第75話 関白と鷹狩り

 この日、秀次の誘いにより吉清、政宗、義光、秀忠は鷹狩りに訪れていた。


 午前中は各々山へ散り、午後に各自の成果を見せ合うのだという。


 供を連れて山を歩いていると、さっそく鷹がキジを捕まえてきた。


 吉清はホクホク顔で獲物を仕舞おうとすると、物見に行かせていた小姓の浅香庄次郎が戻った。


「関白殿下の様子を見て参りました」


「おう……で、どうであったか?」


「それが……まだ一匹も捕まえていないとのこと」


「そうか……」


 鷹狩りとはいえ、これはあくまで接待である。


 関白である秀次を差し置いて獲物を捕まえては、気を悪くする恐れがある。


 泣く泣く捕まえたキジを近くの百姓に譲り、吉清は再び野山を歩いた。






 午後。各々の成果を見せ合うべく、秀次、政宗、義光が集まった。


 案の定、政宗と義光は手ぶらで戻ってきていた。


「むっ、木村殿だけでなく、政宗、義光も収穫なしか……」


「お恥ずかしい限りにございます」


「いやはや、面目ございませぬ……」


 政宗、義光が恥ずかしそうにするのを、吉清は冷静に観察していた。


 浅香庄次郎には、秀次だけでなく政宗や義光も監視するように伝えていた。


 庄次郎の報告によれば、二人は何かしらの獲物を捕まえていた。


 しかし、この場にわざと手ぶらで帰ってきたということは、吉清と同じ考えということなのだろう。


(流石は政宗に最上殿……。殿下のお顔に泥を塗らぬよう、気を使ったのだな……)


 吉清が感心していると、遅れて秀忠がやってきた。


「すみません。いい獲物が捕れたもので、遅れてしまいました」


 誇らしげに鶴を見せつけ、秀次が驚いた。


「おお、鶴を捕まえてくるとは……秀忠殿の鷹狩りの腕は大したものだな」


 秀次が褒めると、秀忠が照れ臭そうに微笑んだ。


「いえ、それほどでもございません。鷹狩りは場所や運も関わってきますから。今日は私に運が向いてきたということでしょう」


 のほほんと答える秀忠に、政宗は心の中でツッコミを入れた。


(家康様の嫡男なれど、関白殿下に気を使わせるな!)


「鶴は不老長寿の言い伝えがあるゆえ、縁起物だ。私が料理を振る舞うゆえ、皆で食そう」


 秀次の提案に吉清、政宗、義光が固まった。


 今日は鷹狩りに来るというから集まったのに、料理をするとは聞いていない。


 吉清が小声で義光に身を寄せた。


(料理は伊達殿に任せるよう、最上殿が殿下に進言してくれ)


(なぜ儂が!)


(最上殿は関白殿下の親戚であろう!)


(左様! 木村殿の言うとおりよ!)


 政宗が同調すると、仕方なく義光が口を開いた。


「…………恐れながら、料理は政宗に任せた方がよろしいかと……」


 義光の提案に、秀次が微笑んだ。


「案ずるな。お主ら以外にも何度も料理をしておる。

 ……それに、私の腕前を政宗にも見てもらいたいゆえな」


 秀次から指名された政宗は、ダラダラと冷や汗を流した。


 吉清が政宗の肩を叩いた。


「骨は拾ってやろう」


「うむ。丁重に葬ってやるぞ」


「貴様ら……他人事だと思って……!」


 馴れ馴れしく肩を組む二人を払い除け、政宗は秀次に進言した。


「殿下、木村殿や伯父上も是非食べたいと申しております」


「案ずるな皆の分も用意する」


 吉清、義光の顔が青ざめると、政宗が鼻を鳴らした。


「ふん! お主らも道連れよ」


「くっ……大人しく一人で死ねばよいものを……」


「なんと不義理な甥じゃ……」


 一方、秀次の料理を食べたことのない秀忠は、一人、秀次の料理を楽しみにしていた。


「関白殿下が直々に食事作ってくださるとは……。無理をして来た甲斐があったというものだ」

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