第12話

 ”梟の止まり木”から店を出たユリウスと老人、外の雨は止んでおり二人は船着き場に向かいながら小声で会話をしている。


「すまんのうユリウス、お主に毒見をさせてしまって。」


「いえ、この命に代えても王族の身をお守りするのが我が一族の役目。陛下の為に死ぬのならば本望です。」


「元じゃよ、今は娘に玉座を譲った隠居生活を送っている唯の爺じゃ。それとユリウスや、そのかたっ苦しい喋り方は止めんか、お主の素で構わん。」


 普段のちゃらんぽらんな態度から想像がつかない程、厳格な雰囲気を放っていたユリウスだが老人の言葉を聞いていつも通りのちゃらんぽらんな雰囲気に戻る。


「それは助かるよ陛下、正直肩がこるんだよねーアレ。それで十年ぶりにお孫さんと再会できた感想は?」


「うぬ、そうじゃな。元気そうで何よりじゃ。もしあの子が苦しい生活を送っているのなら、儂の正体やあの子の出自を明かして王宮に迎え入れようと考えていたんじゃが、その必要はないじゃろ。」


「そうだね、普段から彼を見てるけど無理してる様には見えなかった。あれは本当に運び鳥の仕事が好きなんだろうね。それに今の王国の情勢から見ても彼の正体を明かすのは得策じゃない。」


「ああ。」


 真面目な雰囲気になり、ユリウスは続きを話す。


「現女王陛下のデュラスと友好を結ぶ政策を気に入らない貴族にとって、本来の王位継承権一位の彼は都合の良い道具だ。もし彼の正体が世間に知られれば友好反対派の貴族はこぞって彼を持ち上げるだろうね。案山子の王様として、本人の意思は無視して。」


「そうなれば国の貴族は二つの派閥に分かれて、下手をしたら内戦じゃな。正直もう争いはこりごりじゃし、孫をそのような目に合わせたくもない。」


「それになにより、、、本人は大の貴族嫌いだからね。王族だって出自が分かっても嫌そうな顔をして終わりだと思うよ。」


「そうじゃろうな。」


 トールやリーアと食事をしながら会話していた中、貴族に対して露骨に嫌そうな顔をしていたトールを思い出し、笑い出すユリウスと老人。


「あそこまで露骨に貴族を嫌うかのう、普通。」


「育ての親の影響もあるだろうし、それだけ運び鳥の皆を慕ってて仕事に誇りを持っているんだと思うよ。」


「っと、それじゃ儂はそろそろ帰るぞ。」


 船着き場に到着し、停泊させていた船へと向かう老人をユリウスは見送る。


「それじゃ、引き続きあの子の護衛を頼むぞ。ユリウス。」


「はい、この命に変えましてもって言いたいけど、正直僕は必要ないんじゃないかな。だって彼幼い頃から運び鳥の先輩達に鍛えられて、僕よりも強いんだもん。」


「ん?そうなのか。なら王宮に戻ってくるか?」


「それは勘弁してほしいかな。腹黒い貴族の足の引っ張り合いや権力闘争に巻き込まれるのはうんざりだからね。その点この島は居心地がいいよ、偉そうな貴族もいないし、デュラスだのアルバスだの、国の諍いもないし。」


「確かにこの島は居心地がええのう、儂もこの島に別荘でも作ろうかの?」


「陛下はまだ王宮に残っていなくちゃ駄目でしょ。」


 僅かな時間ながらも島の人間の懐の広さに心地よさを覚えた老人が、名残惜しそうに船に乗るのを渋る。


「さあさあ、帰った帰った。まだ仕事が残ってるんでしょ。今日だってかなり無理して予定を開けたんだから、これ以上帰るのが遅くなったら女王陛下がお怒りになるよ、元陛下。」


「あーあー、帰りたくないのう。」


 ユリウスに背中を押されながら船に乗り込む老人、船の中にいた使用人が仰々しく出迎える。


「それじゃ、儂は帰るがいつものように定期報告は忘れるでないぞ、ユリウス。」


「は!」


 軍人のような敬礼をして、代々アルバスの王族の護衛をしてきた騎士の一族の次男、ユリウス=ディア=クリュサオルは先代アルバスの国王、ティトゥス=ディア=トゥルス=アルバスを見送った。



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