第751話 激痛の中

 痛い。


 顔が体が腕が足が...。


 全身がひりつくような痛みに耐えかねていると言うのにまだ死ねない。


 その状態でしばらく待っていると、徐々に痛みが引いてきました。


(なんだ...?)


 体全身の痛みがなくなったかと思えば目を開いて辺りを見回してみます。


「ママっ!! 大丈夫!?」


 いきなり声をかけられた方向を見てみると、そこには首が曲がって死んだはずのミルシュが平然と生きていました。


「ミルシュ!? なんで生きて....」


 そこまで言いかけると彼女はこう答えました。


「えっ? なんでって修行だからだよね? ママは昔あんな強いのと戦っていたんだね、ミルシュびっくりしちゃったよ」


「あれが修行...?」


 思わずそう呟いてしまう程にリアルな感覚だったので驚く私。


「ミルシュ、今ミルシュの知っていることを全部教えて」


「えっ? なんで? ママもずっと一緒にサラって人の説明聞いてたよね?」


 いきなりサラの名前が出てきたのでさらに驚く。


「サラに会ったの!?」


「わっ!? いきなり大きな声をあげないでよ!!」


 ミルシュ自身も驚きながらもこれまでの経緯を話してくれた。


「【幻夢界】? 私がサラ達と合流してこの奇妙な空間に貴方達と修行する為に...?」


「そうそう、ミカはなんか恨みのある奴をボコして発散してるよ、恨みを果たした時は全くスッキリしなかったって言ってたけどもう一度戦ってみたら手応えのあるサンドバックになってたから楽しいって言ってた」


(だからミカが側に居なかったのか)


 ミルシュのお陰でなんとか現状を理解できました。


(と言うことは何? まさか【次元龍】の奴が私達に塩を送るような行為をしているって事?)


 アポロの裏切りからの記憶が全くないせいでなんとなくそうなっているとしか思えない私。


「ミルシュ、今すぐミカを呼んできて! 今から私の身に何が起きたかを2人に話すから!」


 真剣な私の目を見た彼女はただならぬ雰囲気を察知してくれたのか急いでミカを呼んできてくれました。


「師匠? 何? 私は今気分を晴らしてたんだけど」


 ミルシュの話を聞く限り世界に危機が起き始めていると言うのに呑気な奴だなと思いつつも私の身に何が起きていたのかを全て話しました。


「「えっ?」」


 私の話を聞いた2人は目を丸くしています。


「ってことは何? さっきまでの師匠の体は実は【次元龍】が操っていて、私とミルシュはまんまとこの場所に連れてこられたって事?」


「多分そうだと思う、だから良い? もしも貴方達が目覚めて私の体が動いていてもそれは【次元龍】だと疑うこと」


 口が動く今のうちに私は2人に対応策を伝えておきます。


「【次元龍】の真意が分からない以上は現実での私の言うことは信じないで、そしてもしも私の意識がある時は水の魔法で貴方達2人の左右の耳に水を発生させるから、あっちに戻って私と話して耳が湿らなければそれは【次元龍】と話していると思って警戒して頂戴」


「分かった」


「うん! 分かったよ!」


 ミカもミルシュも理解してくれたようで良かったです。


「じゃあ取り敢えずここでレベルを上げましょうか、私の記憶を使えば今までの強敵と戦えるからね」


 流石にあんな化け物を最初の相手に選ばれるとは思いませんでしたが、どうやらミルシュの奴が「ママの記憶の中でママが1番苦戦した敵」と注文したそうです。


 結果的に全盛期ギサラと戦う羽目になってしまったので、今度はもうちょっと弱めの相手と戦いましょうか。


「取り敢えず私の世界の勇者と戦ってみよっか、2人共」


 2人には私の記憶に中でも比較的倒しやすい奴から挑ませてみる事にするのでした。

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