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エリー.ファー

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 速報について研究をしている。

 二百年が経過した。

 分からないままである。

 メカニズムというものが分からないのだ。

 自分を知るための速報なのである。

 人は、何を速報と認識し、何をただのニュースであると認識するのか。

 分からないままである。


「すみません、この速報の研究というのは何なんでしょうか」

「たまに出てくるんだ」

「たまに、というのは」

「研究資料が保管されているこの倉庫の掃除をしていると、たまに重要な研究の書類が、この速報についての研究というものに変わっていることがある」

「嘘ですよね」

「本当だ。事実、君だって見つけたじゃないか」

「まぁ、そうですけど」

「人の手によるものではないと、それだけが分かっている」

「いや、人以外に誰がやるんですか」

「ここに監視カメラを仕掛けたことがあってね。ある研究が終了し、その結果を記した書類が運び込まれてここに保管された。その後、私がその書類に目を通しに行くまで、その監視カメラは誰の姿もとらえていなかった」

「はい」

「しかし、見事に書類の何枚かは、この速報についての研究にすり替えられていた」

「あの、その事象の方がよほど研究対象として適している気がするんですけど」

「気持ちは分かる。しかし、これは全く見当がつかないんだ。とっかかりが一切ないものだから、時間を無駄にする可能性の方が高い」

「気持ちは分かりますけど」

「気持ちが分かるなら、ここまでだ」

「分かりました。これはどうするんですか」

「分かるような形で段ボールの中に入れておいてくれ。また別の倉庫に保管する」

「いつか研究するために、ですか」

「もちろんだ。貴重な研究が、変わってしまったこともあったんだ」

「大きな損失ですね」

「そう。でも、どうしようもない。けれど、どうしようもないからといって、何もしなくてよい、ということではない」

「同意します」


 速報について研究をするのは人類のためではない。

 人間の生き方そのもの、つまりはチャクラのためである。

 命などというありきたりなものに、私たちは付き合うべきではないのだ。

 チャクラこそが、人を変えることができるのである。

 人を人として認識せず、一つの物体として冷酷に処理できることが第一条件なのだ。


「あの、博士」

「どうしたのかね」

「これ、なんですか」

「速報についての研究じゃよ」

「で、これが何の意味があるんですか」

「ないぞ」

「ないのですか」

「あぁ、分かったことがあったらそこに書いているだけじゃ。たぶん、人類のためになるようなことは起きないじゃろう」

「じゃあ、捨てましょう」

「いやいや、もったいないじゃろう」

「じゃあ、どうするんですか。もう、ここはいっぱいですよ」

「もったいないからな。どこかに転送してしまうことにしておるんじゃ」

「どこって、どこですか」

「どこかじゃ」

「凄く迷惑な話じゃないですか」

「あはは。その通りじゃな。でも、これはわしにとってはかけがえのない研究なのじゃよ。廃棄することはできんのよ」

「だからといって」

「そういうもんじゃよ。情報というのは、勝手に上書きされる定めじゃ」

「か、勝手に上書き。ちょっと待って下さい、転送ってワープするだけじゃないんですね。なんか余計なことをするということですね」

「まぁ、その色々じゃ、色々」

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