第9話 ビジネスの予感がしました



 迷宮6層。杖のように槍をつき、7層への階段を探していた。


 レベルアップには次の敵が必要だ。新しい敵なら1匹、3匹、10匹の計14匹で3レベル上がるが、それ以降が上がらない。蜘蛛やゴブリンなら相当数倒しているはずなのにだ。ここまでくると300匹必要とかでも驚かない。


 それならば先を目指した方が早い。


 行き止まりを引き返し、安全を確認してマッピングボードに書き込む。マッピング用のボードも首から下げるのはやめた。猫ちゃんが素早くて邪魔になるのだ。




「……また行き止まりか」


 広い。平面の蟻の巣のように広がる洞窟は規模感を増していた。行き止まりを行っては戻るの繰り返しで徒労感が強い。



 ——視界の端で疾る影に背筋が凍る。


魔法矢ボルト


 槍の構えも追いつかないのでたまらず魔法矢ボルトで牽制。


「フンッ」


 這うように屈んで避けた猫ちゃんを槍で一突きにした。疲れからか油断からか見逃していたようだ。


 迷宮の中であれば魔法矢ボルトも連発しなければそれほど消耗しなかったことも慢心につながっていたのかもしれない。



 ここまで12個の戦利品。スマホの時計は23時を表示していた。


 汗を拭う。


 小さくて速いのはとても厄介だ。無傷での勝利だが逆に言うと下手な傷を負うとそれだけで死ぬ。集中力が切れれば死ぬ。


「……今日はこのくらいにしとくか」


 未だ7層への階段は見つからない。





 今夜の晩飯は、インスタントラーメンにご飯だ。深夜に自宅に戻った俺はお湯を沸かし冷凍ご飯を解凍する。


診断ダイアグノーシス


 ビタミンC欠乏症は消えていたが、念のため玉子と野菜ジュースを付け加える。人間は炭水化物だけでは生きていけないのだ。玉子もインスタントラーメンに溶き入れるほうが好きだが、ビタミンCは熱に弱いためご飯に生インだ。いつものTKGとも言う。



 あえてメレンゲのようにほわほわにかき混ぜたTKGと柔らかめに茹でた味噌ラーメンを堪能しているとスマホがブルブルと震えた。


「胃が痛いです。治してもらえま」


 アユミさんからメッセージだ。途中で切れているのが不安を煽る。


「伺います。どちらですか?」と返信するとしばらくたってから返答があった。とりあえず倒れたりはしていないようだ。



 一応、外出の準備をしていた俺はお客様第一号のために自転車に跨るのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る