第6話

氷の猪に押し飛ばされ、狐面の少女は杖を抜いた。20センチほどの杖には不揃いの赤い宝玉が3つほどついており、赤いオーラを放っていた。


「くっ…魔を喰い…魔を喰い、育てよ…育て、わたしの敵を喰らって燃やせ|火食い袋《ウツボカズラ》」


宝玉の一つが、鈍く光り、杖から炎のウツボカズラが出現する。素早く伸びたウツボカズラは氷の猪を丸呑みにし、魔力を吸い上げる。次の瞬間。昼間の空でも眩しいと感じるほどの一瞬の光と共に猪は蒸発した。


「はぁ…はぁ…だいぶ…飛ばされてしまったな」


慣性の法則に従い、そのまま地面を転がることになった少女は、そのまましばらくあおむけのまま倒れていた。


「かおりちゃん…強くなったな」


ゆっくりと立ち上がる。周囲の気配を伺い、ゆっくりと狐面をとり、汗を拭う。


黒く長い髪は艶やかで、メガネの奥で凛とした表情が隙を見せない。乱れた呼吸を深呼吸で整えて、心を落ち着かせる。


だいぶ距離が離れてしまった。


唐突にほら貝の音が道路に鳴り響く。


彼女はスカートのポケットに手を入れてスマホを取り出す。どうやら着信音のようだ。


「はい、こちら、『9』」


「さくらちゃーん、にゃっほーにゃ!」


電話の相手が元気に能天気な声で叫ぶ。さくらは溜息をついて、ささやく。


「『7』さん。通話中はコードネームで呼ぼうっていったのはあなたじゃないですか」


「そうだっけにゃ?」


さらに溜息が出る。


「連絡が遅いから心配になってしまったにゃ」


「心配なんて、冗談はよしてください。…町に人がいないのはあなたの仕業でしょ?」


「まさか、君たちがドンパチやり始めるだなんて思ってなかったにゃ。ちょっと強力な術式を発動させたにゃ」


「…人除け…いや、気配も感じないから、この規模で人払いの術式ですか。相変わらずすさまじいですね」


「せいぜい町の半分にゃー。まぁ、貸しにしとくにゃ。にゃーは、早く研究がしたいだけにゃ。今回の研究はかなり大事にゃ。我々にとって」


電話の相手は続ける。これでカウンターズの「7」。いったい上位陣はどれほどの化け物ぞろいなのだろうか。


「今回の任務はわかっているのかにゃ。さくらちゃん。を」


「…当然です。そのための三年間です。」


「わかっているならいいにゃ。女王様も期待していたにゃ」


さくらの表情は変わらない。


狐面をつけなおす。


「で、要件は何ですか」


「さくらちゃんはお堅いにゃ。この機に乗じて何人か魔法使いが入ってきているにゃ。それに、にゃ。警戒をするんだにゃ。すべては魔法使いの」


「—あるべき姿のために」



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