第12話 そのイラストレーター俺の母親なんだけど

「と、ということでですね、今回は姫宮さんのモデルをどうするか決めていこうと思いまひゅ!!」


 開幕キョドりまくってしまった……


「なんで敬語なんですか? あと、噛みましたよね?」

「姫宮さんもでしょう? 噛んでません」

「オタクくんは、そういうキャラじゃないですよね?」

「…………それは」


 そう言われたらそうだ。俺はどちらかというと言葉遣いが乱暴な方だ。

 だけど、仕方ないじゃないか。


「なにかありましたか。なんだか目の下にクマもできてますし」

「まさか、なにもないよ」


 嘘だ。ありまくりだ。



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ゆず猫

¥1,200

自分もお出かけでした。ずっと会いたかった人と遊べた

ので楽しかったです(*^_^*)

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 あれから、ゆず猫さんのあのスパチャが、ずっと頭の中で反芻していた。

 ずっと会いたかったとか、楽しかったとか、そんな些細な言葉の一つ一つが胸に刺さった。


 一体、あの言葉に隠された意味はなんなのか、俺のことをどう思ってるのか。

 それが気になりすぎて、一睡も出来なかったのだ。


「姫宮さん……………………」

「なんですか?」


 ダメだ。

 なんて聞けばいいのか分からない。


 ――やあ、姫宮さん。噂に聞いたんだけど、君がゆず猫さんだって本当?


 それとも……


 ――ねえ姫宮さん、俺のことどう思ってる? ライクじゃなくてラブの意味で。


 キモすぎる……というか、なんで俺の脳内再生だと、微妙にチャラ男風になるんだよ。


「なんでもないです」

「また、敬語。変なオタクくんですね」


 ああ、変だよ。

 もう、ずっと変だ。


 学園一の美少女、クールな"氷姫"、でも俺の中じゃこいつは、ちょっと毒舌でどこか抜けてる、気の合う女の子・姫宮雪だ。

 ずっと彼女のことが気になっていた。

 だけど、婚約者がいるからと、ずっと自分の気持ちを誤魔化してきたんだ。


 なのに、本当は草加と結婚したくないとか、俺と出掛けて楽しかったとか、ずっと会いたがってたとか、そういう言葉を聞いて、期待するようになってしまったのだ。

 誤魔化しが利かなくなってしまったのだ。


 ああ、変だ変だ。

 恋愛市場に参入できない哀れな童貞が夢を見てしまっている。

 これを変と言わずになんと言おうか。


「どうせ変ですよー俺は。それよりもモデルのこと決めようか」


 恋愛クソザコの俺には、どうしたらいいかなんて分からない。

 ならば、さっさと話題を変えてしまうに限る。

 なにせ、これは今までよりもずっとハードルの高いことなのだから。


「モデル……ですか。少し調べてみたんですけど、かなりお金が掛かるんですね」

「そうだな。3Dは言わずもがな、2Dだってただイラストを描くだけじゃなく、Live2Dっていうソフトで動かすために、パーツを分けたり、様々な工程を挟む必要がある。そういったところまで任せるなら、相応の費用が掛かるって訳だ」


 VTuberになることの最大のハードルがここだろう。


「まあ、今は無料ソフトで簡単な3Dモデルが作れたり、低価格でVTuber用のLive2Dのモデリングを請け負ってくれる人もいるから、あとは姫宮さんがどうするかだな」


 実際、低価格でもそれなりに上質なモデルを作ってくれたりはする。

 とはいえ、モデルはVTuberのメインの要素だ。

 出来ることなら拘りたいというのがオタク心だろう。


「お金は何とかします。スパチャを少し我慢して……なので、出来ることなら人気イラストレーターに依頼したいなと」


 まあ、姫宮さんの家の財政状況なら、そういった選択肢も出るだろう。


「ちなみに、誰に依頼したいんだ?」

「春奈れいさんです」


 おーっと、そう来たかあ。


「あー、アルフォンソのイラストレーターだな……」


 アルのガチ恋勢である彼女なら、同じイラストレーターに依頼する可能性も十分考えられた。

 しかし、それは極めて複雑怪奇な事態に陥ってしまうのだ。


「ち、ちなみに、第二候補とかは……」

「ないです」

「ですよねー」


 しかし、これはその……少し困ったことになった。


「なにか問題でもあるのでしょうか?」

「……いや基本的にはない。もちろん、自分の好きなイラストレーターに頼むのが一番だ。だが、一つだけ問題があるとすれば……」

「あるとすれば……?」


 そう。イラストレーター春奈れいは、極めて身近にいる。


「その……春奈れいは俺の母親なんだ」

「な、なんだってー!?」


 さあて、これはいよいよ、こんがらがってきたぞ。

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