第7話 勇者の扱いが酷い!?

『落ち着いタ?』


「うん……。」


『でも、男の人がダメって、前まではどうしてたのサ?世界の半分は男でショ?』


 レフィーアの言葉に、私はどう答えようか悩む。


「事件の後、1年ぐらいはずっと引き籠ってたわ……普通に出歩けるようになったのは1年ぐらい前からよ。」


 私は呟くようにそう言った。


「そう、私は立ち直れたのよ……今はちょっと環境が変わったから戸惑ってるだけで……少しづつ慣れていけば……。」


『ふーン。じゃぁのんびり行こうヨ。あとサポートしてくれる仲間がいればいいって事だネ。』


 レフィーアがそんな事を言う。


「仲間?」


 思いもかけない言葉に、思わず聞き返す。


『そうだヨ。仲間がいれば、ミカゲが街の外にいても、買い物とかお願いできるでショ?』


 ……その考え方は無かったなぁ。


「そのうち縁があれば出来るでしょ。それよりこれからどうしようか?」


『ここから東に行けばラウエルって街があったはズ。そこに向かうのはどうかナ?途中に小さな村もあるシ。』


「それでいいわ、どうせ私には分からないし。」


 特に目的があるわけじゃないしね。


 魔王討伐とか言っても、私自身どこまでそう思っているのか怪しいものだ。


 とういうか、何も知らない女子高生が、異世界で魔王討伐ってところからしておかしいよね?


 そんな事より、まずは落ち着ける場所を探して、身の振り方を考える方が重要だわ。


「ウン、くよくよしても仕方がないよね、前向きにいこ~。」


 私は努めて明るくそう言うと、レフィーアの勧めに従い、東へと進路を向けるのだった。


 ◇


「ねぇ、レフィーア?」


『うん、話をしてる場合じゃないとは思うけど、なぁに?』


「大夫流暢に喋れる様になったね。」


『ウン、ミカゲにツッコミを入れてるうちにね……。』


 レフィーアが遠い目をするが、私は悪くない……筈。


 あれから数か所の村に立ち寄ったが、1日も経たずに追い出される始末。


 ある時は、親切心の行き過ぎで、すり寄ってくるそれなりにイケメンな男の人とか、またある時は、酒場で酔っぱらって絡んでくるオッサンとか……。


 他にも「踏んで罵ってください!」と言って目の前に横たわる変態なんかもいたりしたが、皆私にベタベタと触れてきたところで吹き飛ばしたのだ……ヘンタイさんだけは気持ち悪かったので触られる前に吹き飛ばした。


 その結果、何故か村から追い出される羽目に……何でも最近盗賊団が横行していて、私もその一味だろうと疑われたらしい……ただ自分の身を守っただけなのに解せないわ。


『ミカゲが怖かったんだよ、それこそ盗賊たちと同じぐらい……ね。』


 レフィーアがちらりと周りを見る。


「私だって、ギリギリまで我慢してたわよ……そもそも、普通勇者って言ったら村中で歓迎して歓待するものじゃないの?それなのに盗賊と同じ扱いって、納得いかないわよっ。」


 私の言葉に、とうとう痺れを切らしたのか、周りの男の一人が声をかけてくる。




「ネェチャン、威勢がいいじゃないかよぉ。そろそろ俺達も楽しませてくれよぉ。」


 ケタケタ笑いながら、ジリジリと私の包囲を狭めてくる男たち……そう、私は今盗賊5人に取り囲まれていたのだった。


「ねぇ、レフィーア?」


『ウン、そろそろヤバいと思うけどなぁに?』


「私がこんな理不尽な目にあってるのって、この人たちに責任があるよね?」


『うーん、理不尽なのはどうかと思うけど、今の現状の原因は間違いなくこの人たちだよね……襲おうとしてるし。』


「だよね。って事は責任取ってもらっていいよね?」


 訳も分らず異世界に来て、訳もわからないまま勇者とか言われて、旅をすることになって、なのになぜか理不尽の連続……いくらなんでも我慢の限界だった。


 要するにキレる寸前だったのだ。


「レーフィーア、行くよ!……ディフェンション!」


 私は、杖を取り出し、魔法の呪文を唱えて戦闘形態に変身する。


 ちょうど盗賊たちが飛び掛かってくるタイミングだったけど、私の姿が光に包まれたせいで、飛び上がった私を見付けられずにいる。


「全部、アンタらの所為よっ……『ブラストボム』!」


 私は盗賊たちの中心に魔法を撃ち込む。


「な、なん………ぐわはっ……。」


 男達は何が起きたか理解する間もなく、爆風によって吹き飛ばされる。


「これで終わりじゃないわよっ!……エアロウィップ!」


 目に見えない風が鞭のように男たちを絡めとり、私が意図するままに壁や地面に叩きつける。


「ぐばぁっ……。」


「まだまだまだ…… !」


 私はこれまでの鬱憤を晴らすかのように、盗賊たちに魔法をぶつける。


『そろそろやめておかないと、死んじゃうよ?』


「こんな奴らどうなってもいいのよ。」


 口ではそう言いつつ私は攻撃の手を緩める。 


 キレてはいても、「人を殺してはいけない」と言う日本での感覚が染み付いていたせいか、無意識に殺傷能力の低い魔法を使用していた為に、盗賊に死人は出ていない……いっそ一思いに殺してくれっ、と呟くものはいたが……。


「じゃぁ、持ってるもの全部出して。」


 私は息も絶え絶えになった盗賊達に言うが、何を言われているのか分からないようで、盗賊たちの動きは鈍い。


(動きが鈍いのはミカゲが痛めつけたせいだよね?)


「うるさいっ!……早くする!」 


 私は拾った剣……盗賊の一人が持っていたものだ……で盗賊たちを突っつきながら急かす。


 武器類などはすでに回収済だが、他に隠し持っているとも限らない。


 結局、私は盗賊たち5人を身包み剥ぎ……下着だけは勘弁してあげた、そんなのいらないしね……一か所にまとめる。


「お、俺達をどうする気だ?」


 盗賊の一人が訊ねてくる。


「あなた達のアジトはどこ?」


「あん?そんな……ぐぶっ……。」


 私は有無を言わさず『エアロ・カノン』を叩き込む……威力を落としてあるので、死ぬ事は無いだろう。


「もう一度聞くわよ?アジトはどこ?」


「こ、ここから北へ行ったところの……森の中にある小屋がそうだ……。」


 何度か同じ質問をして、ようやく5人目の盗賊さんが答えてくれる。


「お、俺達をどうする気だ……アジトの場所も喋ったんだ……助けてくれ……。」


 私はこれ以上、この盗賊たちをどうこうする気は無かった……だけど、その盗賊の言葉に、冷静になりかけていた心が、またプツッとキレた。


「あなた達は……助けてと言った人たちを助けてあげたの?」


(み、ミカゲ……怖いよ……抑えて……。)


「ヒィッ!……た、助けてくれ……。」


「そう言って助けを求めた人が何人いたの?あなたは助けてあげたのっ!」


 沸々と怒りが沸き上がってくる……二年前、私を襲った男達……私が何度も、やめて、助けて、と叫んでも厭らしく笑うだけの男達……その男たちと目の前の盗賊たちが被る……。


「アンタらなんか死んじゃえっ!」


(ミカゲ……抑えてっ!)


 どぉぉぉぉぉん!


 私から放たれた魔力が辺り一面を吹き飛ばす。


(ミカゲ、無茶し過ぎだよ……、一瞬どうなる事かと……。) 


「ウン、レフィーアのおかげで何とか抑えた……けど……。」


(はぁ……行くんでしょ、アジトに?)


「ウン、このムカムカぶつけないと気が済まないの。」


(……八つ当たりは盗賊だけにしときなよ。)


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ぐへへへっ、やっぱりいいぜぇ、この女はよぉ!」


 小屋の中に下卑た嗤いが響き渡る。


 ここは盗賊のアジトだ。


 私が連れられてきてから三日目になるが、ここの男たちは食べるか飲むか、連れてきた女の子たちを凌辱するかしかしていない。


 一定時間ごとに、何人かが出ていくのは交代で見張りをしているからだろう。


 この国では排他的な傾向が強く、私達亜人は虐げられている為、好んで亜人の女を抱こうと思う男も少なく、そして幸いにも、あの男たちは亜人好きと言うわけでないらしいので、私は部屋の隅に転がされたまま難を逃れている。


 しかし、それもあのヒューマン種の女性がいるからだ。


 あの女性が使い物にならなくなれば、私にも目を向けて来るだろう。


 私と一緒に連れてこられた女性が三人……うち二人は、既に精神が壊れたようで、男たちが何をしても何を言っても反応しなくなっている。


 きっとあの人も時間の問題だ、と私は思う。


 そしてあの男たちが私に手を掛けた時……それがあの男たちの最後で……私の最後だ。


 私達の種族は誇り高く、敵に辱めを受けるくらいなら自ら死を選らぶ、と、その昔、トチ狂ったご先祖様が種族全体への呪いをかけたらしい。


 耐え難い屈辱を受けたと感じた時、周りを巻き込んで爆発するというとんでもないモノだ。


 自ら発動することもできるが、基本的には自動的に発動する仕組みになっている。


 その為、昔は些細な喧嘩で呪いが発動したこともあったらしい……ホント迷惑な話だと思うわ。


 だから、私達は生まれた時から修行して……させられて?……精神を鍛えてきたんだけど、流石に凌辱されるのは……耐えられないと思うわ。


 気になる事と言えば、あの女の人たちまで巻き込んじゃう事だけど……まぁ、仕方がないよね。


 あ、一人の男がやってくる……私の運命もここまでかぁ……こういうことは出来ればイケメンの優しい男の人としたかったなぁ……。


「グヘヘへ……獣クセエェとおもったけど、よく見ればいい身体してるじゃねぇか?。」


 盗賊の一人が私の服を引き裂き、私の胸が露わになる。


 クッ……でも、まだ、まだ耐えるのよ……ギリギリまで……最後まで足搔いた者だけが救いをもたらされるって、そう言ってたじゃない。


 だから私も、最期まで足搔いて見せる!


「私に手を出すと、全員死ぬよ?」


「あん?何寝ぼけてんだ?」


「私はアレイ族よ?呪いの事知らないの?」


 私は最後の賭けに出た。


 アレイ族の呪いの話は有名だから、これで手を出そうという気が起きなくなれば幸いだ。


 ……しかし、そう上手くいかないのが世間てものよね。


「あん?アレイ族ぅ?なんだそりゃぁ?」


 グヘヘと笑いながら近づいてきた男が私の胸に手を伸ばす……イヤっ、触らないでよっ。


「えへへ……いいもん持ってるじゃねぇかよぉ。たまんねぇぜ。」


 私の胸を、乱暴に弄る盗賊の男……嫌だ、離れてよっ。


 イヤだと叫びながらどこか冷静に事態を見ている私がいる。


 胸だけならまだ耐えられる、だけどそれ以上は……。


 私を弄ぶ男の声に、他の男達がやってくる。


「おっ、たまには亜人ていうのもいいかぁ。」


 そう言いながら私の足を触ってくる……気持ち悪い。


 男達の手が私の身体中を弄ってくる……もぅダメ……もう少し生きていたかったなぁ。


 男の手が私の大事なところを覆う布を剥ぎ取った時、私は死を覚悟した。


 ドッゴォォォォ~~~~~ン!


 爆音が鳴り響き私に群がっていた男達が吹き飛ぶ……ザマぁ……最後に面白いものが見れて……見れて?


 私生きてる??どういうこと?


 あ、でもやっぱりここで終わりかも……。


 空から光の矢が降ってくるのが見える……アレに貫かれるのかぁ……人間どもに蹂躙されるよりはマシかな。


 せめて痛くありませんように……と祈りながら私はゆっくりと目を閉じる。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「あそこね。」


『みたいだね、中に十数人の気配があるよ。』


「分かるの?」


 レフィーアの言葉に私は驚く。


『魔力の流れを見る気配感知だよ。ミカゲも練習すればできるようになるよ……多分。』


 多分かよっ!……そこは断言してほしかったなぁ。


『あ、急いだほうがいいみたい。女の子がヤバい事になってる。』


「ディフェンション!」


 レフィーアの言葉を聞いて私はすぐに戦闘形態に代わる。


「いっけぇ!イグニス・ブラストォ~~!」


 杖の先から飛び出した大きな火の玉が、隠れ家の小屋を吹き飛ばす。


「まだまだいっくよぉ!シャイニングアロー!」


 無数の光の矢が降り注ぎ、逃げ出そうとする盗賊たちを次々と貫いていく。


「更にいっくよぉ!」


(ちょ、ちょっと、ミカゲ、やり過ぎないようにね。)


 レフィーアが何か訴えているが、そんなの知らない。


 私はこのムカムカをぶつけるだけよっ!


「レフィーア、頼んだわよっ……エクスプロージョンッ!!」


 魔法の着弾地点を中心に爆発が起きる。


 ……爆炎が収まった後、そこには大きなクレーターが出来ていた。


(森の中をこんな風にしちゃってどうするのさ?)


「知らないわよ、悪いのはこいつらよ。」


 私は転がっている盗賊たちにパラライズをかけていく。


 さっきのエクスプロージョンはレフィーアに威力を押さえてもらう様に頼んでいたから、余程運が悪くなければ生きている筈……たぶんね。


 まぁ、威力を抑えるというか、拡散したせいで周りはちょっと凄い事になっちゃったけど……反省はするけど後悔はしないわよ。


「……えっと、生きてる?」


 私は縛られて転がされている女の人に声をかける。


 衣類は無残にも引き裂かれ凌辱にあっていたであろうことは間違いない……けど、他の3人に比べたらまだ体が綺麗だったから、ひょっとしたら間に合ったのかも?等と淡い期待を抱いていた。


 ちなみに他の三人の女性は生きてはいたものの精神が壊れていて何の反応も示してくれなかった。


 だから、せめて一人くらいは、と思ったんだけど……。


「ン……私、生きてる?」


 何度か声をかけると、女の子が目を開ける。


「良かった、無事みたいね?どこか痛い所とかある?」


「あれっ?なんで?確か光の矢が降り注いで……。」


「良かった、無事みたいね?どこか痛い所とかある?」


 私は同じ言葉を繰り返しながら彼女を見つめる……アレは夢!と言う意思を込めて……。


「あ、あぁ、うん、大丈夫みたい。」


 私の迫力に気圧されてか、ワタワタと答える女の子。


 流石にその格好じゃ可哀想だろうと戒めを解いてあげようとしたとき、私の眼にソレが入ってくる……大きぃ。


 思わず自分の胸に手をやり、そして彼女の胸を揉む……クッ、手触りもいいなんて……。


「キャッ、いきなり何を……。」


(ミカゲ……気持ちはわかるけど……。)


 クッ……問題外のレフィーアにまで同情されるなんて……。


 一瞬、このまま帰ろうかとも考えたが、胸の大きさに負けたので見捨てた、と言うのはあまりにも格好悪すぎるので、泣く泣く彼女の戒めを解き、勇者の袋から盗賊から剥いだ衣類を取り出してかけてあげる。


「他にないからそれで我慢してね。」


 私がそう声をかけると、彼女は「ありがとう」と小さくつぶやいて服を着る。


 本当は私の着替えがあるけど、サイズが合わないから仕方がない……決して胸元を見て負けた気分になるから出さなかったわけじゃないんだからね。


「後これを……。」


 食料を取り出したところで、クラっと眩暈がする。


 ヤバい……ちょっとやり過ぎちゃったみたい……。


「レフィーア、後よろしく……。」


 盗賊たちは明日までは動けないだろうし、彼女も、流石に命の恩人を襲う事はしないだろう……万が一があってもレフィーアがいれば……大丈夫……。


 私の意識はそこで途絶えた。

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