第732話 感じた事のない温かな気持ち

 知らない...。


 我は知らない。


 痛み、流れる血液、無数の死、叫び声。


【戦場の全て】


 たったそれだけで満たされていたはずの我の心。


 なのに...何故だ?


「ケロナ」


「ケロナお姉様」


「ケロナさん」


「ケロナちゃん」


「師匠」


「ママ」


 知らない。


 ケロナを呼ぶ皆の声が記憶越しに深く突き刺さる。


 肉体の本来の持ち主が彼女だからだろうか?


 いや、それにしても今までなぜ気がつかなかったのだろう?


 これだけ大きな影響を受けながらも我は今のいままで気がつかなかった。


 恐らくこの感情に何か蓋のような術式を貼られていたのだろう。


 それが先程の怒りによって増幅した魔力により破壊され今に至るのだと推測される。


 その中でもとくに深く我の心に響く声があった。


「ケロナお姉ちゃん」


 そう、妹の声だ。


「サラ...」


 自然とその名前を呟く我。


 


 我はこんな感情を知らない。


 誰かをという強い思い。


「...」


 寒い暗い洞窟の中で我はとある事を決める。


 この世界の人間を滅ぼす事は我を召喚したこの世界の人間達の意思による決定事項だが、これくらいは良いだろう。


 我はゆっくりと立ち上がり、黒い翼を翻しながらとある場所へと向かうのでした。

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