115話

防衛線が始まって6時間が経過。


騎士団、冒険者供に限界が近づいている。

いくらローテーションですこし休めたといえど、全速力で度々走っているようなものだ。ステータスがあり地球とは違うとはいえ限界はある。

特にレベルが低い者やステータスの低い者は立っているのがやっとだ。


さらには防壁に魔物のブレスなどが当たる度後続の魔法部隊が必死に耐えている。

刻一刻と限界が近づき後ろへと下がっていく者が増えた。


すこし休んでは前線へと戻りなんとか耐えていた。

アスランでさえもレベルが上がった魔力で剣に氷魔法を付与してひたすら戦っている。


そんな中ディーネがアスランの元へやってきた。

「アスラン様、ローランド殿からアスラン様だけでも逃げる様に言付かっております。そして、死にゆく俺の最後の頼みを聞いてほしいと。無茶なお願いだと分かっているが、ギリギリまで後ろで足掻いてほしいとのことです」


ローランドはただ単に逃げてほしいと言っても断られる可能性を考え、後方に逃げる口実を作ったのだ。無茶苦茶な内容だとしてもこの街が唯一生き残れる可能性にかけて…。


アスランは考え悩んだ結果、行動することにした。

「わかったよ。悪いけどハクを返してもらうね」


「はい。あ、でも戻るなら一緒に乗った方が…。」


「すこし寄りたい所があるんだ。」


「なら私も一緒に行きます」


アスランはニコリと微笑みながら伝えた。

「死ぬかもしれないけどいい?」


ディーネもニッコリと微笑みながら答える。

「もちろんです。何処までも御供します」


アスランは上空に二発の火魔法を打ち上げた。

「ハク、危険な旅に付き合ってくれるかい?」


ハクはもちろんと言わんばかりに誇らしげだ。

「ワォン」


「じゃあ行きますか。川が見える場所まで魔物を避けながら頼むよ。危ない場面がきたら頼りにしてるから魔法で対処してねディーネ」


「任せて下さい」


「ワォン」


こうして決死の特攻が始まった。


特攻場所は川の掘りが見える位置。時間の経過と魔物が通る度に氷が溶け水笠が減った掘りに上流から最後の水が洪水のように流れだした。


「フローズン解ってると思うけど今のありったけの魔力じゃ表面付近だけしか氷らせれないと思うけど宜しくね」


「任せて」


そして、ハクはアスランとディーネを乗せ、最前線で戦っているローランドを越えて突き進む。


その光景を見た誰もが無謀だ、何をしていると叫んだ。


ローランドさえも叫んだ。

「何をしている、誰もそんなことは頼んでいない…。頼むからこの街を…。」


アスランはローランドに挨拶するように微笑んだだけでもの凄いスピードで駆け去っていく。ローランドの声も微かに聞こえる程度だ。


洪水になった川は魔物達をあざ笑うかのように下流にある深い掘りに流される。

もちろんこの場所にも罠が設置されている。

槍がささる魔物。後ろから大量に流れてくる魔物に圧迫される魔物。

この一連の罠だけでもかなりの数の魔物が死んでいく。


そんな中アスランは必死に剣を振るい命駆けで先に進む。

さらにはアイテムBOXから魔物の嫌がる匂いを投げ捨てて行く。

ディーネは複数の魔物が来た時だけ魔法を放ち殲滅する。


だが敢えて言うなら、一番凄いのはハクだろう。


アスランとディーネを乗せる範囲に合わせながらサイズを変えながら突進している。

ハクの行く先には一本の道が見えているかのように凄いスピードで駆けていく。


魔物の群れでアスランの姿が見えなくなったころ、誰もがアスランは亡くなったと思う者ばかりである。ただアスランの奇跡を目の当たりにしていた者だけは心の中で生きている可能性を信じ続けていた。




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