第108話 検地と報告

 明との講和交渉が失敗したことで、再び明征伐が決まった。


 そんな中、吉清のところに使いがやって来た。


「明征伐の軍役を決めるべく、検地をして石高を知らせろ、か……」


 ニ度目の明征伐は、結果として秀吉の死去と共に中止になることがわかっている。


 であれば、消耗を抑えるべく、なるべく軍役は軽くしたいところである。


 高山国はそれなりに開発も進んでおり、最後の検地をした際の石高は60万石となった。


 だが、それより南。ルソンや近海の島々となると、稲作よりもイモの栽培の方が盛んとなっていた。


「……イモが採れる地の石高はなし──無石ということでいいかの……?」


「さすがにそれは通らないかと……」


 浅香庄次郎の反論に、吉清はううむと首をひねった。


 迷った末、亀井茲矩に相談してみることにした。


 吉清だけが過大に申告しては亀井茲矩も損を被り、逆もまた然りである。


 ここは足並みを揃える必要があると思ったのだ。


 さっそく亀井茲矩の元を訪れると、すぐさま本題を切り出した。


「亀井殿はどうするつもりじゃ? 正直に検地をして、石高を知らせるか?」


「検地の結果は正直に申告します。……されど、交易で得た利益は申告する必要はありませぬからな……」


 亀井茲矩に釣られ、吉清も笑った。


「なるほど、一理あるな……」


 亀井茲矩が正直に申告する以上、吉清の申告とあまりに差異が生じては、虚偽の報告をしたのではないかと疑われる恐れがある。


 であれば、検地の結果は正直に報告する他あるまい。


「時に、高山国は温暖な土地ゆえ、三毛作を行えるのですが……」


「…………そこまでは報告せんでよかろう。民たちの蓄えまで奪っては、それこそ酷じゃろうて」


「善政を敷くことで知られる木村殿がそう仰るなら、間違いないでしょうな」


 亀井茲矩が悪そうな顔で笑った。


 三毛作を含めるのであれば、高山国における石高は三倍となり、亀井茲矩の石高は30万。吉清の石高は180万となる。


 額面だけ見れば日本有数の大大名となるが、それだけに負担が大きくなることも目に見えている。


 吉清も茲矩も今回は後方支援が主な仕事となるため、大した武功も見込めず、そうなると加増も見込めない。


 であれば、三毛作で増える分の収穫は申告しないことにした。


「時に、ルソンを含む島々の石高についてだが……」


「報告する必要はありますまい。あれらはイスパニア人が支配する地を、木村殿が上から支配しているだけにすぎませぬ。……であれば、ルソンの石高は木村家とは別の会計とせねばなりませぬ」


 茲矩の説明に吉清は「ううむ」と唸った。


 しかし、だからといって無石で報告しては、ルソンから挙がる収益があまりに少ない。


 余計な疑いが持たれ、再調査となってはやぶ蛇となってしまいかねない。


 悩んだ末、吉清は呟いた。


「……では、運上金として1万貫だけ勘定しておくか」


 そうして、吉清は自身の石高を、石巻、高山国分を合わせて93万石と、亀井茲矩は本州の領土を合わせて11万石と申告したのだった。

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