116話

アスランの決死の突破は皆の予想に反して、川の掘りが見える位置に到着していた。


魔物の行軍スピードや人数を考慮して魔法の準備をする。


ハクも川に沿って、魔物を避けながら走り続ける。


そして水の流れが弱まり、小柄な魔物が多い瞬間を察知して一気に魔法を唱える。


「大地を凍てつく極限の世界を、エターナルフリーズ」


流石に氷を変形させるだけの魔力はない。


「アスラン様、魔力回復薬を呑んで追撃しますか?」


「いや、魔力回復薬は飲むがまだ先はあるからこのまま帰ろう。魔物の行軍にスペースが空いたので、帰りは魔物の後ろ離れてついて行こう」


アスランはハクを優しく撫でながら伝える。

「向こうに着くまでもうすこし頑張ってくれな」


ハクは尻尾を振りながら答える。

「ワォン」


この光景を見ているディーネも何処か誇らしげだ。

心の中で「御伽噺のような体験を私がするなんて、人生何が起こるかわからないわね」うふふと笑いながらもアスランを後ろから抱きついている手に力が入る。


その頃、最前線の精鋭騎士団では異変が起きていた。

「団長、前方の魔物の勢いがすこし減ってませんか?」


「何処を見ても魔物ばかりだろ…。うん?確かにすこし勢いが弱まった?」


10分もする頃には皆疑問を感じている。


そんな中ローランドだけは冷静に指示をだす。

「今の内に体制を整えろ。負傷者を後ろに下げて手当てをさせろ」


冒険者サイドでも同じ様にダウティーが指示を出し回復薬や体制を整えている。


そして魔物の行軍が途切れた後ろから、見慣れた姿が見うけられた。


誰もが驚愕し、誰もが歓喜に沸いた。


「うぉ~、あいつら生きていたのか」


「おい嘘だろ?どうなっている」


「え、あの白い狼は…、だって。」


「もしかして敵の行軍が途切れたのにも関わっているのか?」


さらにはいろんな疑問も飛び交っていた。


そんな中アスランはアークを見つけて側に行くと簡潔に状況を伝えた。


アークはすかさず伝達の魔道具を取り出した。

「諸君聞いてくれ。最後の大規模戦略にてすこしの空白の時間ができた。この時間を使ってアイテムの補給や装備の新調、乱れた隊列をいるメンバーで補ってほしい。最後に魔物の群れの残りの数は1/4程度だと思われる。疲労困憊の中だか皆が協力してくれれば何とか街を救える未来が見えてきた。どうか、どうか、最後まで力を貸してほしい。諸君らの健闘を期待している」


その内容を聞いた冒険者や騎士団は諦めかけていた心に熱い火がともった。


すこしの休息でいろんな声が飛び交う中アスランはローランドのところまでやってきた。


ローランドはアスランを抱きしめ泣いていた。

「なんて無茶なことをしたんだ。いつ死んでもおかしくない状況の中…、でも生きていて本当に良かった」


こんな言葉を真正面から言われアスランも戸惑っている。

「ロ、ローランド殿?心配は嬉しいのですが装備が食い込んで痛いです」


「痛いぐらい我慢しろ、本当は心配させすぎたから戻ってきたならば殴ってやろうと思っていたのだが…、生きていてくれて有り難う。そしてこの街のために本当に有り難う」


精鋭騎士団の誰もがこの光景に微笑んでいた。


「話は変わりますが、一つだけお願いがあります」


ローランドはアスランを離して真剣に聞く体制に入った。

「なんだい?この街のためなら何だってするぞ」


「ここで聞いている皆さんは最後の最後まで諦めないで下さい。たとえ足や手が動かなくなっても最後まで足掻いて下さい。お願いします。たとえ絶望的であっても心の中の火は消さないで下さい」


「そんなことか…もちろんだとも。精鋭騎士の誇りと共に誓おう」


「有り難うございます」


そしてついに絶望と言う名の総力戦への戦いが始まっていく。







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