第11話 アクノソシキ

静かにその場に崩れ落ちたほのかを眺め、ぬいぐるみをとろうとする。

だが、そのぬいぐるみはほのかの手を離れることはなかった。


「なるほど、嘘をついてるわけではないのですね」


杖をそっとむけ、静かにとなえる。


「拒絶し、拒絶し、追放しなさい。追放|《リリース》」


彼女の声色からは想像できないほどの衝撃が、ほのかの体を襲ったが、彼女が目覚めることもぬいぐるみが離れることもなかった。


「いいいいいいやっきゅうううううううう」


小刻みに震え、ぬいぐるみは苦しそうな声をだした。


「あら、お目覚めでしょうか」


「これだけ巨大な魔力を充満させておいて起きない方がおかしいっきゅ。うぇぇ気持ち悪いッキュ。御神木の聖域をこんな邪悪な魔力で覆って、罰当たりっきゅ!!!」


「ふふ、でもそのおかげであなたとお話ができました。」


ころころと初老の女は笑う。


「この場所はカウンターズや魔法騎士隊が守っていたはずッキュ!いままでの儀式のときもそうだっきゅ」


「えぇそうですね。いましたね。その時最強の魔法少女が運び、魔法騎士が守り、カウンターズがサポートして、竜宮神社から、ここ御神木の祠にあなたを移送する。代替わりの儀式。この町を守るための儀式。ふふふ、いやぁ久しぶりに汗をかいてしまいました」


ぱたぱたと手で仰ぐ。


「そ…そいつらはどうしたっきゅ」


「消えてもらいました」


「…きゅ?待つッキュ。魔法騎士隊はすごく強いっきゅ。それにカウンターズは魔法のスペシャリストっきゅ!そんな馬鹿な事この数十年起きなかったっきゅ」


「あらあら。今まで起きないからといって、今日起きないとはかぎらないですよ」


彼女は冷たく言った。杖をふるうと空中からボロボロになった魔法使いが降ってきた。その一人の頭に杖をあてると、杖先が赤黒く光った。


「おかげさまでいろいろなことを教えてもらいました。魔法国の内情、女王の企み、この町の秘密なんかも。あぁ、あなたのことも」


緑のぬいぐるみのほうを見てほほ笑む。


「きゅ」


「かわいそうですね。パートナーに捨てられて、ただの道具になりさがった、元神様」


「ミッキュは捨てられてないっきゅ」


「あなたのパートナーの名前を思い出せますか?」


「もちろんだっきゅ!あの子は、…あの子は…」


ぬいぐるみは口ごもる。


「なんでっきゅ!名前が思い出せないっきゅ!お前ぼくに何をしたッキュ」


「ふふふ。あなたたちの絆は所詮その程度。伝説の魔法少女とそのパートナーが聞いて呆れますね。その代わりに覚えてくださいますか。私の名前は小梅。アクノソシキ4柱が一人『春の小梅』。そして、記憶の魔法使い」


彼女はおだやかにほほ笑む。


「以後よしなに」

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