【AREX】アプデ来たから久々にちゃんぽん食う【アルフォンソチャンネル】

 今日の配信はAREXだ。


 三人一組のバトルロワイヤル。俺にとっては初めてのFPSで、大きな転機になったゲームだ。

 まだ、登録者が二桁しかおらず、始めたてでプレイスキルも最低だった頃、俺はこのゲームで暴言を吐きながらプレイしていた。


 すると、『本職のくせに弾も当てられないクソザコマフィアがかわいすぎる』という切り抜きが上げられたのだ。

 この切り抜き動画、アルフォンソの見た目と、プレイの悲惨さと妙な語彙のセンスとのギャップがよくまとめられていると評判になり、アルフォンソの名が一気にトレンド入りしたのだ。


 そして、いまいち方向性の定まっていなかったアルフォンソのキャラが、『口先だけの三下イキリマフィア』に定着した瞬間であった。


 投稿者は、その切り抜きしか上げておらず、リスナーにも同名の者はいないため、それが誰なのかは結局分からなかった。

 しかし、彼?のおかげで俺は、アルフォンソとして成功を収めることが出来たのだ。


「よし。それじゃ早速、カジュアル回してく。ちゃんぽんとってくぞ」


 ちゃんぽんとは、このバトルロワイヤルゲームの優勝者に与えられる「チャンピオン」という称号の俗称だ。

 プレイヤーのレベルの高いこのゲームで、それを獲得するのはかなり難しいが、立ち回りがうまく噛み合えば、取れなくはない。



【コメント】

:久々のAREX配信来た!!

:今日も三下プレイお待ちしています

:ちゃんぽん耐久配信ですね。12時間は覚悟してます



「おい!! 流石に十二時間は掛からねえよ!! こっちだって知り合いとコソ練してるからな」


 相手は姫宮さんだ。

 姫宮さんの配信練習に付き合う形で、最近は一緒にこのゲームをプレイする機会も多くなっていた。



【コメント】

:知り合いなんておらんでしょ

:嘘乙

:現実と向き合って……

:今月の友達料です ¥7,000



「お前ら今日も冷たすぎて笑うんだけど。それとグラッチェ、スーパーチャット!」


 相変わらず、俺のリスナーは容赦がない。

 しかし、こうしてリスナーとの壁があまりないことが、俺としては逆に心地好い。


「そういや? アプデ今回なにが来たん? パッチノートまだ見てねえわ」



【コメント】

:スピリットオブファイアが弱体化された



「オブってなんだよ。それマ○キンじゃねえか」



【コメント】

:ゴキにゃんがめっちゃ高く崖登りできるようになってゴキブロス感が増した



「草。ゴキにゃんとかゴキブロスとかいい加減、名前覚えてやれよ!!」


 このゲームのキャラの一人でフェニックスというキャラがいるのだが、全身が機械で出来ているせいで、ゲーム内で崖登りをすると、カサカサと音を鳴らして登っていくのだ。

 そのせいで付いたあだ名はゴキにゃん、当然元ネタは家の床を這う、黒い彗星のGだ。



【コメント】

:ワイの推しのヘルスラインちゃんのヒットボックスが大きくなりましたね……



「え、まじ?」


 このゲームで、当たり判定が拡大されるということは、それだけ被弾しやすく死にやすくなるということだ。

 なかなか致命的な調整を食らったものだ。


「てかヘルスラインがオデブラインになっちゃ、まずいっしょ。キャラの個性潰れるよ。さっさとヘルスケアしてこい」



【コメント】

:オデブラインは辛辣で草

:まあ元が小さすぎて対面最強だったから

:運営にむりやり太らされるヘルスラインたんかわいそうすぎる



「むりやり太らされるのはウケるな。ピピーッ!! その身体の小ささはレギュ違反です。毎日三郎くって増量してくださいとか強制されたんか?」



【コメント】

:前も太らされたキャラおるし、このゲーム闇しかない

:前に走り方、強制的に変えられた人もおったね



「ああ、いたいた。三十過ぎてその走りはイタイからって運営に走り方矯正された人ね」



【コメント】

:草

:運営過干渉すぎるでしょ

:ところで、今度新しくデビューする猫西さん知ってます?



 おや、コメントの流れが変わったな。

 猫西さんというのは、十中八九猫西ゆずだろう。



「ああ、そうそう。少し触れようと思ったんだけど、俺のママの春奈れいさんが、新しくデビューする新人の子、担当するんよ」



【コメント】

:ママが同じなんだ

:めっちゃ可愛い子だった。ほんま美人一家やね

:知り合い?



「いや、知り合いじゃないから。ママが一緒ってだけね」



【コメント】

:初配信同時視聴枠あります?

:ついにアル様の初コラボ来るのか?



「さすがに同時視聴枠は取らんって。コラボは……分からんな。どうやったら人とコラボできるのこの業界? なに、俺以外、みんななんかの繋がりがあるの? 個人勢でも、コラボしてる人結構見るよね? 俺声掛かったことないんだけど。えっ、俺だけハブられてる?」



【コメント】

:この界隈に知り合い一人もいないってマジ?

:業界でもハブられるアル様かわいそうすぎる…… ¥23,000



 あれ? コラボってどうやるんだ?

 猫西ゆずのデビューは間近、姫宮さんはコラボしたい、俺も別にコラボしていいと思っている。

 でも、コラボってどういう流れで、コラボになるんだ?


 姫宮さんのデビュー後にどうすればいいのか、よく分からないまま俺は配信を続けていく。




*




 配信を終えてからしばらく後、一通のメッセージが俺のスマホに届いているのに気付いた。

 どうやら配信中に送ってきていたようだ。


 ――どどど、どうしましょう……アル様に認知されてしまいました!?


 まあね。なんたって、デビュー前から知ってたからね。


「それは、よかったなっと」


 そう返信すると、即座にメッセージが返ってきた。

 その間、わずか数秒、スマホの前で待機してたのってぐらい早いな。


 ――よくありません!! アル様に認知されたら緊張してどうすればいいか分かりません!!


 ああ……確かに姫宮さんならそうなってもおかしくない。

 大勢の知らない人間の前で話すのだって緊張するのに、推しが見てるかもしれないって思ったらなあ……


「今更言っても仕方ない。もう配信まで、一週間切ってるぞ。姫宮さんならうまくやれるはずだから、自分を信じて頑張れ」


 俺は励ましのメッセージを送る。

 実際、ヘタレな姫宮さんだったが、ここしばらく一緒に練習してた限りでは、小気味いいテンポで話せてるし、その調子でやれば、初配信は問題なくこなせるはずなのだ。


 しかし、その直後、とんでもないメッセージが飛んでくるのであった。


 ――初配信の日、一緒にいて緊張を紛らわしてください。


「は……?」


 その一言に俺の頭は完全にフリーズするのであった。


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