123話
騎士団や冒険者が街に戻る最中、別れの挨拶をする者がいた。
命を魔力に変換させたフローズンはアスランの手の中で消えかけようとしている。
フローズンを見える者達は泣きながら見守っている。
「アスラン?アスランの気持ちが伝わってきて嬉しいのだけど、私に後悔はないわ。だってアスランやこの街を守れたんだもの」
「状況は分かっている。分かっているがどうしても納得できないんだ。そして、己の未熟さが悔しいんだ」
「なら私の小言を聞いて。アスランの性格は伝わってきてるから良くわかる。でもね、本気で誰かを守りたいと思うなら己の実力を隠さず本気になりなさい。」
アスランはフローズンの最後の言葉を真剣に聞いている。
「はぁ、短い間だったけど楽しかったな。アスラン達と知り合えて新しい物を見て感じて幸せだったなぁ。私の我が儘で宿主になってくれて本当に有り難う。最後にこんな時のためにディーネにいろんなことを伝えておいたの、今後のことも含めて後でゆっくり聞いてね。」
アスランの目元には涙が溜まっている。フローズンの言葉を一語一句忘れないように。
「アスラン、精霊が恋するとは思わなかったけど…大好きだったよ。」
そんな言葉を言い残しフローズンの姿は消えていった。
アスランは己の手の平を見ながら叫んだ。
「いやだ、まって、まってよ。俺も伝えたいことが山ほどあるんだ。お願いだから、消えないで、行かないでぇ~。フロ~~ズ~~~~~~ン。」
アスランの声は虚しくも周り一面に響き渡った。
シクシクと他の者達も涙を浮かべながらフローズンを見送った。
しばし悲しみの気持ちで佇んだ後皆は街に戻っていく。
街では宴の準備がされている。街の人達は帰ってくる冒険者や騎士団にお礼の言葉を伝えている。
もちろん亡くなった者の家族は悲報を聞き叫び声を上げるが、皆率先して亡くなった者の凄さやその者のおかげで街が救われたことを話していく。
それを聞いた子供は悲しみの気持ちから父を誇らしげに想い、絶望から尊敬へと変えていった。
日が暮れ始めたころ盛大に宴が始まっていった。
亡くなった者を見送るように、また亡くなった者が救った街を見せつけるかのように盛大に飲めや歌えのお祭り騒ぎになっている。
街の人達は感謝の気持ちで騎士団や冒険者に食事やお酒をついでいく。
冒険者や騎士団達はこの戦いがいかに凄いことだったかを話して盛り上がっていく。
首領や貴族達も騎士団達を労いに宴に参加していく。
気付けば街の全員が参加しているのではと思うぐらいの凄い人数に膨れ上がっていた。
宴で盛大に盛り上がっている中一人の女性がアスランに話かけてきた。
「宴が盛大に盛り上がっているのには理由がある。まず、宴が安心して行えているのは増援部隊が壊れた東門などを中心に交代制で警備をしているからだ。
次に無償で食べ物やお酒が飲めるからといって宴に来る者達もいるが、分け隔てなく食事を配布していることも要因である。
もちろん物資は大丈夫なのかと心配される声が心配される程だ。
しかし街の備蓄は半分も消費されていない。何故ならば、ナガラ商会が総力を上げて物資を無償で提供してくれているのだから。
そう、ナデル商会はどんな状況になってもいいように、そして恩人のアスランの役に立てるように全力で準備したのだ。さらには戦の勝利報告を聞く前から炊き出しの準備と言いつつ宴ができる準備もしていた。
そんなナデル商会には賛辞の声が木霊する。
次第にナデル商会が訪れる所には奇跡が舞い踊るとまで…言い伝わるようになった。」
アスランは呆れながら一人の女性に返事をする。
「ねぇ、クラリッサ?昔もこんな話があった気がするんだけど…、誰に向けてナレーションを話しているの」
「何を言ってるの寂しそうにしているアスラン君に決まってるでしょ。」
「それを聞いて俺にどうしろと?」
「ナガラ商会の評判はアスラン君のおかげでうなぎ登りだよって言うお礼の言葉よ」
「そう。それはお役に立ててよかったよ…何もしてないけどね。」
アスランはやっとすこし笑みを浮かべた。
「やっとすこしは微笑んだわね」
「心配して声をかけてくれたのかい?」
「いいえ、本当は克を入れに来たのよ。宴で一人だけ悲しみに浸ってんじゃないわよ。クラスメイトやあんたの仲間も気を遣って話しかけたいけど話せないでしょうが。いつものアスラン君なら周りの空気は一番に考えるはずなのに…、何があったか知らないけどこれだけは言える。絶対にアスラン君は頑張った、この街のために戦った者が悲しみに浸ってたら浮かばれるものも浮かばれないでしょうが」
アスランはハッと我に返った。
「本当にその通りだね、有り難う」
こうして悲しみに浸っていたアスランもやっと宴に参加していく。
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