第10話

「…大きな木」

ほのかが青年に連れられて、くぐったドアの先には、巨大な木と、小さな祠があった。

「あれ?さっきは反対の方に進んだはずなのに」

「この町はドアとドアが繋がっているんだよ。」


木の葉の隙間から陽が静かに降り注いでいた。春の穏やかな日差しが心地よい。


周りを見渡すと壁に囲まれており、その壁も沢山の蔓植物の葉で覆われていた。


「御神木は破魔町のどこにいても見えるわよ」

「ひゃああ」


「まぁ、驚かしてしまったかしら。こっちこっち」


初老の女性が祠の前で穏やかに手を振っている。


「あれ?おばあさん?」


ほのかがお使いを頼まれたおばあさんがそこにはいた。日傘をさして、着物を着た老婦人はほのかの方へ近づいてきた。


「親切で優しいお嬢さん。朝ぶりね。」

彼女は微笑む。

「ねぇ、知ってる?この祠はかつてこの地で起こった戦いの死者を祀っているのよ。」

「戦い?何の戦いなんですか?」

ほのかが聞くと老婆は少し悲しそうな顔をして、口を開いた。

「そうよ。戦い。この地を守る大いなる存在と魔法使いの戦い。それと、勘違いした人間たちと魔法使いたちの泥沼の戦い」


「勘違い?」

「魔法は不幸しか生まないのにね」


彼女が手をかざすと、青年の姿はたちどころに消えた。

「え?え!」

「魔法よ。魔法。あなたを迎えるための準備ができたから、呼んでもらったの。ほのかさん、わたしのお人形は見つけてくれたかしら」


ほのかは呆気にとられて、反応出来なかったが、老婆はほのかの腕をとり、人形を見つめる。


「懐かしいわ。あの時見た姿のままね。だいぶ汚れてしまったようだけど」


「想い出の人形なんですよね」

老婦人はこちらを見ない。

ほのかは確かめるように言う。


「そうね。家族みたいなものね。ほんとは、妹のものなのだけど。一緒に過ごすうちに愛着が湧いて。」

彼女は人形を撫でる。頭を撫でている。

「ようやくわたしの元に帰ってきたわ」


「えっと、おばあさん。この人形手から取れなくて」

「あぁ、そうだったわね。あなたの役目はここまでよ。ありがとう。」


彼女は着物の裾に手を入れて杖を取り出した。


「おやすみなさい」

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