第830話 皆との別れ

 私達はとある草原に降り立ち【大帝城】の最後を見守ると同時に皆の回復を待った。


 しばらくすると高レベルの皆は目を覚まして行く。


「ケロナ!」


「ケロナお姉様!!」


「ケロナさん!」


「ケロナちゃん!」


「師匠!」


「ママっ!!!」


 皆に名前を呼ばれながらミルシュには抱きつかれてしまったので妙にむず痒いが言わなければならない事がある。


 私はミルシュを優しく払い除けるとサラの前に立ちこう呟いた。


「サラ」


「...」


 サラは何も言わない。


 私の事をじっと見つめているだけだ。


 ようやく私の名前を呼ぶと彼女は涙を流した。


「ケロナお姉ちゃん...、また1人で行っちゃうの?」


 その言葉に皆は驚いていた。


 それと同時にサラが私の手を握りしめる。


「嫌だよ...、弱い私にはケロナお姉ちゃんがいないとダメなんだ!! もう村の皆もいないんだよ!!! 一人ぼっちな上にケロナお姉ちゃんのいない世界なんてそんなの寂しいだけだよ...」


 そう叫ぶ彼女を優しく抱きしめながら私は言いました。


「大丈夫、今のサラは強いよ、それに今は一人じゃないだろう?」


 私はそう言いながら仲間達の方に指を差す。


「レイナ、身勝手な言葉で悪いけど師匠としてサラの事を頼む」


 私の言葉にレイナはこう答えてくれた。


「...ハァ、ケロナと私の仲ですしね、良いですよ」


「エリーゼ」


「はっ! はいっ!!」


「たまにで良いからサラと遊んでやってくれ、サラは見ての通り寂しがりやだから頼んだよ」


「分かりました! このエリーゼ=シュライン! ケロナお姉様との約束をお守りします!」


「よしよし頼んだよ、次にプラル!」


「は...はいっ!」


「ホビットの王国復興は難しいかもしれないけどさ、アトラ大陸には私とサラが住んでいた廃村がある、レイナがいれば住むところには困らないからしばらくの間滞在してくれないか?」


「勿論です!」


「じゃあ...キィアは...」


 なんか輝かしく目を光らせているので後にしよう。


「やっぱりポニー」


「はいっ」


「サラって結構物を壊しちゃうからさ、修理を頼める?」


「他ならぬケロナお姉様の頼みであれば...」


「うん! 任せた、そしてミカ」


 ミカは私の言葉が発せられる前に声を出した。


「私にもサラを頼めるかって言いたんでしょ? やだよ、師匠には悪いけど私には私の野望があるんだ、師匠についていっていたのも自分の自力を上げるためだしね」


 元気な彼女を見て私は笑みをこぼした。


「うん、ミカはそれで良いよ、じゃあミルシュ」


「ママ?」


「ミルシュには...」


 私が言い切る前にミルシュは私に抱きついて来た。


「嫌だよ...、ミルシュにはママが必要だ...」


「...ミルシュ」


 確かにこの中で1番年齢が低いのは彼女でしょう。


「ママ、ミルシュは覚悟できてるよ、ママの元いた世界がどんなに過酷でも耐えられるように頑張るから...、ミルシュをママの側にいさせてほしい」


 その言葉に私はなんと返しましょうか?


 一呼吸置いた後に私は言いました。


「ミルシュ、貴女はこの世界の住人、ならばこの世界で生きて行くのが1番良いの、分かって頂戴」


 しかし駄々をこねてくるのが如何にもミルシュらしい。


「やだやだ! ミルシュはママと一緒が良いもん!!」


 こなうなると困ってしまいますね...。


 私が困っていると...。


「【睡眠スリープ】」


 サラがミルシュに睡眠の魔法をかけて黙らせてしまいました。


「うっ!? サラ...むにゃ...」


 一瞬にして眠りにつくミルシュを見ながらサラは決心したように言葉を発する。


「...ケロナお姉ちゃんはあっちの世界にヨミって子がいるんだよね?」


「...聞いていたか」


「うん...、確かにお姉ちゃんが行っちゃうのは寂しいけれど、本当はお姉ちゃんはこの世界に居る人じゃないからね、この世界に残って欲しいなんて私の願望を叶える為だけに残らせるのはやっぱり違うって分かる」


 あれだけ小さかったサラもこの旅を通して少しは大人になってくれたようで感無量だ。


 私は最後に彼女の体をギュッと抱きしめてこう呟いた。


「サラ、お姉ちゃんはいつまでもサラのお姉ちゃんだからね」


「うん...うん!」


 涙を必死に堪えながら妹はそう頷いた。


 皆との別れ言葉をひと通り言い終えた私はリュアの背中に飛び乗る。


「皆...またね!」


 私は皆に手を振りながらリュアに言った。


「もう大丈夫、サラには良い仲間ができたから」


 その言葉を聞いたドラゴンは翼をはためかせてこの大地から飛び立とうとしたのだが...。


「ケロナちゃん!」


 突然キィアの奴が大声を上げた。


(あっ、結局キィアの奴と会話してないな...)


 彼との最後の会話ですし、一応聞いてあげましょうか。


「なに?」


 私の言葉を聞いた彼はさらに大きな声でこう叫んできた。


「好きだ!!! 結婚してくれ!!!」


 いきなりの告白に少々戸惑いましたが、彼が私の事を好いていたのはなんとなく分かっていたので軽くあしらう。


「キィア、貴方は勇者でしょ? 私なんかよりも魅力的な女性がきっと見つかるよ」


 だいたい初めて会った時にあれだけ女を侍らせていたのだからその点は問題ない。


 そう思っていると...。


「違う! ケロナちゃんの代わりなんていない!! 俺は世界で一番ケロナちゃんを愛している!!!」


 ...正直困る。


 なので適当にあしらいましょう。


「キィア、私は魔物なの、人間であるあなたと結婚できる訳ないでしょう」


「人種なんて関係ない! 俺はケロナちゃんが好きなんだ!!!」


 ...何を言っても無駄そうなので静かな声でリュアに「早く行こう」と呟きました。


 それを聞き入れた彼女は凄まじいスピードで上空に飛び去り、空をガラス細工でできた鏡でも割るような感覚で次元を超えるのでした。

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