断章

 屋敷を出た頃には、東の空が白みかけていた。


「もう朝ですね。どうやって帰りましょうか?」

「そうだな……


 なんて相談し始めたところで。


「……うん? 隊長から電話だ」


 ポケットの中で携帯が震える。

 出たくねぇなぁ。

 取り出そうかどうか、迷っているとミーナに叱られた。


「何してるんですかソウハさん! 早く出ないと!」


 いや、分かっちゃいるが気が進まないんだよ。面倒ごとを持ち込んでくるのが目に見えているから。

 けれど、今回ばかりは話が違った。


「なんだ、社長。こんな時間に――」

『――やっと、捕まえたで! 早く戻ってきィ!!」


 そこまで鬼気迫った環の声を、俺は初めて耳にしたかもしれない。


「どうしたんだよ、いったい?」

『敵襲や! あんたがこの前、化け物鳥を叩き落としたやろ? あいつがぎょうさんやってきたねん!』

「ってことは、もう攻め込まれてるのか!?」

『お察しの通りや! いいから、はよ合流しぃ!』


 毎回毎回、なんで、そんなことになるまで話が伝わってこないんだ!

 だが、こうなった以上はもう仕方がない。

 “あいつら”が命懸けで守り抜いたこの地を、くれてやるわけにはいかなかった。


「ソウハさん、何があったんですか?」

「敵襲だ。急ぐぞ!」


 いても立ってもいられなくて駆け出す。そんな俺をミーナは無我夢中で追いかけてきた。


「守り抜きましょう、ソウハさん! 私たちの力で」


 “私たち”か。

 本音を言えば、俺は一人でこの土地を守り抜きたい。他の誰も巻き込みたくない。

 けれど、それじゃあ大切なものを守り通せないから。

 そのせいで、誰かを頼るしかないなら。


「ついてこいミーナ! ここを守り抜くぞ!」

「はいッ!!』


 背中を任せられるのは、こいつらしかいなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る