第9話

 怒号と銃声が鳴り響き、ガラスや陶器が割れる音も加わり派手な音楽がレストランを彩る。

 硝煙が店内に充満し、きっと誰が誰を殴っているのかもう分かっていないのだろう。

 そんな混沌としたレストランでトールとカトルはカウンターの裏に隠れながら、大皿の上に載った大盛りのナポリタンを食しながら地図を眺めていた。


「それで目的の場所はこの島にあるんだな?」


「はい、この島の外れにある小さな一軒家、そこに宝が隠してあると地図には書かれています。」


 何故こんな状況になったのかというと、それは数分前に遡る。




 カトルの案内に従い、宝が隠されている島に上陸した二人、飛行機は飛行場に預けた後、昼食がまだだったので適当なレストランに入り、腹ごしらえをする事となった。

 酒場を改造した木造式のレストランで酒場の名残であるカウンターが良い雰囲気を醸し出している。

 また、地元の漁師なのか屈強な荒くれ者達が笑いながら食事をとっており、何処か”梟の止まり木”を連想させてトールとしても居心地が良かった。

 注文したのは大盛りのナポリタン、大皿に乗ったそれをカトルと二人で食べ進めていく。


「これは、、、」


「美味いな!」


 少し焦がした事で香りが強くなったケチャップ、シャキシャキとした野菜類、甘めの味付けとトマトの酸味がベーコンの脂っぽさを和らげている。

 思わなぬ名店との出会いに感動していると、突如扉が蹴り飛ばされ、外から数人の小型機関銃を両手に持った男達が現れた。

 見るからに碌でもない連中と分かる彼らに店内の人間全員が彼らを見ていだが、彼らはトールとカトルと目が合うと、いきなり手に持った機関銃を乱射しだした。

 普通であればそのまま二人を蜂の巣にしたのだろうが、射手の腕が悪かったのか、銃の精度が悪かったのか、銃弾は二人の隣のテーブルにいた荒くれの酒瓶に命中してしまった。

 折角の酒を台無しにされた事に荒くれは怒り、腰に差していた拳銃を男達に向かって放つ、後はもう大混乱、周りの客は喧嘩しだし、殴るわ銃を撃つわでコックはカウンターの裏に隠れてしまった。

 そしてトールとしてカトルの二人はフォークを口に咥えながら、ナポリタンの皿を持ってカウンターの裏に飛び込んだ。


「よし、じゃあ騒ぎが収まる前にさっさと食って裏口から逃げるぜ。」


「はい、しかし、あの人達は多分伯父さんが差し向けた人たちなんでしょうね。」


 カウンターから少し顔を出して、状況を確認する。最初に現れた男共は既に店の外に投げ出されている。


「地図を手に入れる為にここまでやるかい?普通?」


「伯父さんは貴族らしい人ですから。」


「はっ!」


 ハーゲイ子爵を鼻で笑いつつ、銃弾で穴が空き、樽から漏れている果実水をジョッキに注ぐ。


「後をつけられてたか、まあ、腕っ節には自信があるから返り討ちにすりゃ良いけどよ。」


 果実水で一気にナポリタンを飲み込み、二人は裏口から店を後にする。


「ちょっ、お客さん代金!」


「店の外に放り出された奴らから受け取ってくれ!」




 ナポリタン代を見ず知らずの他人に押し付けた後、幸い二人は襲われる事無かった。そして。


「で、ここがその目的地か?」


「はい、地図によれば。」


 二人の目の前にあるのは一軒の廃墟、見るからに曰く付きの家ですよと言わんばかりだ。


「で、あのハゲの部下も周りにいる気配は無しと、んじゃ、お宝探しと行こうか!しかし、冒険王が残したお宝か、一体どんな宝なんだろうな?」


「さあ、お爺様も場所だけは教えてくれても中身は教えてくれませんでしたから、ただ金銀の財宝ではないでしょうね。」


「えっ!そうなの!?」


 宝箱一杯の金銀の財宝という小学生のようなベタな想像をしていたトールが豆鉄砲を食らったような顔になる。


「ええ、小説では手元に残るよう脚色してますけど、実際にそういった財宝を見つけた場合、歴史的や文化的な視点から、国や博物館に寄贈するよう法律で定められてるんです。」


「マジかよ!じゃあ折角宝を見つけても手元には何も残んないのか!?」


「多少は報奨金は出るみたいですけど、殆ど儲けはなかったみたいでお爺様も財宝ではなく、見つけた財宝に刻まれた歴史の背景を読み取った論文を発表して生計を立てていました。それにお爺様が言ってたんです。『冒険に求めるのはお宝じゃなくてロマンだ』って。」


「ロマンか、、、確かにそうじゃなきゃ財宝なんて探さないわな。」


「だから、余計に謎なんです。お爺様が隠した財宝というのが。」


「行けばわかるさ。」


 鬼が出るか蛇が出るか、トールとカトルは廃墟の門をくぐる。


「ゲホゲホッ!こいつはひでえな。」


 が、扉を開けた衝撃で埃が舞い、出鼻をくじかれてしまった。


「酷いですね、おまけに床の一部が抜けています。」


 カトルの言う通り、エントランスの床の一部が抜けている。


「この放置され具合から察するに、他にも色々とガタが来てそうだな。地図には詳細の場所は書いてなかったんだよな?」


「ええ、地図にはこの屋敷の場所しか。」


 筒の中に入っていた地図をカトルは眺めるが、やはり島の場所と屋敷の場所しか記されていない。


「しゃあねえ、しらみつぶしに探すか!」


 拳を合わせ気合を入れる。こうなったら根気との勝負だ。

 そうして始まったお宝探索から数十分後。


「ダメだ、全然見つかんねえ。」


「げほっげほっげほっ!」


 エントランス以外のキッチンや二階のテラス、寝室なども探したが財宝のざの字も見つからない。

 見つかったのは精々血参れの包丁と血文字で壁に書かれた文字、時折うっすらと見える幽霊だけ、わかったのはこの廃墟に来るべきなのはトレジャーハンターではなくゴーストバスターという事だ。


「お爺様の事だから、簡単には見つからないと思っていましたが一体どこに?」


「後探していない所となると、、、」


「っ!危ない!」


 息を整える為しゃがんでいたトールが立ち上がり、歩き出す。しかし前が見えていなかったのかその先には先程の抜けている床だった。


「お?うおおおおおお!?」


 そして踏み抜き、地下へと落下するトール。


「だ、大丈夫ですか?」


「ああ、何とか生きてる!どうやら下にベッドがあったみたいだ!・・・ん?おい、此処に何か扉があるぞ!」


 落ちた先で何かありげな地下室と扉を発見したトールにカトルも恐る恐ると言った様子で、崩れた床から地下室へと飛び降りる。


「これは、、、もしかして伯父さん達に地図を奪われても隠し通せるようにわざと床を踏まないようにしたんでしょうか?」


「かもな、普通の奴だったら絶対にあの崩れた床は避けるだろうしな。」


 明らかに落ちてくる人間を受け止める為に配置されたベッドから起き上がり、扉へと向かう。

 扉を開けるとそこは小さな書斎で、その一角に宝箱のような物が鎮座されている。


「あれが宝か?、、、アンタが開けろよ。」


 思わず飛びつきそうになるトールだが、元々カトルの祖父が彼の為に残した遺産、野暮な真似はしない。


「・・・では、開けますよ。」


「おう。」


 ゆっくりと宝箱を開けるカトルにトールの拳が手汗をかく。そうして、開けられた宝箱の中に入っていたのは、、、


「こ、これは、、、」


「な、何だ?」


「別の宝の在り処を示した宝の地図です。」


「だあああああ!」


 古典的ギャグのように顔面から地面に倒れこみスライドするトール、起き上がりカトルの手元を確認すると確かにそれは別の宝の地図で、隅に”もうちっとだけ続くんじゃ♪”と書かれている。


「いや、そりゃあ、冒険王が残した最高のお宝なんだから簡単には手に入らないとは考えてたけどよ、、、」


「すいません、、、期待させておいて、、、あの、、、もうこれ以上付き合っていただくわけには、、、サインは後日、、、」


「気にすんな。こうなりゃ、乗りかかった船だ最後まで付き合ってやるよ。」


 移動手段は飛行機だがな。


「取り敢えず、あのハゲイ子爵の仲間に見つかる前に飛行機に戻るぞ。またナビを頼むぜ、相棒。」


 やけっぱちなテンションでカトルを相棒呼ばわりすると、カトル本人は照れ臭そうに笑う。


「でも大丈夫でしょうか?飛行機が伯父さんに抑えられでもしていたら?」


「そこはちゃんと防犯がしっかりしてる飛行場に止めたから問題ないぜ、それよりも気を付けるのは飛行場に戻るまでと飛行場から飛び立った後だな。で?次の目的地は何処なんだ?」


「ええっと、次の目的地は昔お爺様が見つけた初代アルバス国王が財宝を隠すために作ったと言われる遺跡がある無人島ですね。」


「へえ、そりゃまたワクワクする島じゃねえか。」




 人工的に加工された岩によって作られた長い通路、光が一切差し込まない暗い空間を懐中電灯一本という頼りない灯りで突き進む二人の少年がいた。


「だあああああ!何なんだよコレ!アンタの爺さん、本当に財産を渡す気が合ったのかよおおおおお!」


「すいません!すいません!すいませえええええええん!」


 叫びながら通路を全力疾走するトールとカトル、その背後から巨大な岩の玉が二人を押しつぶそうと迫ってくる。

 屋敷で新たな地図を手に入れた二人、その地図に記された場所へ飛行機で向った彼らは途中怪しい飛行機に追跡されながらも襲ってくる気配が無いので放っておくことにし、無事目的地の島へ着いた。

 その島は無人島で木々が生い茂り、適当な場所に飛行機を停め、島の中を散策すると奇妙な岩でできた遺跡への入り口と地下への階段を見つけた。


「こりゃ、見るからに怪しいな。」


「ええ、進んでみましょう。」


 長期の荷物の運送の為に用意しているキャンプ道具の中から懐中電灯を取り出し、いざ遺跡の内部へと進むトールとカトル。

 だが、二人が中の階段を降りて暗い坂道となっている通路に入った瞬間、階段が突如崩れ出し、二人の背後から巨大な岩の玉が出現し、坂道故二人を押しつぶそうと迫ってきたのだ。


「「おおおおおおおおおおお!!」」


 余りにもベタなトラップとそれに引っかかった自分達の馬鹿さ加減に後悔しながら、遺跡を突き進む二人、気分はインディなジョーズである。

 そして漸く通路の終わりが見えてくる。といってもそこは断崖絶壁で下には大量の石槍、そして少し離れた場所に別の通路の入り口がある。


「「おりゃあああ!」」


 完全に一致したタイミングで通路の終わりを爪先を前にだすという何処かで見た構図でジャンプする二人。

 石槍に体を貫かれる事無く、無事別の通路の入口へと着地し岩の玉は、地面に落下し石槍を砕いていく。


「なあ、もしかしてアンタの爺さん。地図が奪われることを見越して、あのハゲ子爵を殺そうとしてたんじゃないのか?」


「薄々僕もそう思えてきました、、、」


 ふと恐怖を感じた二人だが、もう後戻りはできない。死ぬかもしれない恐怖を抑えながら、トールとカトルは遺跡の奥深くへと進んでいく。

 尚、大抵こういう時は死亡フラグである。

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