ホームにて
空木トウマ
第1話
雪がパラついている。
ホームで列車を待つ2人。佐藤と中村。
時刻は7時40分。
「んだよ。帰りはお前と2人だけか」と佐藤が言った。
「しょうがないでしょ。東京の大学へ進んだのは僕たち2人だけなんだから。当然、帰りも一緒…ってことになるよね。」と中村が言った。
2人は高校の同窓会に出席するため、地元のN県に帰っていた。
2人はいつも、この路線を使って高校へ通っていた。
駅の待合室。
「うわー。降ってきたなあ」と佐藤が言った。
「ほんとだねえ。予報では降るなんて、全然言ってなかったのに」
「まっ、こっちの天気が変わりやすいのは、昔っからだけどな」
「そうだね」
「学校近くの交差点にあったコンビニ、つぶれたってね」
「あー。横山が言ってたなあ」
「僕らもよく利用してたコンビニだったからねえ。なくなったら生徒たちは困るねえ」
「やさしい奴だな。お前は。俺はもう卒業しちゃったから関係ないもんねー、ケケケ」
佐藤が笑った。
「しっかしこの駅もな」
「ん?なに?」
「ボロボロじゃねーか」
「元々こんなもんだったよ」
「そーか?3年でさらにボロボロになった気がするぜ」
「まあ。そりゃ、3年経てば、多少なりとも劣化するのがふつーでしょ」
「そーいや、あの駅員のじーさん。なんていったかな…」
「田中さん?」
「そーだ。田中のじーさん」
「まだやってんのかな」
「どうだろうね。結構いい年だったから。もう定年になってるかもね。正確なところは分からないけどさ」
「もー、くたばっちまってるかもな」
「まったく、口が悪いね。僕達にいつもよくしてくれたじゃない」
「冗談だよ。冗談。愛情の裏返しだよ。しっかし。参ったな」
「なにが?」
「なにが、じゃないよ、お前。井上のことだよ」
井上とは2人の同窓生の女の子だ。
「井上さんがどうかした?」
「あんなキレイになっちゃってさ」
「高校の時に俺、告白したけどさ」
「知ってる」
「告白“事件”のことだね」
「おいおい。人を容疑者みたいに言うんじゃねーよ」
「コテンパンに振られたよ」
「久しぶりに聞いたよ。そのフレーズ」
「もともとクラスのアイドルだったけど」
「うん」
「そうだね。あ…でも」
「なんだよ?」
「いや。聞かないほうが」
「途中だと気になるだろう。いいから言えよ」
「IT会社の人間と付き合ってるってさ」
「わーわーわー。聞きたくなーい。聞きたくなーい」
佐藤が耳を抑えた。
「…ほんと。面倒くさい奴だな」
「結局な。世の中あれなんだよ」
「あれ?」
「金だよ、金。金を持ってる奴がこの世の勝者なんだよ」
「そうかなあ?」
「そうだよ。決まってんだろ。じゃあ、お前にクイズをだす」
「唐突だね。クイズは好きだからいいけど」
「持つならどっち?いつもおごってくれる友達。いつもたかってくる友達」
「…。どっちかだけなの?」
「どっちかだけだ」
「そのクイズ。質問がゆがんでない?おかしくない?」
「じゃあ。僕の答えは」
「おう」
「どっちとも友達にならない、かな」
「なんだよ。中村。お前、つまんない奴だな」
「いいだろ。別に。どーせ僕はつまんない奴だよ」
「つかさ」
「うん?」
「電車遅くね?」
「そういえば…こないね」
「さみーから。電車来るまで待合室の中に行かねーか」
「そうだね。まあ、中に入っても寒さはそんなに変わらないとおもうけど。暖房器具とかないし」
「まーな」
2人は待合室の中に入った。
質素な作りの待合室。ベンチの他にゴミ箱がある。
「うわー。予想以上にボロボロじゃねえか。あ、見てみろよ。あそこ。クモの巣張ってんじゃん。俺、クモって嫌いなんだよな」
「佐藤。身体でっかいくせにそういうとこあるよな。ビビリなとこ」
「うるせーな。身体のサイズは関係ないだろ」
「あれ?なんか置いてあるよ?」
中村。ボロくなったベンチを見る。
「あん?どうした?」
「ほらベンチの下見てよ。バッグがある」
「どれどれ…」
「あ。ほんとだ」
ベンチの下には、黒いボストンバッグがあった。
「うん。誰か忘れていったんだね」
「誰んだろ。開けてみようぜ」
「えっ。いいのかな…」
「開けてみないと、誰のかわかんねーだろ?」
「そうだね。あっ!」
「うっ!」
中から出てきたのは―現金の束だった。
2人は目を丸くした。
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