魔導装甲武者“ミカゲ・改”

昔話

 そこは日の光さえ届かない、薄暗い地下の研究室だった。

 寿命の切れかけた白熱灯に照らされて、作業台の前に男と少女が佇んでいる。


「いいかい光奈。ここに封じられているのは、ただのエネルギーの塊などではない」


 白衣をまとった男の手は作業台の上に伸びていた。

 そこに据え置かれた円盤状の装置、その縁を指先でなぞっている。


「これは世界を塗り替える力。この世の法則を捻じ曲げ、己が世界を作り上げようとする超古代からの侵略者だ」

「うぅん……?」


 少女が不思議そうに首を傾げる。

 それは彼女が幼いから、というだけではない。男の発想が常軌を逸していたからだ。

 それでも彼女は投げ出さない。なぜならば男は彼女の――


「――おとうさま。この子たちは、そんなにこわくなんかありませんよ?」


 伸ばそうとした少女の手が弾かれる。


「やめるんだ! お前はもうこれに触れてはならない!」

「どうしていけないんですか?」

「こいつらはな、体を得ようとしている。人の形をなぞってな」

「けれどわたしは、ずっとまえからこの子たちと……!」

「だからだ!」


 父親の言葉はいつも難しい。けれどその気迫だけは伝わってくる。

 怒っているのとも少し違った、必死な表情。


「あの光はお前を形代に選んだんだ! これ以上触れ合っているとお前が器にされてしまう! そんなことを許すわけには……っ」


 やっぱり父親の言ってることはよく分からない。

 それでも、注がれる想いの熱さだけは伝わってきた。


「わかりました! 気をつけますね、おとうさま!」


 父親を元気づけるためにそう言った。その頃から誰に対しても丁寧で、穏やかな話し方をしていた。

 昔から変わらないのは、もうそれくらいだった。

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