第43話 通信手段


 勝田さんが「近いうちにうちのモンも頼むわ」と言い残して帰っていったところで、アイリさんがやってきた。


「頼んでいた物は持ってきましたか?」


「はい。持ってきました」


 アユミさんが何かを頼んでいたようだ。アイリさんのバックパックから出てきたのは小型のWiFiルーターにLANケーブル。WEBカメラやノートPCなんかも出てきた。


「アユミさん、これは?」


「向こうに設置できないかと思いまして。これ、先生が持っていけば断線せずに持っていけませんかね?」


「ちょっとケーブルだけで試してみましょうか」


 LANケーブルを引きずりながら異世界に潜ると、特に切れたりせずに黒い空間の向こう側に繋がっているようだ。電波が通じていないのは確認していたが、これでいけるなら水道もホースを繋げればいけそうな気がする。トイレは……さすがに厳しいか。


 戻ってみると家のWifiルーターへの接続も完了していた。


「LANケーブル刺せば使える旅行用の安いやつなんです。SSIDとパスワードはこれなんでスマホに登録お願いします」


 意外だ。物静かなアイリさんは機械に強いらしい。あと意外と喋る。マイさんは機械音痴なのか参加せずエプロンを付けて台所で何かしていた。


 次に手のひらに収まるサイズのWifiルーターとシンプルなドライブレコーダーみたいなwebカメラを持って迷宮へ。電源のケーブルも引きずったまま、とりあえず出てすぐのところに置いた。


「先生!いけそうです」


 アユミさんとアイリさんが覗き込んでいるノートPCにはぼんやりと薄暗い迷宮の壁が映し出されていた。webカメラは向こうのWifiルーターと繋がっておりLANケーブル経由でこちらのPCに動画を送っているらしい。床に置いてきたのでそのうち迷宮に飲み込まれたりするおそれはあるが大きな発見だ。


「これなら先生が随行で付きっ切りになる必要がなくなりますね」


 なるほど。向こうから連絡が取れるならば行ったり来たりする部分だけ担当して、複数組を平行で送り出すのも可能になるのか。


「迷宮に飲まれたり、蜘蛛に齧られたり、誰かに盗まれたりは対策しないとですけどね」


「床は少しまずそうですよね……。壁に貼り付けなどを試してみましょうか。蜘蛛くらいであれば鉄の籠にいれるなりで対処できそうですが現地人は問題ですね」


 そんなこんなでとりあえずアルミホイルを丸めたものを両面テープで壁、床、天井に貼り付けて一昼夜置いてみることになった。アイリさんによるとWifiルーターを経由して接続エリアを広げていけるメッシュWifiの機器も普通に売っているらしく、電源確保の問題はあるが迷宮街までWifiエリアを伸ばすことも不可能ではないとのことだった。さすがに延長コードでなんとかできる距離ではないし、向こうで発電するのも容易なことではない。



「それでは仕事の準備に帰ります。今日はマイさんとアイリが担当しますので無理はしないでくださいね」


「……今日もお泊りですか?」


「はい、寝袋持参してもらっています」


「マイは先生と一緒でもいいよ~」


「私は寝袋で」


 小柄なのにエプロン姿が妙に扇情的なマイさんが高リスクだ。アイリさんも普通に帰って寝たらいいと思う。


「教会は昼から行けばいいのでは?夜中は潜りませんので」


「こちらでも何があるか分からないので一応ボディーガードも兼ねてです」


「それはそれで色々危ないというか……一応、男と女ですし」


「大人ですから大丈夫ですよ。ではまた明日」


 何が大丈夫なのか問い詰めたくもあったが、アユミさんは微笑んだまま手を振り行ってしまった。


「先生~。晩御飯は肉じゃがでいいです~?」


「肉じゃがいいっすね!」


 男の一人暮らしに肉じゃがというレパートリーはなかった。思わず釣られたのも致し方ないはずだ。


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