第10話 顧客第一号を捕まえました
「大丈夫です?」
「あ、先生。はぁい。食べたから大丈夫でぇす」
「どもー」
「どうも。はじめまして」
アユミさんのメッセージで指定された繁華街のダイニングバーにはニットワンピース姿のアユミさんと、もう1人のスーツ姿でやや年上っぽい軽そうな男性がいた。とりあえず作りたての名刺を差し出してみる。
「まぁ飲みなよ」
「はぁ」
名刺を一瞥して、まず飲めとのお言葉だ。向かいに座りメニューを眺める。
「ではレモンサワーを」
そういえば酒を飲むのも久しぶりだ。俺はあまり酒は得意ではないので付き合い程度だけだったが今は付き合いすらもない。
男性が店員さんに注文してくれているのを横目にアユミさんを診断してみる。
「
●びらん性胃炎、酩酊
アユミさんの
「あれから病院行きました?」
「美容院行きましたぁー」
「薬とかもらいました?」
「今日はゆるふわ巻き巻きでぇす」
「それじゃねぇって」
男性はそうつっこみ笑っているが笑いごとではない。確かにゆるふわ巻き巻きだが。
●脂肪肝、クラミジア感染症
男性の
レモンサワーがやってきた。
「ではいただきます」
「わー先生かんぱーい」
「よろしくー」
「それでどうします? ⋯⋯ヒーリングします?」
「5000円なんだっけ?」
アユミさんに聞いてみたが男性が値段を聞いてきた。アユミさんはほわほわしている。
「そうですね。胃の痛みの緩和と二日酔いくらいでしたら」
「金はこっちで出すので見せて欲しい」
テーブルに差し出された五千円札に頷くしかなかった。
「……分かりました。アユミさん手を出してもらえます?」
「はぁい」
向かいの席からフラリと白く細い手が差し出される。その手のひらに指を置き、一応ツボを刺激しつつアルコールとアセトアルデヒドを意識しながら小声で回復魔法を唱えた。
「
「……あれ?先生と……統括?」
アルコールの抜けたアユミさんはこちらと隣を見て不思議そうな顔だ。記憶が曖昧だったらしい。
「ほー、すげーな。ホンマもんじゃん。名刺の営業時間は朝から昼までだけど夜はダメなん?あ、これ俺の名刺ね」
シンプルな白の名刺には肩書きに統括店長と勝田重幸とあった。どうやらアユミさんのお店の偉い人のようだ。
「勝田さんですか。よろしくお願いします。夜も応相談です」
「ナイスだわ。アユミ。太客が来たら頼むのありだ。店から半額補助しよう」
「うーん。でも急にお酒が醒めちゃうとテンション変わっちゃいません?」
「そこはキャストの腕っしょ?」
なんでも、勝田さんが経営している夜のおねーさんのお店の売上はお酒代がメインで、売上の優秀なキャストさん程どうしても酒が飲める女性に偏ってくる。そしてキャストさんがもっと飲めるならもっと売上も上がるのだそうな。なので深夜帯の呼び出しが可能かどうか聞かれた。
売上が上がるとキャストの給料も上がるため、アルコール抜き料金はお店と折半にするらしい。給料天引きなのでこちらの請求はお店に一本だ。
「ちなみに呼んだらどれくらいの時間でこれんの?領収書出せる?1日何人できんの?」
勝田さんの質問攻めに遭いながらも、脳内で取らぬ狸の皮算用が仕事していく。
1日2人施術で日給1万円。30日で30万円。あれ、これ美味しくない?勝田さんのところだけで3店舗だそうだが規模を拡げていくのもありだ。
レモンサワーを飲み干す。
まぁそんなに上手くいかないのが世の中だろうが幸先いいスタートになったのではないだろうか。
最後には勝田さんと笑顔でがっちり握手を交わし帰宅した。
帰宅してから勝田さんにメッセージで多分性病なので泌尿器科行ってくださいと伝えると大変感謝された。チャラそうだけど意外と良い人かもしれぬ。
アユミさんからは記憶なくてごめんなさいとメッセージが来ていた。いえいえ、ありがとうございますありがとうございます。
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