幕間 ルソンでの宗教政策

 樺太、高山国、ルソンを支配するにあたり、吉清は兵を置き奉行を配置することで政治的に支配した。


 港湾を整備し商人を誘致し、銀札により商業を加速させることで、経済的にも影響力を強めた。


 さらなる支配力強化のため、同地に新たに寺社の建立を進めていた。


 また、未だ異国という認識の強い土地で身近な宗教を庇護していれば、その土地に対する帰属を強められると考えたのだ。


 そうして明や畿内の職人を雇うと、次々と寺社の建立が進み、息のかかった僧を送った木村家は宗教的にも力を持つはずであった。


 マニラ奉行、垪和康忠からの報告を読み、吉清は目を丸くした。


「なに!? ルソンでキリシタンが寺を破壊した!?」


「聞くところによれば、イスパニアの宣教師が扇動したとのことにございます」


「やつらのために建ててやったのではないのだぞ!? 儂はかの地の日本人町に住む者に向けて建てたものを、なにゆえ壊すのじゃ」


「はっ、蛮族の神など受け入れがたく、邪神であると……」


「…………これは、どちらが蛮族か、教えてやらねばならぬようじゃの……」


 吉清の命令で、破壊を主導した宣教師を捕まえると、市中引き回しの上打ち首に処した。


 また、反乱する恐れのある地のキリシタンを捕まえると、鉱山開発を進め労働力不足に陥っていた南部家に格安で売り払った。


 そうしてキリシタンへの弾圧を進めつつ、過度な弾圧では反乱に繋がることが懸念された。


 信長を苦しめた一向一揆や、正史における島原の乱を起こしては、最悪改易の恐れもある。


 そのため、木村家ではルソンにおける宗教政策の転換が迫られていた。


 さっそく、マニラ奉行補佐であり商人でもある原田喜右衛門を招集すると、作戦会議が行われた。


「宣教師の影響で、ルソンの民はキリシタンが多く、布教を進めていたイスパニアが依然として力を持っているとのことにございます」


 マニラ周辺では、特にそれが顕著であると言えた。


 かといって、行き過ぎたキリシタンへの弾圧を進めては、一向一揆のように反乱を起こす可能性がある。


 また、樺太や高山国に人手を割いており、ルソンに割ける人員には限りがある。


 統治の安定している高山国から援軍を送ろうにも、人も将も不足しており、水軍力強化に努めた高山国から人員を抜きたくはなかった。


 とはいえ、このままキリスト教化の進んだ彼らを放置しては、統治に支障をきたすことも明らかであった。


 少なくとも、キリスト教の勢力を弱めるべく、段階を踏んで神道と仏教を布教していく必要がありそうだ。


「……やつらの影響が少ない地を中心に、寺社の建立を進めていくか」


 地図上の、キリシタンの少ない地や日本人の多く住む町に丸をつけていく。


 では、その任務を誰に任せようか。

 そう思ったとき、ふとある人物に思い当たった。


「そういえば、新たに召し抱えた者の中に元筒井家の者がおったな……」


「たしか……松倉重政でしたかな」


 古くから大和国は寺社の影響力が強く、大名にとって統治の難しい土地であった。


 筒井家は代々その地を治めており、その筒井家臣であった松倉重政なら宗教の扱いを心得ており、うまく治めてくれると考えたのだ。


「では、あとのことは重政に任せよう」


 吉清は松倉重政の名前には聞き覚えがあった。


(前世の儂の記憶に名が残っておるのじゃ。さぞ優れた者に違いない)


 そうして、松倉重政を派遣しつつ、ルソン統治の骨子となる政策を定めることにした。


 その一つとして、信仰の自由を認める代わりに、神道、仏教徒でない者には人頭税を課すことにした。


 表向きは信仰の自由を保証するものだが、キリシタンであることにデメリットを与えることで改宗を促したのだ。


 また、宣教師の信頼を失墜させるべく、密かに宣教師に金をばら撒き豪遊させつつ、宣教師の腐敗を喧伝した。


 この地で貿易相手を探しつつ、イスパニアの国力を落としたいオランダの協力も大きかった。


 彼らもデマの流布に協力したことで、現地民も「同じ紅毛人が言うのだから」と、流言に説得力が増したのだ。


 こうして、宣教師への信頼が下がっていくのにつれ、寺社の建立が進んでいった。


 時にはキリシタンと対立しながら、ルソンの地では徐々に仏教や神道が浸透していった。


 また、現地民の間で信仰されていたアニミズムと融合すると、ルソン独自の宗教へ変貌していくのだった。

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