3話「粘り強いスライム」
異世界に来て初めての出会い。
それは、あろうことかスライムだった。
「え、えっと...こんにちは?」
もちろん口のないスライムが喋るわけが無い。
謎の検証を済ませた俺はそっとスライムから離れ、『ストレージ』を開いた。
そして、転生特典の武器ー『聖剣シリウス』を取り出す。
それは聖剣の名にふさわしい、透き通るような刃と流線型のフォルムをーーー
していなかった。
「ーは?」
どうなってんの?聖剣だよね?ストレージにも『聖剣シリウス』って書いてあったし。
この剣、どこからどう見ても錆びた鉄の剣だよ?
...などと考えていても仕方ない。
俺はスライムに近づき、異世界デビューの意味も込めて剣を振り下ろす。
「すまないが...俺の初めの経験値になってくれ!!!」
振り下ろした刃は狙い違わずスライムに向かって真っ直ぐに向かっていき、その軟らかい体に食い込む。
しかし、浅いキズこそ付いたものの、その弾力あるボディは切先を捉え、それ以上の烈断を許さなかった。
それにスライム特有の性質で、キズは塞がり、刃を押し返してくる。
「やっぱりか...そう上手くは行かないよな...」
そうだな...
「切れ」ないなら「潰して」みるか?
そう考えた俺はだんだん慣れてきだ動作でストレージを開き、聖剣をしまって『再構成習得スクロール』を取り出す。
《我らが世界の理を統べる女神ノエル、我が声に応じ、力を授け給え。『リコンストラクト』》
先程と同じように読み上げると、スクロールが光と共に消えてなくなった。
これで『再構成』が取得できたはずだ。
スキルの習得とともに使い方も脳にインプットされたようで、どうすればいいのかが当たり前のようにわかる。
「よし、これでも喰らえ、俺の魔法デビューだ!『モータス』!」
『モータス』は物体を移動・転送させる魔法で、『再構成』の一部だ。
そして俺はそのスキルを使って、地下深くの岩の層から一部をスライムの真上に移動させた。
すると淡い光が集まり、形を成すと、1立方メートルほどの大きな岩の塊となってスライムにのしかかった。岩は少し跳ね返るような動きをしたが、すぐにスライムを押し潰した。
すると岩の下から出てきた光が俺の体に吸い込まれていく。なるほど、これがこの世界の経験値か。
もう一度『モータス』で岩をどけると、岩の底にスライムのドロップらしき緑の粘体が付いていた。
「あれっ」
緑の物体を取ろうと足を動かすが、力が入らず倒れてしまう。同時に酷い疲労と倦怠感が襲ってきた。
まさかと思い、ステータスを確認する。
(この世界は念じればだいたいできるようだ)
「やっぱり...魔力がゼロになってる...」
当たり前だ。『超魔力』があるとはいえ、その半分を初めにぶっぱなし、そのうえで女神から授かったスキルを豪快に2回も使ったのだ。枯渇くらいする。
(幸い『ストレージ』は魔力を使わないみたいだ。)
「そういえば...」
ストレージといえば、なにか変なものがなかったか?
もう一度『ストレージ』の中身を確認する。
・『ステータス』習得スクロール
・聖剣シリウス
・聖鎧ノエル
・メモ
「メモ...見てみるか。」
腕を入れてメモを取り出す。
「こ、これは...!?」
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