣に気持ちよくなっていると、突如厨房から人が飛び出てくる。


「ウチはこの店一筋なんだ!とっとと出て行きやがれ!」


「ふふふ、相変わらずの頑固者ですね。ですが私は諦めませんよ。必ず貴方を私の家の専属のコックにして見せます。」


「ああ、坊ちゃん、服が汚れてしまっています。」


「別にこれくらいどうってことはないさ。」


 飛び出てきたのは仕立ての良い服に身を包んだオールバックの髪型の青年と、彼の執事らしき眼鏡をかけた少し太った男性だ。

 そしてそんな彼らを厨房から追い出したのは立派な髭を蓄え、サングラスをかけ長いコック帽を被ったコックであった。


「おや?これは見苦しい場面を見させてしまいましたね。どうぞ私達の事は気にせず食事を続けていってください。」


「あの、貴方は?」


 アーノルド達に気づいた青年が頭を下げる。


「私ですか?私はしがない地方貴族ですよ。以前ここの料理を食べてからファンになりましてね。何とかこのレストランのコックに我が家の専属コックになってくれないかと頼んでいるんですが、振られてしまいました。」


 そう言って笑いながら店を出ていく貴族の青年と老執事、だが彼らが店を出ようとすると今度は別の貴族らしき中年が店に入って、彼らと鉢合わせる。


「お、お前は。ふん、まだ諦めてなかったのか?悪いがコックを引き抜くのは私の家だ。貴様のような伯爵家風情が雇えるとは思わない事だな。」


 青年を見下す中年貴族、すると開いているテーブルに札束を数束叩きつける。


「コック!前金として三百万クラウを用意した!どうだ、私の家に雇われれば更に金を出してやる!」


「うるせえ!何度も言ってんだろう!俺は金になんか靡かねえ!アンタもとっとと出ていきやがれ!」


 がコックは金には目もくれず、そのまま青年貴族達を追い返す。


「アーノルドさん、今の見ましたか!さっきの人伯爵家ですって!しかも彼の後に来た人、多分伯爵家よりも上の爵位の人ですよ!」


「そんな人がわざわざ、専属として雇おうとするだなんて、此処の料理本当に美味しいですけど、そんなに凄いコックだったんですね!」


「けれどそれを断るなんて、本当に一本気のかっこいい職人気質の人なんですね!味も良し、コックも良し!これじゃ満点評価出ちゃうんじゃないですか!?アーノルドさん!?」


「え?あ、ああ!そうだね!と、取り敢えず評価はコース料理を食べ終えてからだよ。」


 先程の一幕を見て記者人がさらに盛り上がる。不味い、此処で下手な評価を出してしまえば、今後の料理評論家人生にヒビが入る。

 アーノルドは焦りから更に大物ぶった発言を繰り返す。それが逆に彼の首を絞めているとは知らず。

 そうしていよいよコース料理はクライマックス、メインディッシュが運ばれてくる。


「おや、これは?」


「本日のコース料理のメインディッシュ、トマトソースの煮込みハンバーグとなります。」


 運ばれたのは一枚の鉄板のプレートに乗せられ、じゅうじゅうと脂が弾ける音と匂いが食欲をそそる特製のトマトソースがかけられたハンバーグだ。

 更にメイド服を着たウェイトレスがメインディッシュ用に用意したワインをそれぞれのグラスに注いでいく。


「えっ!このワインはまさか!」


「はい、シャトゥールの七十年物になります。」


 記者の内の一人、ワインなどに詳しい者がワインの瓶に貼られたラベルを見て、超高級品である事に驚愕する。


「そんな凄いワインを頂けるなんて、、、ああ、生きていて良かった!」


「おいおい、メインはあくまでも料理だろう?」


「ああ!すいません、つい。しかし流石はアーノルドさん、全く動じてませんね。」


「まあね、これまでも私は数々の有名なワインを頂いたからね、今更シャトゥールの七十年物じゃ動じないさ。」


 実際、高評価を下したレストランから賄賂として受け取った高級ワインは今グラスに注がれているワインと同レベルの高級品が殆どだった。

 味が分かるかどうかはさて置き、アーノルドはこれくらいの年代物のワインではビビらなくなっていた。


「さて、それではメインディッシュを頂くとしようか。」


 フォークとナイフを構え、ハンバーグを一口サイズに切り、口に含む。ゆっくりと咀嚼し、飲み込むアーノルド、空がどんな評価を下すのか?

 記者一同、固唾を飲んで見守る。


「これは、、、」


「これは?」


「美味い!」


 アーノルドが目を輝かせ、口からビームを吐くような勢いで叫ぶ。


「まずは素材!どれもが一級品の素材でそれが料理を他の同じ料理とは違う、一段上へと押し上げている!そしてそれを調理する料理人の腕も別格!そこいらのコックなど足元にも及ばない、正しく本物の一流料理人であるからこそ素材の持ち味を殺さず、最高の料理として、このハンバーグを構築している!」


 辛口で有名なアーノルドがベタ褒めした事に驚きながらも、記者達もフォークとナイフを手にハンバーグを食し始める。


「うっま!」


「このトマトソース、凄い濃厚!」


「こいつは堪らん!」


 そんな彼らをアーノルドはワイン片手に眺める。


「そしてこのワイン、流石はシャトゥールの七十年物。長い時間を掛けて熟成したワインの奥深さが口の中に残ったハンバーグの脂を洗い落としてくれる。うん、やはりシャトゥールは素晴らしい。」


「あれ?このワイン、、、本当にシャトゥールか?」


 だが、先程ワインについて盛り上がっていた記者がワインを口に含むと疑問を浮かべた。


「ん?どうしたんだい、君?」


「いや、このワイン、本当にシャトゥールかなって?なんというか味に深みがなくて香りも薄い上に、雑味が多いというか、熟成されてない安物ワインのような、あれ?」


 記者の言葉に笑顔のまま冷や汗を流すアーノルド、これは不味い、瓶のラベルから適当にコメントを言ったが何か間違ったのだろうか?いや、ほかの偽物とは違う本物の料理評論家である自分が間違うはずがない!冷静に、しかし内心では焦りながら記者の言葉を否定する。


「やれやれ、さっきの言葉から君も私の様にワインに詳しいと思っていたが思い違いだった様だ。味に深みがない?雑味が多い?熟成されてない安物ワインのよう?君の舌は馬鹿のようだね。このワインを口に入れた瞬間に広がる芳醇な香りが分からないのかい?それに長い時間を掛けて熟成された事による幾重にも重なった味の深み、余計な雑味など一切無い洗練された味だよ。これこそシャトゥールの七十年物、それが分からないなんて、どうやら君の新聞社とは付き合い方を考えた方が良いね。」


「そ、そんな!待ってください!」


 会社を盾にされ、慌てる記者。良し、これで自分の発言が疑われることは無いだろうとアーノルドは安心する。




 締めのデザートも食べ終え、一息ついたアーノルド達。記者達はこのまま余韻に浸りたかったが、仕事は完遂しなければならない。


「さて、アーノルドさん。話題の"孤島のレストラン"のコース料理を全て食べ終えましたが、早速評価を聞かせてもらっても宜しいでしょうか?」


「え?いや、此処で言うのかい?」


「それはそうですよ。その為に他の新聞社の取材班も呼んだんですから。」


 担当編集者の言葉にアーノルドは困惑する。今までだったらレストランで料理を食べた後、賄賂を貰うなりして、その金額や貢物がどれだけの物かで評価を下していた。

 だが、このレストランからはまだ賄賂を貰っていない、しかも他の新聞社の取材班もいるから催促も出来ない。

 こんな状況でははっきり評価を下したくないのだが、自分の名声と賄賂を天秤に掛けた所、僅かに名声の方が重かった。


「わかった、それでは早速この店を採点するとしよう。さあ、君達もメモなり、録音機なりで私の言葉を記録したまえ。」


 アーノルドの言葉に慌てて記者達がメモ帳と鞄に入れられるサイズの小型録音機を用意する。


「まず最初に言っておこう、私はそのレストランがどれだけ口コミで評判が良くても、貴族から贔屓にされていても決してそれだけで高得点を出したりはしない。賄賂を渡すなんて論外だ。私は純粋に料理の味だけで評価をする。それを踏まえてこの店を採点するなら、、、」


 良し、これで自分が店の評判や賄賂で簡単に高評価をするような恥知らずな料理評論家ではないと記者にアピールできた。


「先ずは店の外観、一見ぼろいようだが歴史を感じさせてくれる、これはそん所そこらのレストランとは違う。正に一流だからこそできる、高評価を付けたいね。そして肝心の料理、一見バラバラのコース料理だ。しかしそれは素人の目にはそう見えるだけで、本物の舌が肥えた人間にしかその価値は分からないだろう。歴史ある伝統料理、しかし唯伝統を受け継いだだけではない。食材一つ一つを吟味し、素材の良さを最大限まで活かす味付け、これは料理人の腕が本当の一流でなければできない事だ。此処のコックは間違いなく超一流だ。そして料理に合わせたワインの提供など、細部にも手を抜かない、サービスも一流、料理も一流、流石にこれには普段は辛口なコメントをしている私も高評価をするしかないだろう、"孤島のレストラン"、、、その評価は十点満点中、十点だ!いや、本当なら百点を挙げたいくらいだ!」


 アーノルドの言葉にテーブルが沸き立つ、今まで満点など無かったのに、まさかの満点だ。


(少々サービスしすぎたか?)


 記者達の盛り上がり具合を見て、高評価を下したことにアーノルドは少し後悔をするが、後々レストランに高評価を下したお礼を受け取ればいいと考えなおす。

 記者達が必死にペンを走らせ、カメラでアーノルドと料理の写真を記録する中、突如としてレストランの入り口が蹴り飛ばされ、外から数人の人物がなだれ込んでくる。


「その言葉を待ってたぜ嘘っぱち野郎!」




 突如レストランの中に入ってきた人物達、それは先程コックから店の外へと追い出された貴族達だった。それだけじゃない、厨房からコックやディアンドルに身を包んだ女性、更に複数のコックやその家族と思われる人達がアーノルド達を囲む。


「そうかそうか、このレストランの料理は上手かったか?十点満点中、十点か?そうかそうか?」


「な、何だね、君達は!?」


 怒りが八割くらい混ざった笑みで自分を睨んでくるオールバックの髪型の貴族の青年、アーノルドは彼に睨まれる理由が分からず、思わず怒鳴ってしまう。


「おいおい、まさか俺達の顔を忘れちまったのか?なあ、おい!」


「全く、この間あったばっかじゃねえか?」


「それともアタシ達なんて覚える価値もないってかい?あんだけ人の胸をジロジロと見といて。」


「本当にねー、この人露骨すぎるよね。しかもこんな偽物の胸に騙されるなんて。」


「ウチの店をあれだけボロクソに貶しておいて!」


 そう言うと、それぞれ変装を解いていく。貴族の青年は髪形を変えたトール、彼の執事役をやっていたのは服に詰め物をして太っているように見せかけたジョナサン、中年の貴族はそれっぽい服に着替えたガルド、コックはトールとジョナサンが先日立ち寄ったレストランの店主兼コック、そして巨乳美人メイドウェイトレスは胸に野球ボールを入れ、女装をしたユリウスだ。

 後何故かリーアもいる。


「だ、誰だ、お前達なんて知らないぞ!!」


 本気で言っているのか?それとも自分の悪行を広められたくないからしらばっくれているのか?あくまでも初対面を貫くアーノルドにトールがある物を彼らのテーブルに叩きつける。


「だったらこれはどうだ!これでもまだしらばっくれるか!」


 トールがテーブルに叩きつけた物、それは新聞の記事で嘗てアーノルドが散々酷評したレストランの記事が書いてある。


「こいつはテメーが散々ボロクソに貶したレストランの記事だ!」


「こ、これが一体何だと言うのだ!」


「まだわかんねえのか?テメエが今日食った料理とこの記事に書いてあるレストランの料理、それとコックの顔を思い出してみやがれってんだ!」


 睨んでくるトールに怯えながらもアーノルドは担当編集者や記者達と一緒にトールがテーブルに叩きつけた様々なレストランを酷評した記事を読んでいく、そして記者の一人がある事に気付く。


「あっ!この記事に載ってる写真の料理、全部今日のコース料理に出てきた料理だ!」


「えっ?あっ本当だ!」


「でもこの記事ではもの凄い酷評されてるよ?」


「どういう事?」


 同じ料理であるはずなのに評価が百八十度違う事に他社の記者達が頭に疑問を浮かべる。


「そ、それは、、、」


 彼らと同じく記事の内容に気づいたアーノルド。このままいけば自分の悪行が彼らに知られてしまうと思い、必死に言い訳を考えるが。


「言っておくがコックの腕の違いとかじゃねえからな!俺達はわざわざアンタが酷評したレストランのコック全員を此処に呼んで、当時と同じ料理を再現してもらったんだ!」




 トール達の考えた作戦は至極単純、大勢の前でアーノルドが実際は私怨マシマシのデタラメな記事を書いている事を暴露しようという作戦だ。

 その為にまずアーノルドが過去に散々酷評したレストランへとトール達は飛行機を飛ばし、接触を図る。そうしたら案の定それらは全てアーノルドの行動を諫めた結果の逆恨みの酷評である事が判明し、彼らに仕返しをしてやろうと話を持ち掛けた。

 その後は場所の確保、これはトールがカトルに連絡を取り、嘗て彼の祖父の財宝が眠っていた島を貸してもらい、更に複数の新聞社へのコンタクトも取ってもらった。

 そうして断罪の準備が整った後はアーノルドが高評価をしなければならないよう、運び鳥の仕事の傍ら"孤島のレストラン"の噂を流したり、貴族のフリをしてでっちあげのレストランがもの凄い名店であるかのように仕込んだ。

 こうしてアーノルドは見ず知らずの内に処刑台の階段を昇っていたのだ。




「どういうことですか!?さっきはもの凄い高評価をしたのに、この記事ではもの凄い酷評をしてるじゃないですか?」


「そうですよ、説明してください!」


「あっ、あう、、、」


 特大のネタの匂いを嗅ぎつけた他社の記者達がアーノルドに詰め寄るが彼は冷や汗を流すばかりで説明する事が出来ない。それもそうだ、そうすれば自分の悪事をばらすことになるからだ。


「アンタの口から言えねえなら、俺が言ってやろうか?」


「や、やめろ!」


「アンタは、自分の名声を盾にして様々なレストランで他の客に絡んだり、脅しをかけて無銭飲食やウェイトレスにちょっかいを掛けたりしてた!で、それを店側が咎めた腹いせに酷評した嘘の記事を書いたんだ!それだけじゃねえ、その後もアンタはゴロツキを雇ってレストランで暴れさせたり、保健所に嘘の連絡を入れて営業停止にしたんだ!」


 トールが暴露した悪行に記者達が一斉に騒ぎ経つ彼らと対照的にアーノルドは地面に座り込むが、トールの暴露はまだ終わらない。


「ついでに言えばアンタが高評価をしたレストランだがな、あれは全部レストラン側から賄賂を受け取ってたからだ。証拠写真もあるぜ!運び鳥の顔の広さとフットワークの軽さを舐めんな!」


 まるでたたき売りのようにトールはアーノルドが賄賂を受け取っている写真をテーブルに乗った記事の上に叩きつける。


「お願いだから、、、もう、、、やめ、、、」


「そして極めつけはコイツだ!」


 完全に料理評論家としての人生が終わり、絶望したアーノルドだがトールは止まらない。彼は祖父から喧嘩を売られたら相手が二度と喧嘩を売りたいと思えなくなる位、ボコボコにしろと教えられているのだ。

 トールはテーブルに置かれたワインの空便を掴むと、そのラベルを剥がす。すると剥がしたラベルの下に更に別のラベルが貼ってあった。


「このワインの中身はな、よくわかんねえ高級ワインなんかじゃねえ、そこら辺の店で買った一本八百クラウの安物ワインに高級ワインのラベルを張っただけだ!それでもアンタはこれに疑問を持たずにペラペラと得意げに喋ってたよなあ。」


 主人公が浮かべてはいけない笑みを浮かべるトール、もはやどっちが悪人かわからない。


「つまりアンタは自分で自分がワインや料理の味が全く分からねえ味音痴だって証明したんだよ!」


「あ、あああ、あああああああ。」


 テーブルに足を乗せ、絶望したアーノルドを指さすトール、パシャパシャとカメラのフラッシュが光り、涙を浮かべ情けない表情をしているアーノルドを写真に収めていく記者達、勿論メモを取るのも忘れない。


「さてと、お客さん。料理はもう全部食べ終えたんだよね。」


 そうしてアーノルドの悪行をばらした後、女将がアーノルドの前に現れ、地面にへたり込んだ彼を立たせる。


「それじゃあ、お客さん。お代は結構なんで、、、」


 両親から受け継いだ酒場兼レストランを滅茶苦茶にされた女将の怒りはまだ収まらない、右足に渾身の力を籠める。


「とっととお帰りくださいお客様!」


 炸裂する女将のハイキックがアーノルドの腹を蹴り飛ばし、そのまま蹴破られた扉を通過し、店の外まで吹っ飛ばされる。

 その瞬間もカメラのフラッシュは止んでいなかった。


「ふー、二度とウチの店に来るんじゃないよ。」


「っっしゃ!やったぜおやっさん。」


「ははは、ざまあねえな!」


 こうしてトール達の少々やりすぎな復讐劇は幕を閉じた。




 劇が終わった後はカーテンコール、その後の話の顛末も気になるだろう。トール達の復讐劇から数日、営業を再開した”梟の止まり木”にあるカウンター席にて、トールとリーアは新聞の一面にデカデカと乗った写真とその記事に注目している。

 写真はアーノルドにハイキックを決めた女将、見出しは”インチキ料理評論家!天誅!”といった内容だ。


「すげえな、まさか一面を飾るとは。」


「女将、アダルティーな紐パン穿いてるんだ。」


 アーノルドの料理評論家としての悪事を暴くために行った事が此処までデカデカと新聞に載るとは思っていなかったトールとハイキックを決めた為、ディアンドルの中身が丸見えになってしまった女将の写真を見たリーアがそれぞれ感想を漏らす。


「他の新聞社でも似たような記事を載せてるらしいけど反響が凄いらしいよ。」


「へえ、でもこれってどっちの反響が凄いんだ?」


「どっちって?」


「この記事か、女将の全開のパンツの写真か?」


「う~ん?どっちだろう?」


「ああ、もう!アタシのパンツの話はもう良いだろう!兎に角これであのふざけた料理評論家は終わったんだよ!」


 いつものようにツケを払う為に皿洗いをしているユリウスとトールが、新聞の記事と一面にデカデカと乗っている女将のアダルティーなパンツ、果たして読者はどちらを目当てで購入したのだろうと話し合っていると顔を真っ赤にした女将が怒鳴る。

 トールとしては記事が四割、パンツが六割くらいの気がする。


「そういや、この後他のレストランはどうなったんだ?」


「ああ、それなら酷評した記事がデマだって一気に広まって遠のいていた客足が戻ってきたそうだよ。」


「へえ、ソイツは良かった。」


「後ね、アーノルドなんだけど。」


 ユリウスが口元を抑えて笑いをこらえる。


「あの後、無銭飲食、営業妨害、虚偽報告、経歴詐称、ウェイトレスへのセクハラ、キックバック、名誉棄損とかいろんな悪事がぜ~んぶバレて警察に捕まって、今は収監されているらしいよ。」


「へえ、美味い飯を食ってた立場から臭い飯を食う立場になったってところか。味音痴にはお似合いなんじゃねえか。」




 某島、監獄内。


「なんで俺がこんなものを。」


 これまでの悪事がバレて収監されることになったアーノルド、監獄の食堂で輝かしい経歴が全てパーになり、意気消沈している彼の目の前には歪んだ金属製のプレートが置いてあり、その上に様々な料理が盛りつけられている。


 岩のように硬いパン、ゆでただけの味付けなしの芋、具が無くなるまで煮込んだスープ、ぐちゃぐちゃになったザワークラウト、焼きすぎの謎の肉のステーキ。


「俺は本物で一流の料理評論家!アーノルド=カーターだぞおおお!」


「五月蠅いぞ!そこ!」


 美味しい料理出すレストランを私怨で人が食べるものではないと貶してきたアーノルド、そんな彼が本当に不味い飯を食う羽目になったのはある意味当然の帰結かもしれない。

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