16話「シルビスの町」

数分歩いたところで、俺たちは森を出た。

そして目の前にあったのは......


「まじかよ......本当に街に出たのか」


「そうみたいですね......」

「ここが私が住んでいる町、シルビスです。」


やっと町に帰って来られたというのに元気がないな。

やはりこの世界では獣人差別があるのか......

あまり連れ回してラトの姿を晒すのは良くないかもしれない。


「とりあえず、宿を探してみる。お前も早く家に戻れよ。」


「あっ、あの......アルラスさん!」


歩き出そうとした俺の粗末な服の裾を掴んで制止するラト。

かわいいかよ。


「一緒に......家まで来てくれませんか......?」


おっとこれは俺に惚れちゃったパターンか?

いやしかし、俺がいくらロリコンだと言っても2次元限定だからなーっていや俺はロリコンじゃねぇよ


「純人と一緒にいれば奴隷か下僕だと認識されて誰もちょっかいを出さなくなるので、出来れば......」


ジュンジン......ジュン人......あっ、純人か。

なるほど。獣人ひとりだと何かされるのは目に見えているがそれが他人の所有物だとしたら別だもんな。

正直ラトを奴隷扱いするのは気が引けるが、仕方ないか。


「いいぜ。家はどっちだ?」


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ラトと共に歩くこと十数分。

視線は集まったが特に何かされるでも無くラトの家まで送ることが出来た。

ラトは泊まっていけと言ってくれたが、家族にストレスを与えるかもしれないと言って断った。

まぁそれは口実で実際は他人の家に泊まるというのが俺にはハードルが高かっただけなのだが。


まぁそんな感じでラトと別れ、宿の確保......はよく考えたら金がないので森の手前で野宿することにした。

『モータス』で作った岩製の箱型テントは周りから見ればさぞ不思議な構造物だっただろう。


そして翌朝。


「んぁ......なんでお前がいんの?」


起きたらラトが俺の横に座っていた。


「あ......アルラスさん、おはようございます。」


「おあようございます。で、なんでお前がいんの?」


寝起きだからか呂律が回りずらい。

てかどうやってこのテントに入ったんだこいつ。

穴は作ってなかったはずだが。


「わ......私、アルラスさんの旅について行きたいんです!」


「いや俺旅とかしてないけど」


そう、俺は旅なんかしていない。

異世界転生にしては街に着くまでがやけに長かった気はするが決して旅をしていたわけじゃない。

ここにギルドがあるならさっさと冒険者登録でもして家を構えるための金を稼ぎたいくらいだ。


「えっ......じゃ、じゃあ、私、アルラスさんとパーティーを組みたいです!」

「もう怯えて暮らす生活は嫌なんです。外を歩けば襲われて物を奪われ、家にいても過剰な税を取られるんです。頑張って集めた素材も安値で買い叩かれるし......アルラスさんと一緒にいれば、奴隷と見なされるのでそんな扱いを受けることはありません。精一杯お役に立ちますから、どうか......!」


「はいはい、泣くなって。お前が俺とパーティー組むとして、家族はどうするんだよ。」


早口でまくし立てながら泣きかかっていたラトを一旦落ち着かせ、説得を試みる。

俺はまだこんな小さい子を守れるほど強くはない。

ラトは魔法が使えるし知識もあるが、戦闘力としては俺と同じくらいだ。

ここまでは幸運にも弱めの魔物にしか出会わなかったが、いつ強い敵と戦うことになるかは分からない。


「家族はいません。昨晩は余計な心配をかけたくなくて言いませんでしたが、親が遺してくれたあの小さな家で1人で暮らしています。」


......1人?

今、1人って言ったか?

こんな小さい子が、1人で、しかも差別に耐えながら暮らしているって?


「はぁ......仕方ねぇな。好きにしろ。ただ、俺は強敵に遭った時お前を守って戦えるほど強くはないぞ?」


「私だって戦えます!......多少は。」

「で、でも、私にはこの子がいますから!」


ラトがそう言うと、彼女の後ろから小さな何かが出てきた。

ラトの相棒を紹介するみたいなセリフとともに現れた"それ"は、どう見てもちっさいアルマジロだった。

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