オルゴール

エリー.ファー

オルゴール

 オルゴールから音がやってくる。

 品はあるのだが派手ではない。

 派手ではないと人は寄り付かない。

 人が寄り付かなければ品があることに気付かれない。

 音ばかり注目されるけれども、一番はその佇まいだ。

 貴族というか華族というか富豪というか。なんというか。

 とにかくオルゴールというとびしっと決まる。カッコいいのだ。

 でも、お高くとまっているような感じがして、皆とにかく気に入らない。

 もう少しどうにかならないかと思うのだけれど、オルゴールもプライドというのがあるせいで折れることができない。

 誰かが一言、オルゴールに。

 おい、もう少し謙虚になれ。

 そう言ってあげればオルゴールも幾分か楽になったというもの。

 柔らかくはない、いや、むしろがっちりとした雰囲気が多くの人を威嚇する。

 響く音は良いのだけれど、なんともかんとも。

 というのがオルゴールへのよくある評価だった。

 ただ。

 金がないわけではない。

 とにかく困っているというわけでもない。

 評価されていないわけでもない。

 八方塞がっているわけでもない。

 立場も悪くない。

 肩書がないわけでもない。

 仕事がないわけでもない。

 背中を預けられる友人がいないわけでもない。

 支援者がいないわけでもない。

 精神的に参っているわけでもない。

 むしろ。

 先頭にいた。

「僕はオルゴール。こんなに一所懸命になっているのにちっとも評価されない。まるで誰にも相手にされないのは、僕の実力不足だと言わんばかりの雰囲気。いやいや、違うはずだ。本当にいけないのは僕の音を色眼鏡なしで聞くことのできない、聴衆だ。彼らの耳は腐っている。僕の喉が腐っていると思いたがっている。哀れだよ。余りにも哀れだ。こんなに高尚で、こんなに高貴であるのにそのことに気づけない。この世の最も重要なものがなんなのか、そしてそれを養う方法がなんなのかを分かっていないんだ。全く可哀そうになってくるよ。僕の幸せじゃないんだ、彼らの幸せについて彼らが一番分かっていない。誰かが教えてやればいいとは思うんだけれど、やはり周りも同じレベルだから教えてやることもできなくて成長はいつだって後回し、焼き直しの知識で満足するのは世の常だけれど、それでは進歩がないというもの」

「いやいや、オルゴールさん、こんにちは」

「あぁ、どうしたんですか。こんなところで」

「それはこっちのセリフですよ。一体、あなたのようなオルゴールがどうしてこんな場所に」

「嫌味はよしてください。私がここにいる意味が分かるでしょう」

「まぁ、分かりますね」

「なんていじわるなことを」

「まあ、いいじゃないですか。あなたはオルゴールとして完結しています。これ以上ないほどオルゴールです。それでいいではありませんか」

「よくはありませんよ。正直、つらい気持ちですし、毎日が暗く淀んでいます」

「その割には音は綺麗ですが」

「当たり前でしょう。心が濁っているからといって、音まで濁らせてどうするんですか。私はオルゴールですよ。綺麗な音を響かせるのは仕事ではなく、こだわりではなく、真面目にやっているからでもない」

「では、なんですか」

「ただ、できるからです。このレベルより下なんてやろうと思ったってできません」

「はは。それがあなたの自慢ですか」

「今の発言のどこが自慢に聞こえたのですか」

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