第28話 結論
「さて、今日は色々とあったが、話はまとまったということで良いだろうか?」
泣き崩れる草加くんをなだめた後、改めて先日の修羅場に関する姫宮・草加両家のスタンスが出されることとなった。
「先日の一件は悠くんの誤解で、また、雪も最初から婚約を望んではいなかった。雪には他に特別に想う男性もいる。よって、この婚約の話はなかったことにする。それで良いだろうか?」
惣厳さんが草加一家に尋ねる。
それが姫宮一家の出した結論だ。
「異議はない。元々、私と惣厳が勝手に盛り上がっていただけの話だ。本人達の意志を尊重するのが一番だろう。悠はまだ未練たらたらのようだが」
「……グスッ」
草加くんまだ泣いてるよ。
瑞希さんが、子どもっぽいところがあるとか言ってたけど、そういうことだったのか。
「第一、あの様に啖呵を切るところを見せられたら、部外者の俺たちがとやかく言えるものじゃないだろう」
「そうね。少し、雪ちゃんが羨ましいわ」
俺としては当たり前の事を言っただけなんだが、そんな大層な話なのだろうか。
ふと、俺は隣の雪の方に視線をやった。
「……っ。あ、あんまり見ないで……今は恥ずかしい」
目が合った瞬間、雪がぼそぼそとつぶやきながら目を伏せた。どうやら、かなり照れているようだ。
かわいすぎる……
「誠一の言う通りだな。学生の頃の私には、あそこまで言う勇気など無かった」
「あなた、ヘタレですものね」
「うぐっ……」
なんだか惣厳さんと葵さんの関係が垣間見えるやりとりだ。
「さて、婚約解消については承知した。次に、愚息がしでかしたことについてたが……本当に良いのだろうか? 棄損した学用品の補填だけで」
「はい。自分も大して気にはしてませんし、話によると実行した人は別にいるようですし。それなのに、学用品の補填をしていただけるなんて、むしろありがたいぐらいです」
「……まったく。なんとも器の大きいことだ」
「本当はもっと怒って良いんだよ、陽」
雪がそっと俺に耳打ちした。
耳に吹き掛かる雪の吐息を感じて、俺は言い知れぬ興奮を感じた。
「そ、そうか!? い、いや、でも、本当、全然気にしてないから」
なんなら今の雪の何気ない仕草で俺の頭の中は一杯になった。
「せ、せめて、その補填は僕に任せて欲しい」
「なに言ってるんだ。お前の月五千のお小遣いで、何ヶ月掛かると思ってるんだ」
「バ、バイトするよ……」
え? 草加くんのお小遣い、五千円なの?
政治家の息子ならもっともらってるものだと思ってたが、なんなら俺よりも低い……
「今回のことで反省したよ。僕はイケメンで運動もスポーツも出来て、子どもの頃から周りにちやほやされてきた。そのせいでプライドばかり高くなって、思い上がってたんだ」
確かに、鼻につくほどにプライドが高い。本当に反省してるのか?
「普通、自分でイケメンとか言う?」
雪がぼそりと呟いたが、君は人のこととやかく言えないから。
「でも、そのせいで僕は自分の欠点を省みることをしなかった。それが今回の事態を招いたんだ。だから、僕が払うよ」
一部、疑問に思う箇所はあったが、とりあえず彼なりに反省をしているのは十分伝わった。
お小遣い五千円の彼にそこまでさせるのは少し気が引けるが、ここは彼の覚悟を汲もう。
「分かった。そういうことなら私は手を貸さん。お前の力で見事、補填して見せろ」
「は、はい」
ということで、お金についても何とかまとまった。
「だがもう一つ、どうにかしないといけないことがあるんじゃないか、誠一?」
惣厳さんが誠一さんに尋ねた。一体、なんのことだろうか?
「一体誰が、彼をこんな目に遭わせたとのかということかだな。悠、心当たりはないのか?」
「分からない……僕の仲間の誰かだとは思うけど」
「その人物をどうにかしないと、豊陽くんは安全に学園には通えない。それは、理解しているな?」
「もちろんだ。そっちも何とかするよ」
そうか。確かに、そういうことになるよなあ。
「やっぱり陽、まだ学園に行くのは早いんじゃ……」
「いやでも、雪と一緒に学園生活を過ごしたくなったというか」
「え……!?」
「雪は嫌なの?」
「嫌じゃない……嫌じゃないけど、ずるいよそんな言い方!!」
ぽかぽかと俺の胸を叩き始める。
うーん、かわいいなあ。
「まあ、その件に関しては悠くんと誠一に任せるとして、もしまた何かあれば私を頼りなさい。なにせ、雪の認めた男だからね」
そう言って、惣厳さんが大きな手で俺の頭をポンポンと撫でた。
「あ、ありがとうございます……」
とても頼もしいことだ。
でも、この豪腕で、お前なんかに娘はやらんとか殴られなくて良かった……
「よし。これで、ここしばらくの間に起きた出来事については全て収まったということで良いだろう。今回はこれでお開きにするとしよう」
そういう訳で、俺の裁きの場になると思われた会合は円満に終了した。
結果的に雪との交際は両家にも認められたようで、これからは気兼ねなく雪と付き合えそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます