第16話 特訓
春奈れい@rei_haruna
お久しぶりです! この度、新人VTuberの猫西ゆず(@yuzu_nekonisihi)さんのキャラクターデザインを担当させていただきました。初お披露目は12月24日ですので、ぜひご覧ください!!
猫西ゆずのアカウント作成からしばらくして、母さんが宣伝の引用RTを行った。
瞬く間にそれは拡散され、現在のRT数は三千を超えた。
これは破格の数字だ。
なにせ、宣伝ツイートは拡散されない傾向にある。
イラストが載ってないからか、そもそもTLをちゃんと読んでないので人の目に付かないのか、他人の宣伝を広めることに抵抗があるのか、理由は定かではないが、とにかくイラストを投下した時に比べてその拡散数は、一桁も二桁も少なくなる。
しかし今回、母さんはかなり気合いを入れた猫西ゆずのイラストを仕上げて投下したのだ。
そしてそのイラストのツイートにぶら下げるように宣伝ツイートも投下。
イラストの方は三万RTに到達し、おかげで宣伝ツイートも相応に伸びていったのだ。
事前の注目度はばっちり、あとは初配信で猫西ゆずの魅力をアピールするだけだ。
だというのに……
「あわわわわわ……や、辞めます!! やっぱり、初配信辞めます!!」
当の姫宮さんは、プレッシャーのあまりすっかりポンコツになっていた。
「今更なにを言ってるんだ。せっかくモデルだってできたのに。作ってくれた二人の努力を無駄にするつもりか?」
「そ、それだけはダメです!! でも、こ、こここ、こんなにRTされて……一体、どうすれば……」
母さんの宣伝でRTは大幅に増え、個人勢としてはこの上なく恵まれたスタートダッシュだ。
しかし、それ故に初回配信へのハードルが高くなってるのは確かにその通りではあるのだが。
「声が変って言われたらどうしよう……オタクキモいって思われたらどうしよう……ゲームが下手だって呆れられたらどうしよう……トークがつまらないって叩かれたらどうしよう……」
うーん、これは想像以上のヘタレだ。
普段は自信に溢れた様子を見せるものだから、ここまで打たれ弱いとは予想外だった。
「心配しすぎだって。姫宮さんの声は綺麗だから大丈夫だ……」
「な、なな、なにを!? 人の弱みにつけ込んで口説こうとしてるんですか!? また今度にしてください!!」
また今度ならいいのかよ。
しかし、どうしたものか。
俺も、初配信はかなり緊張したが、あの時の俺は学校を追われて失うものがなにもない状態だった。
だから、何も気負うことなく、無我夢中で配信をやり通せた。
しかし、彼女は別に背水の陣って訳じゃないし。
「うーん……」
俺はあれこれと思案する。
一体、どうすれば彼女の緊張を解けるのか。
「あ……」
そうしているうちにひとつ、名案が浮かんだ。
「やはり何事も練習が一番だな。姫宮さん、自分が猫西ゆずになったつもりで、ゲーム実況してみよう」
「は、はい……?」
*
「ど、どうもー。バーチャルアイチューバー、猫西ゆずでーす……」
「声が小さい!!」
「は、はい……!!」
ということで、俺は一度家に戻ると、ボイスチャットを繋ぐのであった。
「初配信は少し緊張してるぐらいの方がウケはいいけど、かといって声が小さすぎたら即ブラバだからな。声量は意識すること」
「どうもー。バーチャルアイチューバー、猫西ゆずです。今日はアイチューバーの間で大流行している、AREXをプレイしていこうと思います」
それからタイトル画面からゲームモード選択画面、キャラクター選択画面、試合前の待機画面と遷移していくのだが、その間、姫宮さんはずっと黙り込んでいるのであった。
「こらこら、無言時間が長いって。初めての頃は、なかなか話しづらいだろうけど、こういった無言の時間があると、見てるリスナーが退屈になるのはもちろん、たまたま覗きにきたリスナーが興味を惹かれなくて帰っちゃうから、些細な話題でもいいからなるべく話すようにするんだ」
「些細な話題……」
「どんなキャラクターが好きですかとか、どんな武器が好きですかとか、とにかくリスナーが乗りやすい話題を提供すれば、向こうが色々と話を繋げてくれる。今日は俺がリスナー役をするから、試しに聞いてみるんだ」
「え、えっと、リスナーさんはどんなキャラが好きなんですか?」
――断然、バブラルタル。
今度はチャットツールにテキストを打ち込んでいく。
「バブラルタル使いなんですか? すごいですね。あのキャラ、ヒットボックスが大きくて私、苦手なんですよね……ドームとか爆撃とか、うまく使えればとても強いキャラなんですけど」
「いい感じじゃないか。そうやって、リスナーのコメントを広げていけば、自然と無言の時間も減るはずだ」
その後も、俺はあれこれとコメントをしていく。
――好きな食べ物はなんですか?
「辛いものが好きです。モンゴルラーメンとか特に好きで、最上級の辛さを誇る極星ラーメンにハマって一時期毎週のように食べてましたね」
――好きなアニメとかゲームありますか?
「ゲームの方ですと、アイプレ……アイドルプレデターシリーズですね。リリース当初からやってる気がします」
――アイプレだと誰推しですか?
「断然、白銀月華(しろがねつきか)推しです!!」
「姫宮さん、月華(つきか)推しなのか?」
思わず口を挟んでしまった。
月華(つきか)といえば、アイプレ一悲惨な家庭環境を持つ子だ。
幼い頃から、英才教育という名の詰め込み教育を施され、親の言葉に一切逆らうことは許されず、不興を買えば容赦ない折檻を受けるという過酷な環境で育ってきたという設定だ。
プレイヤーの分身であるプロデューサーに出会ったことで、アイドルになるという生まれて初めて見付けた夢を叶えるために奮闘するというのが彼女のストーリーの流れで、アイプレシリーズでもなかなか人気の高いキャラのひとりだ。
「え、ええ。彼女に一目惚れしたのが、私がアイプレシリーズにハマった切っ掛けですから」
姫宮さん、アイプレまでカバーしてたんだな。
想像以上に幅広い。
「ともかく、練習としては上々だな。まだぎこちなさは残るけど、それなりに緊張は解けてきたんじゃないか?」
「あ……そうですね。初配信になったらどうなるか分からないですけど、さっきよりは少しマシな気分です」
「それなら良かった」
さっきのネガティブスイッチが入りまくった状態の時はどうしようかと思ったが、これならなんとかなりそうだ。
「本当にありがとうございます。また、色々と助けてもらって。オタクくんには感謝してもしきれないです」
「気にしないでくれ。初配信まではしばらくあるし、この調子で人前で喋ることを意識した練習をしていこう。俺も手伝うから」
「はい!!」
初配信まで、残り一ヶ月ほど、俺たちの最後の追い込みが始まった。
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