第9話

にじり寄る氷の猫にほのかは、後ずさる。


「不思議だにゃあ?不思議だにゃあ?にゃぁの魔術をすり抜けて、神社にいたのはどうやったのかにゃ?」


「わたしは、ただ、おばあさんに頼まれて…」


「いんや。わたしの術式はしか入れない結界をつくったにゃ。お使い程度の想いなら、そもそもあの神社にたどり着くことすらできないにゃ」


ほのかの背中は店のショーウィンドウにぶつかり、猫との距離はわずかだった。


「にゃはははは、は」


突然猫の下半身が消し飛んだ。


「ありゃ、りゃ、君たち、全てが終わったら、学園に、おいでにゃ、悪いようには、しな」


崩れ落ちる最中、猫はそういった。


「大丈夫かい?君たち!」


声のする方へ顔を向けると、杖を構えた青年が立っていた。


「早くこっちへ来るんだ。」


「は、はい!」


助けが来たんだ。怖かったよ。その青年はほのかの手を引き、商店街の入り口つまり、御神木とは反対の方向へと突き進む。


「ちょ、ちょっと待ってください」


「どうしたんだい」


歩みを止めずに、青年が答える。


「し、知り合いが、まだあそこにいて」


「大丈夫、大丈夫!ちゃんと後からくるって」


「でも…」


「いいからこっちへ」


青年は力強くそういうとほのかを連れて行ってしまった。


氷の動物立ちに抑え込められていたかおりは、猫の消失と共に、体の自由を取り戻した。


「ごほっ!ごほっ!ほのか!」


だが、彼女は魔力を使いきり、そのままうつ伏せのように倒れてしまった。

咳き込むかおりからはかすれた声しか出なかった。


「…無様ね」


底冷えする声が頭上から聞こえる。

首だけを傾けて、声の主を探す。


「し、師匠」


セーラー服の彼女は狐面を少しだけ外して、かおりを見下ろす。


「かおりちゃん…。御神体はどこ?」


「つ、連れて行かれ…」


大きく、ため息をついた。


「なんで、こんなことをしたの?あの子は何者なの」


「だって」


言い淀む弟子の頭に杖を向ける。


「ひっ…。し、師匠が、思い詰めた顔をしてたから。今度の任務がなんかやばい任務かなって。それで、邪魔を」


「…」


「あ、あたしは、まだ師匠と、一緒に魔法少女として、この街を」


「…ふっ。バカね」


そういうところが、空回りというかなんというか。しょんぼりとする弟子を見据えながら、狐面を付け直す。


「かおり。悪いけど、今回の任務は、この町のため、魔法界のため、二つの世界を支えるための大事な任務なの。悪いけど、足手纏いはいらない」


「し、ししょう…」


泣き顔を見せるかおりに、さくらは投げかける。


「だから、わたしを支えてくれる?」

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