第59話 今日も主導権を握られている



 そんなこんなで一か月が過ぎた。


大治癒ハイヒール


「あ、ありがとうございます!教祖様っ!」

「助かりましたっ!」


 迷宮内に設置されたタブレットから緊急呼び出しを受けて迷宮入りしたところ、大腿部がもげそうになっている帰還者がいたので即座に大治癒ハイヒールを実行した。よく帰還できたな……。


 今では迷宮へ潜った人も100人を超え、迷宮真理教という怪しげな宗教団体も50人を超える規模になっていた。教祖という役割になってしまった自分は、高価そうに見える異世界産の聖職者っぽいローブを身にまとい、異世界への橋渡しと迷宮から帰ってきた重傷者に治療をするお仕事をしていた。ガイドなしにフリーに潜る人も増えてきたので、正直なところ割と暇である。


「会計はあちらでお願いしますね」


「はい!分かりました!」


 大学生くらいの二人組を連れて我が家へと戻ると、クールなアイリさんが淡々と事務手続きを行っている。現地通貨と日本円のトレード、そしてヒーリングマッサージ治療費の請求書だ。ノアさんもヒーラーとして詰めているのだが緊急呼び出しで自分が大治癒ハイヒールを施術したので結構な額が請求されていた。


「先生、現地拠点の候補なんですが……」


 アユミさんとマイさんが兜装備のまま話しかけてきたのだが威圧感が凄い。後ろにいるミーティはまだ子供なので顔はそのままだが、髪の艶などを隠すために鉢がねのような補強の付いた布をぐるぐる巻きにしている。


「その前に兜を脱いだらどうです?」


「最近、兜被ってることに慣れてきました~。化粧いらずで楽ですし~」

「メイク直しが面倒で……」

「オトナ、タイヘン!」


 メイクして兜被るとメイクが崩れて悲惨なことになるのは気づかないフリをしていたが、ついに化粧をやめることにしていたようだ。いやすっぴんでも十分美人さんですけどね。


 翻訳者としてミーティを連れて迷宮街へ行っていた二人だが、そこそこな有力者にようやく会って話ができたらしく複数の拠点候補を持って帰ってきていた。


 迷宮の入口付近はバラックのような長屋に小さな商店が立ち並んでいたのだが、たまにモンスターが出てくるせいなのか冒険者向けの怪しげな商人しかおらずテナント料も安かった。そう言われてみれば新品の武器なんかは並んでいなかった。迷宮で拾ったものを売買しているようで、ちゃんとした武器屋や防具屋は別のところにもあるらしい。


 同じく安いが貧民街はスルー。揉めたし。


 教会の近くと歓楽街付近はそこそこお高い。教会とうちの宗教団体って関係性は大丈夫なんだろうか。スキル取るのにみんな行っているみたいだけど。


「……というか現地拠点って何をするんです?」


「政府関係者から依頼が来ていた異世界調査団の受け入れと、異世界旅行の現地拠点ですね。最近揉め事も増えてきましたし」


「なるほど」


 その前に自分の家をなんとかしたい。隣の部屋を借りようと思ったら議員秘書さん達がすでに空き室を全室借り上げていた。トイレは借りれるとはいえ、ちょっと肩身が狭いのだ。


「通信環境を考えると迷宮入口付近で一箇所は欲しいですね」


 横から口をはさんだアイリさんはどうしてもネット環境を異世界に持ち込みたいらしい。


「電力はどうします?ソーラーと蓄電池のシステムくらいしか選択肢ありませんけど」 

「冷蔵庫は欲しいな~。IHクッキングヒーターもあるといいな~」

「シャワーとトイレも欲しいっす!」


 トイレ! 欲しいけど上水道と下水道から整備しないと無理だよなぁ。わいわいと欲しいものを話し合う女性陣だが、みんなキャバ嬢を卒業して教団幹部入りしていた。



「じゃ迷宮入口付近にするということでいいですよね?先生」


「……いいんじゃないすかね」




 今日も、元キャバ嬢たちに主導権を握られています。





あ と が き


行き当たりばったりで書いてきた異世界いっといれですが、思っていたより沢山の人に読んでもらえてありがたい限りです。

続きもまた書いたりするかもしれませんが異世界侵攻がメインの話になりそうなので、キリのいいこの辺で完結とさせていただきます。

フォローや★ありがとうございました!

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異世界いっといれ 〜失業したので異世界行き来しながらスキルで稼ごうとしていたがキャバ嬢に主導権を握られている nov @9raso

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