第29話 兄妹
その日の夜、俺は部屋でだらだらと過ごしていた。
最近は色々あって疲れたので配信はお休みだ。
「お疲れ様です、兄さん」
妹の怜奈がココアを差し入れてくれた。
俺が疲れに疲れているのに気付いて、こうして気遣ってくれる。実に気の利く妹だ。
「これで晴れて家族公認で、姫宮さんとお付き合いできるんですね。おめでとうございます」
「あ、ああ、なんか改めて言われると恥ずかしいが」
俺と雪との間のことについては、母さんと怜奈には話してある。俺たちの間に隠し事はなしだ。
二人とも祝福してくれたし、母さんなんて息子に初めての恋人が出来たと大騒ぎだった。
「それで、あの忌々しい男……こほん。草加さんとはどうなったんですか?」
話題は変わって草加くんのことだ。
というか今、忌々しい男って言ったな……
どうやら怜奈は彼に良い印象を抱いていないようだ。
「うーん、和解したってことになるのかな。まあ、元々俺はなんとも思ってなかったから、わだかまりは無かったつもりだけど」
別に親友同士になったとかそういう話ではないが、まあお互いに過去の件については水に流した形になったと言えよう。
「兄さんは、甘々なんです……あんな目に遭わされたのに」
「でも、おかげでVTuberデビューのきっかけになっただろ? 最近はまた登録者も増えてきたし、万事順調だ」
期待の新人、猫西ゆずのデビューの余波で、アルの登録者数も伸びてきていた。
エゴサしていると、二人のコラボを望む声もちらほらと見られ、雪の当初の目標も叶いそうな勢いだった。
まあ、俺がイエスと言えばすぐにコラボが実現するはするのだが。
「そうですね。VTuberの活動は順調。姫宮さんなんて素敵な恋人も出来て、兄さんは幸せそうですものね」
確かに幸せの絶頂にはいるが、どこか寂しげな表情を浮かべる怜奈の様子が気になった。
「どうかしたのか……?」
「私は兄さんが幸せならそれでいいんです。でも、少し寂しくて。兄さんがどんどん、私とは別の世界に行ってしまうようで」
「怜奈……」
そうか。最近は自分のことばかりであまり怜奈に構ってあげられなかったもんな。
俺はそっと怜奈の頭をポンポンと撫でる。
「何があろうと、お前は俺の大切な妹だ。どこにも行きやしないよ」
「兄さん……」
怜奈が俺の胸に頭を押し当てた。
「ふふ。姫宮さんが一番でも良いですけど、こうして時々は私に構ってくださいね。私はそれだけで十分ですから」
「ああ。また、虫取りとかしような」
「それは子どもの頃の話です!! どうせやるなら、一緒にゲームとかしてください」
俺はむくれる妹をなだめると、久々に二人でゲームに興じるのであった。
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