第53話 拾い子


「……先生、Tシャツ借りていいっすか?」


「え、はい。……これでいいです?」


「念のため2枚ください。丈が長めので、すいませんっす」


「……はい」


 疲労困憊になったように見えるノアさんが再び少女洗浄中の風呂場へと向かっていった。どたんばたんと大きな音と泣き叫んでいた声が聞こえてきていたが大丈夫なのだろうか……。






「きれいになりました!どうですか?」


 アユミさんに手を引かれ風呂場から出てきた12歳くらいに見える少女は、ぶかぶかのTシャツをまといすっかり顔のブツブツも怪我も治されていた。やや日焼けして小麦色の肌でショートボブくらいの濡れ髪も眼もとび色。東南アジア系くらいで日本にいてももそれほど目立つことはないだろう。髪色ピンクとかじゃなくてよかった。


「治ったんですね」


「お湯をかけると痛がったんでヒールしまくったっす」


 それでノアさんがMP切れの疲れた顔をしているわけだ。そして、ご飯の準備を終えたアイリさんがなぜか今更眼鏡を掛けはじめて思案顔だ。なぜ今更眼鏡。しかも黒縁の凄く地味やつ。地味な服装と相まってとても夜の蝶とは思えない。


「ノアさんMP回復に行きましょう。向こうじゃないとなかなか回復しないので。皆さんは先に食べててください」


「すいませんっす」


 アユミさんから相当お𠮟りを受けたのかダンジョンでひたすらノアさんに謝り倒されながら15分ほどで戻ると、まだ少女はお粥をがっついていた。緊張感は漂っていないのでそれなりになじんでいるらしい。アユミさんとアイリさんは温かな眼差しで少女のお世話をしていた。念のため診断ダイアグノーシスで皆を診てみるが感染も大丈夫そうだった。


 我々もアイリさん作のうま味調味料入り卵粥をいただいた後、聞き取りタイムだ。ホワイトボードを取りだし、お絵描きを交えながら質問をしていく。棒人間におっぱいを付けてもお母さんとは分かってもらえなかったが、ある程度の聞き取りができた。


 名前はミーティ、ミーと呼ばれていたようだ。11歳。父母ともに生死不明で現在住所不定無職。しばらく前から暮らしていた家は家賃が払えず家主から体の関係を求められたため脱走(やや脚色)、野宿しているうちに体調を壊し帯状疱疹を発症。石を投げられたりと化け物扱いをされていたようだ。お粥についてはこんなに美味しいものは食べたことがないと大絶賛だ。アイリさんもにっこり。ちょっと怪しいけど大丈夫かなこの人。


 まだまだ幼いのにこれでもかと詰め込まれた苦難に同情しながらも、とりあえず人攫い扱いはされなさそうだ。親に黙って強制連行はさすがにまずいと思っていたのだが。


「じゃとりあえずミーの服を買ってくるっす!」

「私も行きます!」


 Tシャツ一枚のミーティの身の上話を涙ながらに聞いていたノアさんとアイリさんがミーティに服を買ってあげるべく飛び出していった。


 どこに買ってくるの?ここに?


「寝具も買ってくるようにメッセージしておきますね」


「えっ、ここに?」


「はい。ここに」


 当然のように我が家ここを指定するアユミさんだったが、ミーティの不思議そうに見上げるつぶらな瞳が某消費者金融のチワワを連想させNoと言える雰囲気ではなかった。


「トイレがないのはさすがにまずくないですか?」


「トイレがないのは先生だけです」


 そうでした。自分だけでした。

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