第4話

「…幻惑、錯乱、反射ってところか。少ない時間で、これだけ結界を重ねがけできるとは成長したのね、…かおり。後は防音もするべきだったわね」


民家の前にたたずむ女剣士。ほかの人間には玄関しか見えていない。見えていないし、たとえ、見たところで、すぐに忘れている。魔除けの狐面をつけている彼女だからこそ、この場所が見つけられたのである。


「悪ふざけにしては、度が過ぎている。おとなしく投降しなさい」


結界こそ見つけられたが、中の様子は伺うことができない。手を刀にかけ、鍔に指を滑らせる。


「…悪いけど、間違えて、切っても知らないから…ね」


返事はない。


「…魔炎剣・桜花火」


連続した金属音と炎が舞ったが、結界は崩れず、腕がしびれる感触だけが残る。

痛みに少しひるんだが、即座に切り替え次の手段を講じた。


「ッ…ほんとに厄介…うまく防いでね…魔炎剣・桜薙ぎ」


横薙ぎに抜いた刀は業火をまとって、結界を切り開いた。中から白煙が噴き出し、視界を遮る。彼女は反撃に備えて、抜いた刀を肩に担いで構え、素早く呼吸を整える。予測した通りに炎の中から飛び出してきた氷の鳥を縦に切り裂く。


「…まったく。同じ手を何度も喰らうと思う?…成長したのか、してないのか」


狐面の女は追撃はせずにバックステップで、足元に滑り出た氷の蛇を躱す。


「思わないね。…だから罠は二重に、三重に」


白煙の中で杖の刻印がいくつも輝く。すでに十分に魔力が込められた杖は、目の前の空中で身動きが取れない標的を狙い撃つ。


「吹っ飛べ!消し飛べ!!あっちいけ!!突撃!猛進!!氷猪ブルーカノン!!!」


杖から大砲の如く飛び出した巨大な猪は、敵を空へと突き飛ばす。


「くそ!」


「悪いね、師匠、よき空の旅を」

かおりは、空に消える敵に大きく手をふり、地面にうずくまり震える女の子に声をかける。


「顔を上げていいぞほのか」


「寒いし、熱いし、髪の毛少し切れるし」

「まったくだッキュ!抱えられても固い胸板しか当たらない僕の気持ちになってッキュ!拷問だッキュ!!」


少年の声が聞こえる。それはほのかの手にくっついた緑のぬいぐるみから発せられていた。


「・・・」

「・・・」

「・・・キュ?」


「「ぬいぐるみがしゃべったぁあああああああ」」

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