第291話 ホビット族の墓

 私達はプラルにホビット族のお墓の場所を教えて貰い、ホビット族の里よりだいぶ遠くにある滝の前にやってきていました。


 〜滝の前〜


 初めて大きな滝を見たサラが大きく口を開けて「おっきいねぇ!」と声を上げる。


「たしかに大きくて綺麗ですわね、まあ! お姉様の水魔法の方が綺麗ですけど」


 などと盛り上がっている2人を置いて、プラルは滝の裏手側へと向かって行った。


「こっちです...」


 そう呟きながら水で滑る滝の裏手側を歩いていくと...。


「これは...!」


 思わずそう呟いてしまうほどに立派なお墓がそこにはありました。


 滝の裏手側には熊の銅像があり、この地域に住まうホビット族がその生涯を終えるとこの下に白骨を埋めると言う。


 熊はこの地域のホビット族にとって神聖なる動物とされているらしく、熊の素材が欲しくなって狩る時には必ずご先祖様全員の前で祈りを捧げてからは行うと言っていました。


 その後は悲しそうな瞳で仲間達の白骨を埋めていく彼女。


 今にも泣き出しそうな表情を浮かべながらも、骨を埋め終えるまで決して泣き出さないでいました。


 が。


 白骨を全て埋め終わると限界が来たのか大声で泣き始める彼女。


「皆...!、うっ...うぅ...」


 いくら【雷鳴蝶】の前に突き出されてしまったとは言え、仲間を全て食い殺された彼女には同情の余地はある。


 しかし、ことの真相を仲間達に話しているので風あたりは強い。


「少しかわいそうですが...、お姉様を危険な目に合わせたのですからこれを機に改心して欲しいですね」


 と空気の読めないエリーゼが呟いた。


 多分口に出さないだけでエリーゼと同じ事を皆が考えているのだと思うけれど、【スラナ村】で全てを失った自分の姿と彼女の今の姿が重なり合ってどうしても他人事のように思えなくなってしまう...。


 複雑な心境になりつつも、私の体はいつのまにか動いていて彼女に手を差し出していた。


「ねぇプラル、貴女さえ良ければ私達と一緒に旅をしない? 私達は【雷鳴蝶】も含む【大帝の眷属】達と戦う旅をしているの、殺されたホビット族を生き返らせる事はできないけれど、これから今の貴女のように奴らの手によって不幸な目に会う子達を救う事ができるかもしれないから...」


 そう言い聞かせましたが、彼女は反応を返してくれません。


 ただただ泣き続け、滝の裏には彼女の鳴き声のみがずっと響き渡っているのでした。

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