第197話 論功行賞2

 その後、木村方についた大名に与えられる恩賞が決められていった。


 吉清には、以前返上した石巻と伊達政宗の旧領を合わせ、73万石が加増された。

 また、海上交通の要衝を抑えたいとの思惑から、関門海峡を囲む長門と豊前を含む27万石が加増され、合計100万石の加増となった。


 島津家には島津義久が当主となる島津宗家の他に島津義弘を当主とする分家を新たに興させ、安芸に12万石の領地を与えることで決着がついた。


 同様に、真田家も昌幸に信濃40万石を与え、信繁には甲斐10万石が与えられることとなった。


 前田利長は弟の利政の石高と合わせ、130万石に加増。

 細川忠興は清須56万石に加増転封され、転封のなかった蒲生秀行は90万石に。

 宇喜多秀家は71万石に加増された。


 鍋島直茂は龍造寺家と分離させ、肥前国佐賀に40万石を加増された。龍造寺家は出雲国松江に8万石で転封となった。


 亀井茲矩は因幡、伯耆を合わせた18万石に加増され、高山国台南の石高も合わせれば48万石となった。


 立花統虎は旧領であった筑前国立花山を加増され30万石に。


 津軽為信は伊勢33万石に転封。

 最上義光は庄内を加増され57万石に。

 秋田実季は24万石に。

 南部利直は15万石にそれぞれ加増された。

 松前慶広は本州に飛び地をもらい10万石の加増となった。


 木村重茲は甲斐から三河32万石に転封。

 浅野長政は越前27万石に。

 長束正家は遠江25万石に。

 前田玄以は駿河24万石に。

 小西行長は肥後50万石に。

 石田三成は若狭国と越前国敦賀を与えられ24万石に。

 大谷吉継の息子である吉治は越後に転封され40万石となった。


 その他、長宗我部盛親は阿波10万石が加増され30万石に、佐竹義宣は3万石加増され57万石に。

 宇都宮国綱は豊後国府中11万石に、大崎義隆は伊予国今治12万石に加増転封、成田氏長は烏山10万石に、織田秀信は美濃国岐阜25万石に加増されるのだった。






 新たに転封される領地が決まると、日本中の大名が大騒ぎとなった。


 改易される大名から城の明け渡しを行ない、家臣や地侍を召し抱え直し、奉行を通して引き継ぎを行なう。


 その上、先の戦いで活躍した家臣に恩賞を渡したり加増をせねばならず、全国の大名たちは多忙を極めていた。


 そんな中、転封もなく奉行でもない大名は、比較的平穏な日々を送っていた。


 その中の一人、最上義光は立花統虎と連歌をしていた。


「ほう……流石は最上殿。聞きしに勝る腕並みですな」


「いやいや、立花殿の返しが上手いからこそできたこと……」


 お互いに世辞を言い合うと、両者に笑みが溢れた。


 義光は教養ある立花統虎と連歌ができることが嬉しく、統虎は大名の中でも一二を争う義光の腕前を目の当たりにできて有意義に感じていた。


「しかし、私たちばかり楽をしては、他の大名に申し訳ありませんな。……今頃、諸大名たちは忙しく動きまわっているというのに……」


「なあに、加増されて忙しくしておるのだ。奴らとて、本望だろう」


 それもそうか。と立花統虎が笑みを浮かべる。


「中でも、木村殿はとくに忙しくしておられるのでしょう? 日ノ本に100万石を加増され、奥州と関門に領地を持った……。

 その上、奉行としての仕事に、新たに作られるという江戸豊臣家の手配までしているというのですから……」


「ふん、あやつは何かと楽をしようとするフシがある……。これくらい灸をすえてやるくらいでちょうどいいわい」


 憎まれ口を叩く義光。


 口振りこそ嫌っているものの、吉清のことは憎からず思っているのだろう。と統虎は思った。


 そんな中、二人の前に聞き覚えのある声がやってきた。


「おう、連歌をやっておるのか。儂も混ぜてくれ」


「なっ……木村殿……!」


 立花統虎の声が裏返り、最上義光が思わずその場に後ずさった。


「な、なぜここにおる! 江戸豊臣家を作るのではなかったのか!?」


「ああ、それは荒川政光に丸投げした。今頃徳川の旧臣を召し抱えておることだろう」


「石巻や関門の統治は……」


「清久と藤堂高虎に丸投げした。元より奥州を治めていた清久に、内政に長けた高虎じゃ。なんとかなるじゃろ」


「城の受け渡しや引き継ぎがあったであろう」


「あれは宗明と四釜隆秀に丸投げした」


「いや、それがなくとも、奉行としての仕事や他の大名の転封の手伝いがあったはず……。他にも豊臣家の政もあったはずでは……」


「前野忠康率いる若狭衆に丸投げした。あ奴らは秀次様の家臣として政務を行なっていたからな。これくらいは朝飯前と……」


「なんと……」


「全部丸投げしおったのか……」


 呆れる義光、統虎の前に座ると、吉清は勝手に席に加わった。


「そう固いことを言うでない。二月近く船に乗り、城に篭っておったのだ……。ここいらで息抜きしなくては、儂が死んでしまうぞ!」


 義光と統虎が顔を見合わせた。


 吉清の代わりに、忙しく働く家臣たちが死んでしまうのではないか……。


 言葉を交わさず二人が同じことを考えていると、外から声が聞こえてきた。


「殿! どちらにおられますか! 殿ぉ!」


 大坂城で何度か会った覚えがある。


 あれはたしか、木村家臣の大道寺直英だったか……。


「む、もう来おったか……。あ奴がここに来たら、木村吉清は来なかったと言って追い返してくれ」


 別室に隠れる吉清。それと入れ替わるように、大道寺直英がやってきた。


「御免! こちらに我が殿はいらっしゃいませんでしたか!?」


 息を切らす直英を見て、義光と統虎は吉清の元に案内するのだった。

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