14話「気配」

森を歩いていると、突然謎の気配を感じた。


「......ん? これは......」


「どうかしましたか?」


「向こうの方から何かを感じる。これは......魔素の塊か?」


「......! きっとそれです、私が見つけたのは!」


「おっ、なら行ってみるか」


どうやら例の気配を見つけることが出来たようだ。

ようやく見つけたその気配に向かって1歩ずつ足を進める。

少し進んだところで、急にラトが静止をかけてきた。


「アルラスさんっ、止まってくださいっ!」


「っと、どうした?」


「今、私にも気配が感じとれるようになったんですが......」

「もしかしたら、悪性の精霊がいるのかもしれません。」


「悪性の精霊......?」


「はい。基本的に精霊は無害なんですが、何かの拍子に魔素を取り込み過ぎると悪性化することがあるんです。」


「それって、さっき俺がやらかしたやつじゃ......」


「いえ、あの時の魔素は全て魔物の出現と私達の魔力補充に消費されていたので大丈夫です。」


「ならいいんだが......あれが例の"気配"なんだよな?」


「はい。それは間違いありません。」


なるほど。だいたい分かった。

どうせあの精霊がラトを街の近くに魔法か何かで転移させたのだろう。

そしてそこにあった森と今俺たちがいる森は全く別の場所にある、と。

それならラトが言っていたことを説明できる。

それを説明すると、ラトも納得したような表情をした。


「だとすると、街に戻るのは難しい、ということになりますね......」


「転移はどうせ気まぐれだろうしな......精霊って俺たちの言葉は分かるのか?」


「精霊にもよりますね......でも基本的に形を成した精霊は会話できると思います。」


なるほど。

なら話し合いを試すことは出来そうだな。


「ラト、俺が先に行って話し合えるか試してみる。もし戦闘になったらここから後方支援をしてくれ。」


「分かりました。気をつけてくださいね。」


そう言って俺は精霊(らしいもの)に少しずつ近づいていく。

警戒されないように、ゆっくり、かつ自然な歩き方で。

できるだけ刺激を与えないように......


「ねぇ、何してんの?」


そうやって近づこうとしていると、唐突に声が聞こえた。

少年......いや、これは女声イケボだな。俺の好みの声だ。

違う違う、声を分析してる場合じゃない。

これは......精霊が話してるのか……?


「聞こえてるよね? 何してんの?」


精霊に困惑された。

不審者に話しかけるような声で話しかけられている。


「えっと......相手が分からないうちは下手に刺激しない方がいいだろ? だからさ......」


「そ、そう、なんだ......」

「じゃあ、向こうに隠れてる女の子は誰だい?」


ちっ、気付かれてたか。

てかこいつ、姿が見えないからどっち向いてんのかわからん。


「何言ってんだ? ここには俺とお前以外誰もいないぜ?」


「しらばっくれてもムダ。私には見えてるよ。」


「ああそうかよ。なら平等にするためにもお前の姿が見たいんだが?」


「ああ、そっか。人間には見えないんだっけ」

「とりあえず、向こうにいる獣人の子を連れてきてよ。」


「ああ、わかっ......た......」


俺の前には、青髪ショートのクール系美少女がいた。

何と表現したらいいのだろう。

「出現した」訳ではなく、『モータス』のように光が集まった訳でもない。

とにかく、そこに少女がいたのだ。

俺は姿の見えない精霊と話していたと思ったら、いつの間にか青髪の少女と話していた。

確実に今まで見た事が無い容姿だ。

なのに、俺は目の前の少女が今話している精霊だと確信している。


かつて俺が学生だった頃にしていたゲームなら正気度のチェックが入っていただろう。

それほどに、俺は動揺していた。

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