7話 交わる海岸の思い出

【7-1】




 翌日、朝起きてみると年末とは思えないほどの暖かさだった。


 みんなで朝食を食べてから外に出てみると、コートすら要らないほどのぽかぽか陽気で、私と結花先生はブラウスとジャンスカ、カーディガンというお揃いのコーディネートにした。


 実は出発前から二人で相談して用意していたものだったから、コートなしでお洒落できるのが嬉しかった。


 3年前に啓太さんと二人で来たときに訪れた神社に歩いていく。


「今日は何もありませんね」


「あのときは夏祭りでお店たくさんあったからな」


 あの時は地元の夜祭りの日だったから、参道にはたくさんの屋台も並んでいた。


 今日はそんな賑わいもない。街中ではクリスマス当日でお祭りのようなところもあるけれど、神社の境内はもう新年の準備に忙しそうだ。


 お賽銭を入れ、鈴を振ってパンパンと拍手かしわでを打つ。


 今年1年を無事に過ごせたことへの感謝をつげて、そしてひとつだけのお願いをした。


「おみくじはいいのか?」


 参道の下にあるお茶屋さんで、男性二人が甘酒、私たちが抹茶をいただいているときに啓太さんが私に聞いてきた。


「うん、それは初詣のときに一緒に引くからいいの」


 毎年お正月は二人で神社に初詣に行く。それは私たちが子どもだった頃と同じ。そこでおみくじを引いて一喜一憂したあと、参道の屋台でたい焼きやたこ焼き、綿菓子を食べながら帰ってくる。二人で暮らすようになってから、それを復活させて、今でも続けている。


「あー、腹減ったぁ。結花、アメとか持ってないか?」


 男性陣のお腹がぐぅと鳴って、思わずみんなで笑い出してしまった。


「もぉ、陽人さん恥ずかしいですよぉ」


「仕方ないです。朝の量少なかったですもんね」


 そうだよね、今朝は和風の朝ごはんだったけれど、昨日の夜におにぎりを出してもらったこともあって、少なめにしてもらったんだっけ。


「確かに夜は豪華だって教えて貰ってるからさ、少なめにとは言ったけど、これじゃ夜まで持たないぜ」


 啓太さんが苦笑しながら、お昼を食べるお店に海沿いの道を歩き出した。


 そのお店も、私が高校2年生の夏に連れて行ってもらったところ。




 思い出すよ。あのときは、まだ啓太さんに私の足のことも話していなかった。


 でも、海岸でよろけてしまった私の様子だけで私の足が傷ついていること、そして体が疲れてしまっていることを見抜いて、マッサージやリハビリに付き合ってくれた。


 千景ちゃんのお父さんが整体の先生ということにも助けてもらえて、ずっと体力や筋肉をつけるリハビリを続けているから、今では怪我をして足を痛めていたなんて思えないほど。


 少し曲がって付いてしまっている足の骨もほとんど気にならない。


 そう、先生と生徒という関係ではなく、幼なじみのお兄ちゃんと私という関係を再開させたのは正しくこの場所だったよ。


「こんにちはー」


「いらっしゃい。あれ、確か長谷川さんちの?」


「あれ、まいったなー、覚えてた?」


 啓太さんがお店のおじさんと話している。


「そりゃそうだよ、あんな可愛い女の子連れてきたんだし。おばさん喜んでたぜ? 甥っ子がいい嫁さんもらえたってさぁ」


「じゃあ、せっかく花菜だけじゃなく二人も連れて来たんだからおまけしてよな?」


 海が見えるお座敷で、各々注文をお願いしてひと息をついた。


「夜ごはん、たくさんあるんですから、食べすぎないでくださいよ?」


「大丈夫だ、蕎麦ならすぐにおなかも空くだろう」


 そんないっぱい食べる啓太さんと陽人先生には、お蕎麦に炊き込みご飯をおまけでつけてもらって、私と結花先生にはあんみつを出してもらったっけ。


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