閑話 見守るものと見張るもの
兄さんの配信から遡ること数時間前、私は見てしまった。
――きょ、今日のお礼です。色々と付き合ってくれてありがとうございました!!
「あ、あわわわわわわわわわわわ…………」
目の前の光景に、私の頭が一瞬でバグる。
本当は兄さんの後を付けて秋葉原まで追いかけるつもりだったが、さすがにそこまでやるのはやりすぎだと思って、駅で兄さんが帰ってくるのをずっと待っていた。
そうしていたら、改札から兄さんが凄く綺麗な人を連れて出てきたのだ。
「え、えらいものを見てしまった……」
学年は違っても、噂は耳にする。
学園一の美少女、通称"氷姫"。
そのクールな雰囲気と、誰もが目を奪われる容姿から、学園中の生徒の憧れとなっている人だ。
それ故、婚約者がいると知りながら、告白するものが後を絶たないという。男女問わず。
「どうして兄さんが、あの姫宮さんと……?」
正直、理解が追いつかない。
姫宮さんといえば、学園カーストの頂点に君臨する人だ。
一方、兄さんはカーストとしては下の下。
接点があるとはとても思えないのだ。
「そ、そそ、それに、あんな風に手を握って……? あわあわあわあわあわあわあわ……」
確かに兄さんには、魅力がたくさんある。
自分よりも他人を優先できる心根の優しさを持ち、他人が助けを求めれば全力でそれを助け、胸の奥には熱いものを秘めている。
しかし、見た目の暗い雰囲気とオタク趣味から、誰にもそれは理解されないのだ。
「二人の間でなにが……? なんなの? なにが起こってるの!?!?!?」
正直に言って、二人の間柄はとても親密そうに見える。
特に姫宮さん、あの人は兄さんに対して距離が近すぎる。
急に兄さんに駆け寄ってその手を握るなんて、普通の女子なら気持ち悪いとか言って抵抗感を見せるのに……
兄さんの人柄を認めてくれているのならとても嬉しいけど、でも、兄さんでなくてもいいじゃない!!
姫宮さんならきっと、もっといい男が見つかるはずだ。
婚約者のなんとかって人は論外だけど……
「どうしようどうしようどうしよう……このままじゃ、兄さんが……」
そして、もう一つ、私にはどうしても気がかりなことがあった。
これを見過ごせば、きっと兄さんに恐ろしいことが起きる。そんな予感がするのだ。
「チッ……雪、どうしてあんなカス野郎と手なんか握ってるんだ……!!」
向こうは気付いていないが、私の視線の先では、一人の男が佇んでいた。
金髪の、一般的には爽やかなイケメンと称されるであろう容姿。
そう。私の兄さんを、徹底的に追い詰めた全ての元凶にして、姫宮さんの婚約者、名前は忘れたがあの忌々しい男が、憎悪の視線を兄さんに向けていたのだ。
「はわわわわわわわわわわわわわわわ……………………」
兄さんと親しげに話す"氷姫"、その兄さんに敵意を露わにする婚約者、目の前の事態が受け入れられず、私の視界が真っ暗になっていく。
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