第831話 【次元の狭間】

 私はリュアの背に乗りながら【次元の狭間】を飛び交う。


 その中でリュアが私に声をかけてきた。


「ところでケロナ、もう事は分かっているよね?」


「...ああ」


「たまたま私が貴女の魔力の波動を感じて次元を裂いたからこそあの世界にたどり着いた訳で、貴女のいないあの世界に私はもう戻れない」


「分かってるわよ、そんな事くらい...」


 私だって彼女が次元の狭間の中で急接近してくれたお陰で彼女の存在を察知できたのだから...。


「無数に存在する【次元の狭間の世界】で同じ条件に該当する世界を参照するのは余りにも難しい...、けれど私たちのいた世界は別って事でしょ?」


「ええ、私達のいた世界には私やケロナのような【アリカスターズ】達が沢山いるからね、これだけ遠く離れていてもあの世界だけはやっぱり私達にとって大切な世界だって感じるの...」


「...そう」


 彼女の言っている事は何と無く分かる。


 同種族の多い世界と言うのはやはりそれだけで落ち着くのだ。


「それに...、あの世界はアリカのいる世界だからね」


「...そうだな」


 我らが主人【魔王アリカ】の名を言葉にする彼女。


 彼女は我ら【アリカ☆】の存在意義。


「さあ、もうすぐ私達の世界に帰れるよ」


 彼女の言葉に私は「ヨミ...」と声を漏らしていると...。


 いきなり不快感の塊のような邪気が背後から追ってくるのを感じた!!


 咄嗟に【あまみん☆=バスターDDF】を構えながら背後に振り向いた瞬間にそれはいた。


「ケロナァァァァ!!!!」


 黒い邪気の塊が私の名前を叫びながら追ってくる!!!


「アポロ!?」


 そう! 声の質感的にアポロが魂だけの存在となってまで私を追い回して来たのだと理解した。


「【ケロっとすぱいらる☆】」


 私はとにかく応戦したのだが、幽体には武器も魔法も効果がない。


「ケロナァァァァ!!!!!」


 彼はそう叫びながら私の体を押さえつける。


「ぐっ!?」


(幽体の癖に肉体に触れるなんて、なんという執着心なんだコイツ!)


「ケロナ!! もう少しだから耐えて!! ここが【次元の狭間】だから死して短いこいつが存在しているんだと思う! 肉体を失った魂は私たちの世界にまではついて来られないはずだからもうちょっとだけ耐えて!!!


「耐えろって言われても...」


 私の攻撃は一切通さないので逃げるしかないのに、押さえつけられてはどうしようもない。


「ケロナァァァァ!!!!!」


 彼は私の名前を叫びながらドス黒い瘴気を浴びせかけてきた。


(こいつ!!! 【次元龍】の【瘴気】を使いやがった!!!)


 これだけの至近距離で高密度の【瘴気】を浴びせられてはたまった物ではない。


「もうすぐ抜ける!!」


 そう彼女が叫んだ瞬間に夜空が見え始め先ほどまであった【瘴気】は消え去った。


「はぁ...はぁ...、なんて執念深い奴だ...」


 息を乱しながらそう呟く私を見かねたのか取り敢えずそこらの湖に着陸する彼女。


「ケロナ大丈夫!?」


「あ...ああ、なんとか...」


 よろよろしながらも彼女から降りて着水しようとした時だった。


 急にリュアの奴が声を上げたのだ。


「ケロナ!? その姿は!?」


「...えっ?」


 私は湖に映る自分の姿に目を疑った。


「な...何これ〜!?」


 なんと、蒼髪だった私の毛髪は黒色に染まり背が縮んでいたのだ!!


 それだけではない! 私の腰の辺りからおたまじゃくし時代の名残である尻尾が生えている!!


「あ...アポロの奴!!!」


 どう考えてもあいつのせいだ! きっと先程の戦闘の中で私に何か呪いをかけたのだろう。


【成長巻き戻し】のような魔法でもあいつなら使えそうだし...。


「くそっ!!」


 私は近くにあった【あまみん☆=バスターDDF】を取ったのだが...。


「嘘っ!? これも刀身が短くなってる!!!」


 刀の性能も吸われてしまったのか唯の【あまみん☆=バスター】と略されていたのだった...。


 つまるところあいつは腹いせにあの世界での私の経験を全て持っていったのだろう。


 いや、それだけではない。


 身長が縮んで年齢が戻っていてる所を見るにそれ以前の成長も吸われてしまっているのかもしれない!


「やってくれたな!」


 私はそう叫びながらもうこの世には居ないアポロへの憎しみを増大させているのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る