第8話

住宅地から、御神木と呼ばれる町の中心に生えている大きな木までの間に、商店街が立ち並ぶ。アーケードがかかり、雨の日でも買い物ができるようになっている。


しかし、


「…人がいないね」


「ああ…不気味だ」


「ぬいぐるみも静かになっちゃったし」


「魔力が切れたからか。また魔力を吸えば動き出すんじゃないか?今は構ってやれる余裕はないけどな」


住宅地でもそうだったが、ここも人がいない。山の中にある町といっても、さすがに商業施設がある場所なら人はいるだろうとたかをくくっていた。店自体は開いているようだが、店員も客もまったくいないのである。


「これは、なにかの魔法だな」


「でも、結界みたいなのはなかったんでしょ?」


「ああ…。でも、」


かおりは空を見上げた。


「私たちよりもはるかにレベルの高い相手になると、結界の張れる範囲はとてつもなく大きくなる。噂で聞いたことがあるんだけど、この町も他国から守るために何重にも結界が張ってあるらしいぞ。だから、力のある魔法使いは容易には入ってこれないって。さっき師匠もいたし、もしかしたら、ほかのカウンターズがいるのかも」


「さっきみたいな人がいるってこと?」


「いや、それ以上だ。師匠はなんだかんだいって、あたしがギリギリでよけれる攻撃しかしてきていない。もし、師匠が本気で、魔法と剣術を同時につかってきてたら、あたしたちはスタート地点で細切れの焼肉状態だぜ」


そういうと何かに気が付いて、ほのかはあたりを見回した。


ほのかとかおり以外には、彼女の出した氷の動物たちしかいない。


「おい、どうしたほのか?」


「ねぇ、かおりちゃん。猫ってかおりちゃんの動物たちの中にいたっけ?」


「は?猫?いねぇぞ?」


振り返ると氷像の猫がこちらをむいて、鳴いた。


「気づくのが遅いにゃぁああああ」


猫はそういうと大きなあくびをして、にやりと笑う。


「そんなんじゃ命が何個あってもたりないにゃあ」


「なっ」


かおりは急いで杖を猫に向ける。即座に小鳥が猫に襲い掛かる。


「ほっ!にゃ!にゃ!」


猫は華麗に鳥を跳んでかわす。すれ違いざまに氷の爪で小鳥をバラバラに砕いた。


「くそ!ほのか!さきに行け」


「待つにゃ!待つにゃ!戦いに来たわけじゃないにゃ」


「んだと!なめやがって」


「殺す気にゃら、さっさとやってるにゃ」


猫はそういうとほのかとかおりとぬいぐるみを眺める。


「ほのか、とか、いったかにゃ。君は何者だにゃ」


「おい、ほのかに近づくな」


「うるさいにゃ~おくちチャックにゃ!にゃまむぎにゃまごめにゃまままま!!」


いや、言えてなくない?


「『猫だまし』」


横にスッと猫は前足を振った。すると、


「む~!」


「かおり先輩!!」


かおりは急に苦しみだした。口が縫い付けられていた。必死に口を開けようともがくが、びくともしない。


「…これで、魔法は使えないにゃ。さっきもいったが、戦う気わ!!危ないにゃ~っ」


猫に向かって残った氷の動物たちが襲いかかった。


「ふ~!ふ~!」


「根性は認めるけど、それは悪手にゃ。お前の物は、にゃーのもの!『ネコババ』」


突っ込んでくる動物たちの間をするりとかわしつつ、かおりに近づく。


かおりは必死に杖を振るが、動物たちはそれ以上動くことはなかった。


それどころかかおりの方に向かってきたのだ。


「ッ!!!」


「そこで、静かに待ってるにゃ。別に殺しはしないにゃ。」


動物たちの体には、猫の肉球の跡が。そこから、全身に奇妙な文字が駆け巡っていた。


「さくらの弟子よ。君はもう少し、魔術について学ぶべきだったにゃ。魔法に頼り切りではまだまだ、魔法使いとしては半人前にゃ」


ほのかの方に向き直る。


「君は今回の件のイレギュニャーにゃ。何者かにゃ?」


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