幕間 借金取り、木村吉清

 秀次事件の際、細川忠興に貸した金。その利子が払われなくなって、一月が過ぎた。


 普段は温厚な吉清も、貸した金が返されないとなれば話は変わる。


 さっそく吉清は細川の大名屋敷に殴り込んだ。


「細川殿はいらっしゃるか!?」


「なんだ、騒々しい」


 ふてぶてしくも吉清の前に顔を出す細川忠興。


 客間に通されると、吉清は本題を切り出した。


「貸した金を返してもらいに参った」


「それなのだが、今は金がないのだ」


 細川忠興は神妙な顔をすると、事の経緯を説明した。


 前田利家の計らいで実入りのいい明遠征軍に入れてもらったこと。

 略奪した量は多かったものの、思った以上に利益が少なかったこと。

 遠征にかかる経費が思いの外高くつき、収支としてはわずかに黒字となったことを話した。


「此度の遠征、当家は損こそしなかったものの、お主の借金にまで首が回らん。まったく……気づかぬ間に略奪で得た利を抜き取られている気分よ」


「…………………」


 略奪で得た利を抜き取った張本人である吉清が押し黙った。


「そういうわけで、此度は見逃してくれ」


「…………そういうことであれば、致し方あるまい。来月まで待ってやろう」


「かたじけない。…………そうそう、せっかく当家の屋敷まで来たのだ。茶くらい飲んでいけ」


「…………わかった」


 罪悪感もあって吉清が了承すると、細川忠興は自慢の茶道具を広げた。


 利休七哲にその名を残すだけのことはある、見事な茶器の数々。


 その中に、見覚えのある茶碗を見つけた。


「こ、これは……!?」


「おお、これに目をつけるとは、木村殿もよほどの数寄者とみえるな。これは立花殿より買い受けた名物よ。

 ……銘こそわからぬが、なんでも……戦場に出ても必ず生きて帰れるという、縁起物らしいぞ」


「それじゃ!」


 突然大声を出した吉清に、細川忠興が顔をしかめた。


「なんだ、大声なんぞ出して……」


「そんな物を買う金があるのなら、儂に利息くらい払えよう!」


「し、仕方あるまい。こいつが俺に使われたいと訴えていたのだ」


 浪費癖の見本のようなことを言い出す細川忠興を見て、吉清は呆れ返った。


「とにかく、これはお主が利息を払うまで預からせてもらうぞ」


「なんてことを……貴様には血も涙もないのか!!!!」


「貸した金も返さぬやつに言われとうないわ!!!!!」


 忠興から無理やり茶器を奪うと、吉清は細川屋敷を後にするのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る