懐かしき歪な青春

魔法使いに生まれて

僕は帝都生まれの帝都育ちで、自分で言うのもなんだが都会っ子というやつだった。

今だと、シティーボーイとか呼ぶのかな。


出自は平々凡々の平民で、別に裕福な家庭だったわけじゃない。

その代わり、取り立てて貧乏に困ることもなかった。

父母と祖父祖母、それに兄が1人と僕、併せて6人の家族だった。

僕ら一家は帝都中心からはほんの少し離れたところに暮らしていた。

祖父が大の読書家で、2階に大きな書庫を持っていて、僕はいつもそこで本を読み聞かせて貰いながら、仕事に出かけた父や、家事に追われる母が戻ってくるのを待つのが日課だった。

父が休みになると、路面電車や地下鉄でもって都心にあった動物園に連れて行ってくれたのを、よく覚えてる。


さっき、僕は丸っきり平凡な家庭に生まれたって言ったけど、ただひとつだけ特殊だったのはその血筋で、父方の家系には魔法適性の高い者がざらに居た。

実際、僕の父も魔法適性の持ち主で、ガキの時分には夏と冬の2回、魔法教練を受けてたとよく言っていた。

そして、僕にも魔法適性があった。


帝国には、魔法適性法というのがあって、全国民は出生時に魔法適性の検査を受けることが義務付けられていた。

それで、ここで適性があると判断されると、今度は教育省 適性児童教練令とかいう代物が出て来て、8歳から毎年、年2回2週間づつ、合計4週間の魔法教練が義務付けられてたんだ。

その後は、今度は国民兵役法に縛られて、やっぱり同じように年2回教育召集を受ける。

魔法使いの子供って奴は、こうやって8歳から20歳まで12年(徴兵検査で現役入営と決まれば2年の兵役が加えられ14年)もの間、なんだかんだと理由を付けられては軍事訓練を受けさせられる決まりだった。

そのくらい懇切丁寧に教育しなければ、魔法兵というやつは使い物にならない、ということでもあった。


しかもなにが可笑しいって、これだけ大事に教育されて身に着けた魔法能力は、地方人(軍隊では民間人のことをこう呼んだ)としての一般生活じゃ、一切役に立たないってとこだ。

魔法使いが魔法で食って行こうとしたら選択肢は2つしかない、軍人か大道芸人だ、なんてのは昔からよく言われた話で、生活に役立つ能力なんかまるで身に付かない。

そもそも魔法ってのは、そのほとんどが個人では運用できないような体系になってやがる。

その上、魔法を発動させるためには、自己の体内にある体内魔法力のほかに、主エネルギー源とするための地下魔法力が必要となるわけだが、こいつは軍の管理下にあるから地方人では、例え足元に分厚い魔法脈が走っていたとしても利用できなかった。


そういうわけで、魔法使いに生まれるということそのものが、貧乏くじに他ならなかった。

貰えるのはせいぜい僅かばかりの賃金と、ガキの頃訓練後によく配られたアイスキャンディくらいのものだった。


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