第24話 私が精霊使い!?
「私達はもっとお互いの事を知るべきだと思う。そうは思わないか?」
クレアさんが私の手を取り、真剣な眼差しでそう言う。
「えっと、あの……、お気持ちは嬉しいんですが
……その……。」
このシチュエーションでお互いを知り合うって……つまり、そう言うことなのかな?
クレアさんが、ミアさんの事が好きだったって言うのは昨日初めて知ったんだけど……、と言ってもソッチ系の人って訳でもなく、男の人も女の人も、両方いけるってだけで……。
えっ、何でそんなことを知ってるかって?
昨晩、クレアさんが酒瓶片手に馬車に転がり込んできたのよ、二人がイチャイチャしていて居たたまれないって言ってね。
で、そこで色々聞いたって訳……それはもう口に出すのも憚れるような事まで赤裸々に……お酒って怖いね。
本人は昨夜の事覚えているかどうか知らないけど、朝起きたら普段と変わらず……でも朝食後にいきなりさっきのセリフなのよ。
「急にこんなことを言われて戸惑うのもわかる。しかし先のことを考えると今このタイミングしかないと思うんだ。」
「ちょっと、だからといって……、」
話に割り込もうとしたミュウをクーちゃんが引き止め何やら小声で話し込んでいる。
(ちょっと何で止めるのよ。このままじゃミカゲが……。)
(うん、わかってる。この際だからミカ姉をクレアさんに押し付けちゃおうよ。)
(ちょ、おま……自分で何言ってるか分かってるのか?)
(だからわかってるってば。クレアさんにミカ姉を押し付けて責任とってもらうって事でこのままパーティに残ってもらえば……私達は夜ゆっくり出来るんだよ。丁度クレアさんも今のパーティ抜けるつもりだって昨夜言ってたし。)
(……クー、お前凄いこと考えるな。)
(だって……ミカ姉の事は好きだけど……毎晩抱き枕代わりはイヤっ!)
(……まぁその件については私にも責任あるからなぁ。)
そのような会話がなされているなどとは思いもよらない私は、助けを求めるようにミュウたちに視線を向ける。
「ウン、いいんじゃないかな?馬車の中は今あいてるし、防音もしっかりしてるから、二人っきりで心行くまでお互いを知ってきてください。」
ささ、どうぞ、とクレアさんと私を馬車に連れ込もうとするクーちゃん。
どゆこと?
私クーちゃんに売られた?
ミュウを見ると視線を背けている……ハァ仕方がないか。
「あのですねクレアさん、お気持ちは大変嬉しいのですが、ちょっといきなりすぎるというか……そりゃあ、私は今は男の人とそう言うことしたいとは思わないけど、だからと言って女の人としたいかと言えばそういうわけでもなくて……。」
どう言えば傷つけずにお断り出来るかと考えながら言葉を紡いでいると、クレアさんは怪訝そうな顔をする
「何を言ってるんだ?それにミカゲだけじゃなく他の皆も一緒に……。」
「ココに来てまさかの乱交希望!?」
「クレアさん鬼畜すぎっ!」
「クーちゃんはダメっ!あの子は私がもらうのっ。」
「ミカ姉、どさくさに紛れて何くだらないこと言ってるのっ!」
ここに来てクレアさんはようやく 私たちが何を勘違いしてるかに気付いたらしく、顔を真っ赤にしながら慌てて否定する。
「待て、何か勘違いしているようだが、私が言いたいのは、先日の様なことが起きないようにお互いのパーティの情報をすり合わせようってことだ。」
「あ……。」
クレアさんの言葉を聞いて自分の勘違いに気付いたクーちゃんが顔を真っ赤にする。
そんなクーちゃんがあまりにも可愛かったのでついからかってしまう。
「あれぇ、クーちゃん顔真っ赤だよぉ。何を考えていたのかなぁ……おませさん♪」
私はクーちゃんを抱き寄せながらそう囁く。
「うぅ、ミカ姉だって勘違いしてた癖にぃ……。ミュウお姉ちゃん~~……。」
クーちゃんは私の束縛を振り解きミュウのところに走って行ってしまった。
「ところでお互いに情報を開示するって言うけど、それって私らに何のメリットがあるんだ?」
ひとしきり騒ぎが収まったところで、ミュウがそう言う。
確かにねぇ、私達になんのメリットも無いよね。
それに別に何も隠してるわけじゃないから今更って気もするし、全く意味のない話だよね。
そう考えたら急にお腹が空いてきた……さっき食べたばかりなのにね。
でも、元の世界より不便で生活水準が低いはずのこの世界の方が、お腹一杯食べれるっておかしな話だよね……妹達はお腹空かせてないかな?
向こうの世界に未練は無いけど、お姉ちゃんそれだけが心配だよ。
私がそんなことを考えている間にも、ミュウとクレアさんの話し合いは続いていた。
と言うかいつの間にか筋肉さんまで加わって言い争いになっていた。
「だから、何度も言うように私達の情報を開示してなんのメリットがあるって言うのよ!」
「クレアも言ってただろっ、パーティ間の連携を取るためには知っておく必要があるんだよ!」
「だから、何で連携って話が出てくるわけ?そもそもアンタ達はただの見届けでしょうがっ。」
「弱いパーティが危険に晒されるのを見過ごす訳にはいかんだろうがっ!」
「その弱いパーティを危険に晒したのはどこの誰でしたっけ?」
「何だとっ!」
ミュウと筋肉さんが睨み合う。
元凶だったはずのクレアさんは、もはや処置なしと言った体で呆れた様に二人を見ているだけだった。
「あのぉ……。」
「なにっ?」
「なんだっ?」
私が恐る恐る声をかけると、二人に同時に睨まれる……ふぇぇん、この人達怖いよぉ。
「そろそろ、出発しなくていいのかなぁ、なんて……。」
二人が言い争っている間に、白毛さん……ミアさんが野営地の片付けをしていて、すでに出発する用意はできている。
「しかしこのままでは……。」
クレアさんが口を挟んでくる……あー、面倒くさいなぁ。
「私は何も隠してないし、見たまんまだよ。ミュウは獣人の双剣使いで、マリアちゃんは神聖魔法が使えるシスター。クーちゃんは大事な私の可愛い妹、私が色々出来るのは勇者で女神様の加護があるから、それだけよ。それ以上何が知りたいわけ?」
私はそう言ってクーちゃんとミュウを促して馬車に乗り込む。
マリアちゃんはすでに馬車で待機しているので、いつでも出発は可能だ。
クレアさんは筋肉さんと顔を見合わせた後、私達に続いて馬車に乗り込んでくる。
どうやら出発を優先してくれたらしい。
しばらくしてからミアさんと筋肉さんが御者台に乗り込み、馬車がゆっくりと進み出す。
「……なぁ、ミカゲが勇者ってどういうことか聞いていいか?」
馬車内での沈黙に耐えきれなくなったのか、あるいは聞き出すタイミングを伺っていたのか、クレアさんがそう聞いてくる。
「どう言うことなんでしょうねぇ……。」
それは私が聞きたいよ。
私の言葉にクレアさんは困った顔でミュウやクーちゃんを見るが、二人とも苦笑いしているだけで答えようとしない。
「もぅ、しょうがないなぁ……レフィーア、後お願い。」
私はレフィーアを呼び出して後のことを丸投げする。
そしてクーちゃんを抱き寄せ、その頭に顔を埋めるようにして眠りにつく。
『ちょ、ちょっと、ミカゲ……って、もう寝ちゃった……ここで丸投げって、何考えてるのサ。』
「ッ……妖精?」
『初めまして、ボクレフィーア……。』
レフィーアとクレアさんが話しているのを聞きながら私の意識はだんだん遠ざかる……まぁ、レフィーアに任せておけば大丈夫……だよね……。
「ミカゲ、いい加減起きなさいよ。」
ウトウトしていた私の身体がゆすられる。
「ん?もう朝ぁ……。」
「寝惚けてないでシャキッとしなさい!」
「ん~……ふわぁぁぁ~~~……。」
移動中いつのまにか寝てしまったらしい。
今は馬車が止まっているので休憩中、なのかな?
「あん、もう起きちゃうんですか?」
私が身を起こすと、そんな声が聞こえる……マリアちゃんだ。
どうやら私はマリアちゃんの膝枕で寝ていたらしい。
「マリアちゃんの膝枕だったんだ……ゴメンね、重くなかった?」
「いえいえ、ミカゲさんの寝顔が可愛くて……ずっとそのままでも良かったんですよ。」
「そ、そう?……あはは、また今度ね。」
マリアちゃんは本気と区別のつかない冗談をたまに行ってくるからたちが悪い……というか、最近、マリアちゃんはガチでソッチ系の人なんじゃないかと疑っている。
まぁ、シスターと言えば神様にその身を捧げるっていうから、男の人とそういう事をしないんだろうけど……女の人だったら問題ないとか……そんな事……ないよね?
「ところで、ここは?」
まだ何か忘れている気もしたけど、取りあえず気になった事を聞いてみる。
目的のシランの村ではないようだけど……。
「シランの村の近くの森よ。村に行く前に、先に森を軽く調べようって事になったの。」
私の疑問にミュウが答えてくれる。
筋肉さん達は既に森の奥へ入り込んでいるらしい。
「じゃぁ、お昼の準備でもして待っていようか?」
「そうね、私は獲物を狩ってくるからここはお願いね。」
そう言うとミュウは飛び出していった。
「うーん、じゃぁ準備しちゃいますか……って、クーちゃん、大丈夫?具合悪そうだけど?」
マリアちゃんにもたれ掛る様にしているクーちゃんに声をかける。
「ウン、外に出れば大丈夫……。」
そう答えるクーちゃんの顔色が少し悪く見えるけど……酔ったのかな?
まぁ、それならたしかに外に出れば大丈夫だよね。
「じゃぁ、私が準備してるからマリアちゃんとクーちゃんはゆっくりしててね。」
私は馬車の外に出ると、火を熾しお鍋をかけて昼食の準備を進める。
ん~~~、何か忘れてる気がするんだけどなぁ……。
準備しながらも、何かが気になって頭から離れず、モヤモヤする……っと、その時閃く。
「そっか、こういう時の為のレフィーアじゃない。」
私はレフィーアを呼び出す。
レフィーアに聞けばこのモヤモヤの正体が分かるかもしれない。
『……はぁ、今度は何?』
何故か疲れた様子のレフィーア……何かあったのかな?
「えっと、……私が寝ている間に何かあった?……何か忘れてるような気がするんだよねぇ?」
『…………ねぇ、ミカゲ?』
「ん?」
『アンタ、だんだんおバカというかポンコツになってる事気づいてる?』
「……どういう事?」
『……はぁ、まぁいいわよ。クレアに説明丸投げしたの覚えてる?』
レフィーアお言葉に私はしばし考えこむ……。
「あぁ~!」
私はポンと手を打つ。
思い出したよ、確か説明がめんどくさくてレフィーアにお願いしたんだっけ。
そっか、気になってたのはこれだったんだ。
「で、結局どうなったの?」
私は気がかりが解消されてすっきりとした気分でレフィーアに聞いてみる。
『そのまま説明したけど、私が女神って事は信じてないわね。どうやら私はそれなりに力のある精霊で、ミカゲは精霊使いって事で勝手に納得してたから、そういう事にして置いたわよ。』
「精霊使いって?」
初めて聞く言葉に、問い返してみると、レフィーアは仕方がないなぁというように説明をしてくれる。
『この世界にはねぇ、わらゆるところに精霊が宿っているのよ。水のある所には水の精霊が、森には森の精霊が、風の吹くところには風の精霊が……というようにね。』
ここまではわかる?とレフィーアが聞いてくるので私は頷く。
『その精霊たちの力を借りて魔法を行使するのが『精霊使い』よ。正確には魔法と違うのだけれど、説明が面倒だし、結果は一緒だから魔法と一括りにしておくね。』
「ふんふん、それで?」
『精霊にも階級があって、上位精霊ともなると私達女神に近い力を扱えるわけだけど、当然人の身でそんな力が制御できるはずもなくて、そんな中で編み出されたのが『精霊合体』という秘術なわけ。これは簡単に言えば、一時的に自分の身体を精霊に明け渡してその力を振るってもらうってものなんだけど、精霊との親和性がかなり高くないと成功しないし、そもそも術者の能力以上の力は扱えないから、過去の優れた精霊使いでも上級精霊の力を50%制御した位のものね……まぁ、上級精霊の50%なら、対抗できるだけの力を持つものは少ないんだけどね。』
「ふーん、それで?」
なんかよく分からなくなってきたので、軽く聞き流す。
『それだけよ?クレア……というより、ミアって子がその手の話に詳しくて、ミカゲの力はそれだと思ったみたい。』
「違うの?」
『違うわよっ!私は女神って言ったでしょ?神降ろしをしているならともかく、私があなたに与えているのは加護と導きの力だけよ。』
「導きの力?」
聞きなれない言葉に思わず問い返す。
『最初に説明したでしょ。あなたが本来……将来に持つはずの力……可能性を私の力によって導いてあげてるの。だからあなたの能力は今現在よりは跳ね上がるけど、それは貴方が行きつく先に得る力であって、それ以上のものじゃないの……分かる?』
「うーん、よく分からないけど、能力の前借りって事?」
『まぁ、そういう認識で構わないわ。あと勘違いしないで欲しいんだけど、あくまで「可能性」だからね、修行や勉強をサボっていたら当然使えないからね。』
「え?そうなの?」
レフィーアと一緒になった時に使える魔法はほっといてもそのうち使えるようになるんだとばかり……。
『当たり前でしょ!』
「でもクリーンドライの魔法はすぐ使えたんだけど?」
あの魔法を覚えるために特別何かしたわけでもないし、どういう事なんだろうね。
『はぁ……あなたの力は元々あの魔法を使えるぐらいはあったって事、ただ使い方を知らなかっただけで。私と一緒に使った事であなたは使い方を覚えた、元々扱えるだけの能力が備わっているのだから、使い方さえ覚えれば私の補助なしでも使えて当たり前でしょ?』
レフィーアが呆れたようにいう。
『魔法に関しては私と一緒に行使することで、あなたの身体がその魔法の扱い方を覚える練習にもなっているからね、瞑想と発動の練習をすればどんどん新しい魔法を覚えていけるわよ。』
「そうなんだ、いい事を聞いたよ。」
『まぁミカゲは魔法の練習よりも剣術とか体術の修業をした方がいいかもね……それはそうと、まだ出来ないの?』
レフィーアがご飯の催促をしてくる。
「ウン、後は香草を入れるだけ……ってあれっ?」
袋の中を探ってみても、目当ての香草が見当たらない。
「あちゃぁ……ストック切らしていたよぉ……クーちゃん、マリアちゃん、ちょっとお鍋を見ててもらえないかなぁ。」
いつの間にか、火の傍に来て寛いでいた二人に声をかける。
「ちょっと、薬草とか採ってくるから、その間お鍋を見ててほしいんだ。」
「薬草なら私が採って来るよ?」
そうクーちゃんが言うけど、折角なので私もこの辺りを散策したい。
「お鍋なら私が見てますから、お二人で行ってらしたらどうですか?」
マリアちゃんがそう言ってくれたので私達はその言葉に甘える事にした。
「それで、ミカ姉、どんな薬草が必要なの?」
「ウン、セリビア草なんだけど、他にも目についたものがあったら採っておいて。」
私はそう言いながら、目の前にあったマッドマッシュを刈り取る。
マッドマッシュはエノキに似たキノコで、実は魔物だったりするが、大木の根元や栄養価が高そうな土壌まで自走して根付くだけで、攻撃性があるわけでもないし、一般的にはただの植物の一種として扱われている。
マツタケの様に香りが高く、シイタケの様に旨味成分が大量に含まれているため、最近のお鍋の具材には欠かせない逸品になっている。
シランの村でどんな食材が手に入るか分からないけど、しばらくは採集する余裕もないかも知れないので、この機に採れるだけ採っておこうと思う。
とはいってもお昼の準備している所だからあまり時間を掛けれないんだけどね。
「ねぇ、ミカ姉……何か聞こえない?」
そろそろ戻ろうかという時、クーちゃんがそんな事を言って来る。
「ン……ちょっと待って。」
クーちゃんが指し示す方に耳を澄ませてみる……確かに何か声のようなものが聞こえる。
「争ってるとかそんな感じじゃないけど……ちょっと行ってみようか?」
私は気配感知を作動させて、声の聞こえた方へと移動を始める。
気配感知には、人一人といくつかの小動物の気配が引っ掛かっている。
私とクーちゃんはなるべく音を立てない様にしながら近づいていき、茂みをかき分け開けた所に出たところで、その声の主を見つけた。
「歌……上手……。」
クーちゃんが感嘆の声を上げる。
目の前には歌っている少女と、それを取り囲むようにして集まっている小動物たちの姿があった。
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