第2話

「ぼ…僕、こんな大金生で見るの初めてだよ。TVでなら見たことあるけど」

「ばか、俺もそうだよ」

2人は数を数えてみた。

「全部で10束あるよ」

「ひと束100万だろ。…マジか。1000万か。誰のか何か名前が分かるようなもんは入ってないのかよ?」

佐藤、興奮で自然と早口になる。

「待って。見てみる…。ないな。奥まで見たけど。お金しか入ってないよ」

「金だけか」

「そうだよ」

「…」

「忘れた人。困ってるだろうな。どうしよ。ここ駅員さんいないから。鉄道会社に。ああ、それよりも警察かな。…ねえ、佐藤はどう思う?」

「待て」

「え。待つって…。何を?」

佐藤は真剣は顔で、中村を見た。

「連絡することだよ。決まってんだろ」

「え。なんでさ。だって連絡してあげないと」

「…いいか。今このことを知ってるのは俺たちだけだ」

「まあ。そうだね」

「俺たちが黙っていれば、誰も分からない」

「えっ。ちょっと待って。まさか佐藤、僕たちでこのお金、もらっちゃおうっていうこと?」

「言い方がよくないな。俺たちで使ってやるんだよ。埋もれていた金を社会に戻すんだ。これっていいことだろ?俺たちが見つけなきゃずっと、このままだったかもしれないんだぜ」

「でも人の物を盗るのはよくないよ。やっぱり連絡しようよ」

「待て待て。どんだけ人がいいんだ。お前は。大体不自然だと思わないか?」

「不自然?」

「こんな小さな町の駅でよ。バッグに大金が入ってるなんて。なんか悪の匂いがする」

「悪の匂い?それって犯罪ってこと?」

「まあ。そうなるかな」

「それなら余計にだめだよ」

「違う。なおさらだぜ」

「…どういうこと?」

「悪い奴らの金ならよ。俺たちが正義のためにいっそのこと使ってやればいいじゃないか」

「そんな理屈、納得出来ないよ。それに悪い奴の金なら、それを使った時にもしばれたらどうするのさ?そっちの方が怖いよ。本当は佐藤が遊びためのお金がほしいだけでしょ」

「待てよ。話しを聞け」

「なに?」

「…わかったよ。この金がいる本当のことを言うよ」

「本当のこと?」

「これは言いたくなかったんだけどな。中村が話さないと納得してくれないんだから、仕方ない。まあ座れよ」

「…うん」

2人はカバンを置いて座った。

「金が必要なのは学費のためなんだ」

「学費?」

「ああ。うちの親父。個人で家の内装なんかを手がけてるんだけど」

「うん」

「ここんとこ、不景気でな。仕事が減ってきてるんだ。大学。俺の分の学費はなんとか出せるみたいだけど。陽子の分がな」

2人は幼馴染。

中村は陽子のことを、幼い頃から知っていた。

「陽子ちゃんが?」

「ああ。あいつ。動物好きだから。獣医になりたいって言っててさ。そのために専門学校に行かなきゃならないんだけど。金がかかるんだよ」

「…そうなんだ、陽子ちゃんが。それが本当なら協力したいと思う」

「だろ?だったら」

「でも」

「でもばっかしだな。お前。…まあ、いいや。なんだ?」

「それを今、証明できる?」

「証明?ああ。なるほどね。俺の話が嘘だと。金を欲しいためのデタラメなんじゃないかと、疑ってるわけだ。中村は」

「いや。そういうわけじゃ」

「あーもういい。もういい。お前の考えはよーくわかった。よし。じゃあ証明してやるよ」

佐藤、スマホをだす。

「どうするつもり?」

「聞かせてやるよ」

「聞かせる?まさか…」

「ああ。本人から直に話しを聞けばお前も納得するんだろ?陽子から話しを聞けよ。どんだけ専門学校に行きたがってるか。中村が陽子のことを疑ってるってな」

「陽子ちゃんに…。陽子ちゃんに…や、やめろ。やめてくれ」

「どうした?そんなに慌てて」

佐藤はにやりと笑った。

「それは俺のやり方に納得した。そう考えていーんだな?」

「…ああ。だから、そんなこと聞かないでくれ」

「よーし。それでこそお前は俺の親友だぜ」

「…」

「となれば、次はここから早く出ることを考えねーとな。次の電車までは何分後だ?」

「えーと…10分後だね」

中村は時刻表を見た。

「電車に乗っちまえば、俺たちの勝ちだ。そうだろ?」

「…そうだね。この時間から乗る人も、そういないと思うけど」

「あと10分の我慢か…。でもそれまでによ」

「うん」

「持ち主がさ。持ち主が取りにきたら、ヤバイよな」

「その可能性は低いんじゃないの?」

「なんでそう言える?」

「ここは待合室だよ。列車が来るのを待っている間置いといて忘れて。それで列車に乗っていったって考えるのが自然じゃない?」

「なるほど。まあな。そうかもしれない」

「でしょ」

「たださ。こうも考えられないか?」

「なに?」

「降りてきた客が、何か用事があって一旦、ここにカバンを置いたって」

「う~ん。それはちょっと弱いんじゃない?僕なら肌身離さず持っておくけどね

「そうか?」

「一体どんな用事が?1000万入っているカバンを置いておいて、どこかいく?」

「いか…ねーな」

「それに…」

中村。時刻表を見る。

「前の電車が来たのは20分も前だよ。気付くでしょ。普通」

「そうだな。俺の気にしすぎだ」

バタッ。ダンダン。

「んっ?どうしたの?」

「何か音がするぞ」

「えっ。音?」

「誰かここへ来るかもな」

「どっ。どうしよう!?」

「隠せ隠せ」

「ど、どこに!?」

「ベンチの下はまずい。ゴミ箱…ゴミ箱だ。ゴミ箱の中に隠せ」

「わ。わかった」

中村は乱暴にカバンをゴミ箱の中に突っ込んだ。

バタッ。ガラガラ。

待合室に入ってきたのは、若い女性だった。

駅員の制服を着ている。

「あれ。青山さん?」

「あ。本当だ。青山じゃねーか」

入ってきたのは女子の青山。やはり2人の高校の同級生。

青山は昔と変わらない人懐っこい笑顔を見せた。

「ん?おやおや。中村君に佐藤君じゃない?久しぶりだねー。2人とも」

「ああ。3年ぶりだね」と中村が言った

「青山。鉄道会社に就職したのか?」と佐藤が言った。

「そうだよー。聞いてない?」

「あ。そういえば言ってたな。誰か」

「へえ。制服似合ってるじゃん」

「ほんと?そう言ってくれて嬉しいなあ」

「最初の頃はコスプレだって皆から笑われてたんだけどね。ようやく着こなせるようになったかな?2人ともここにいるってことは、同窓会の帰り?」

「ああ。そうだよ」

青山はちょっと寂しそうな顔をした。

「今日の同窓会。私も行きたかったけど。勤務日だったから無理だったんだあ。どう?楽しかった?」

「ああ。盛り上がったぜ」

「よかったよー」

「いいなー。私もいきたかったなー。え、これから2人帰るの?東京だったよね。確か」

「そう。東京。新幹線で帰るよ」

「わーそうなんだ。それじゃあ大変だねー」

「まあね。でも仕方ないよ。明日2人とも授業あるから」と中村が言った。

「んで。どうした?青山」と佐藤が言った。

「僕達の見送りに来てくれたとか?」

「あはは。うん。そうだよ。なんちゃって。ちょっと探し物をね」

佐藤と中村は顔を見合わせた。

心臓はドキドキしていた。

「探し物…?」

「そうなんだ」

「うん。バッグなんだけど。色は黒の。2人は見なかった?」

「いや…見てないな」

「どんなバッグ?」と中村が言った。

「う~ん。ただバッグとしか言ってなかったから」

「そっか。誰かの忘れ物?」

「ほら。駅員の田中さんよ。覚えているでしょ?2人とも。白髪のおじいちゃん」

「ああ」

「覚えているよ。もちろん。ずっとこの駅で駅員をしていたからね」

「そうそう。その田中さん。一年前に定年になってね。まあそれで、私が地元っていうこともあって、この駅に配属されたんだけどね。それはともかく…。

30分くらい前。このホームでその田中さんが倒れてたの。私が発見したんだけど。救急車を呼んで病院に運んだの。

その後。床に携帯が落ちてるのに気づいてね。

かかってきたから出てみたら。病院からで。田中さんがうわ言でバッグバッグって言ってるって。

それでここにあるかもって見に来たわけ。確認だけどバッグ見なかったよね?」

「…いや。見てないぜ」と目をそらしながら佐藤が言った。

「中村君も?」

「う、うん」

「う~ん。そうかあ」

青山も一応ぐるっと待合室を見回す。

それから青山はゴミ箱の方に行こうとした。

中村が慌てて制した。

「青山。ゴミ箱は…」

「どうかした?」

「いや。さっきゴミ捨てたけど。何もなかったよって」

「そっか」

ふう…と中村は息を吐いた。

「あとは…トイレか。見てみた?」

「…見てない。てか男子トイレ行くのはちょっと」

「なんだよ。仕事だろ?」と佐藤が言った。

「そうだけどさー。じゃあ佐藤君、見て来てよ」

「え?俺かよ」

「そう。だって行けないからしょうがないじゃん」

「わかったよ。ならちょっと行ってくるわ」

佐藤は男子トイレに向かった。

「んー。でも。そのカバンに何が入ってるのかなあ?」と青山が言った。

「な、なんだろうね」

「そんなにうわ言でも言ってるくらいだから。よっぽど大事なものが入ってたんだよねえ。なんとか見つけてあげないと」

中村はなんとかして、この場を切り抜けないと、と考えた。

う…、と身体をかがめ口元をおさえた。

「ちょっと、お酒飲みすぎたかな。気分悪くなって。何か薬あるかな?」

「えー大変。待っててちょっと見てくる。

青山が駅員室に戻った。

その間に中村は、バッグの上にさらに新聞紙を置いて隠した。

少しして青山は、薬とミネラルウォーターのペットボトルを持って戻ってきた。

「ほら、これ飲んで」

「ああ。ありがと」

中村は薬とミネラルウォーターを飲んだ。

そこへ佐藤も戻ってきた。

「男子トイレには何もなかったぜ」

「あ。ありがと。うーん。そうかあ」

「こことは限らないんじゃないか?」

「どういうこと?」

「田中のじーさん。バッグしか言ってなかったんだろ?倒れたのが駅だからって、バッグがここにあるとは限らないだろう」

「じゃあ他にどこ?」

「そうだな。駐輪場の横とかさ。ロッカーがあるだろ?あそこは見たのか?」

「ううん。まだ見てない」

「田中のじーさんの意識が回復したら、聞いてみろよ。とにかくここにないのは確かだぜ」

「そうだね」

青山、待合室から出ていく。





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